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因縁 31 お披露目

おやつの時間となり、礼拝堂に町の子供達が集まっていた。

大公と大公妃の警護の関係で、その親には庭で待機して貰う事になった。

大公と大公妃は、礼拝堂に並ぶ長椅子の一番後ろに座っており、その椅子の脇と後ろに騎士が立っており、その前列の椅子に領主と男爵が座り、それを挟むように領主の騎士が二人座っている。

そして礼拝堂の玄関ドアに、全体を見渡すように大公家の騎士団長が立っている。

神像の台座の前に、人形を持った淑女が立つ。

今回は急な思いつきであった為、修道院の子供達は観客側に回っている。

緋色の冒険が、今回選んだ題材だった。

緋色がなかったので赤い鳥、助言をくれるリンゴ、鳥を食べようとするウサギ、薬となる木を根城にしている猿を、庭木から頂戴した枝を、白い布で雲を、それぞれを淑女達が操る。

たまに観客の子供達の所へ、鳥を操る淑女が向かい、助けを求め、子供達はそれに応えて、身を挺したり、鳥を匿ったりし、鳥が薬となる木の幹をはいで持って帰った所で終わった。

子供達が興奮して拍手を送り、淑女達はやり遂げた事に満足そうに微笑んで礼をした。

ミシェールは、ここにシモンが居ない事を、少し残念に思った。

この物語で文字を覚えたのだと、大事そうにミシェールの縫った赤い鳥を撫でていたのを、思い出したのだ。

今、彼がここに居れば、子供達はシモンの赤い髪を、素敵だと思ってくれそうだとミシェールは思ったのだ。

ナンジーがヴィヴィアンナに呼ばれ、そちらへと向かい、何やら話しを始めた。

話が終わったのだろう、ミハエルが立ち上がり、ヴィヴィアンナをエスコートして礼拝堂を出て行く。

領主と男爵も出て行き、町の子供達も礼拝堂を出る事を許される。

そして騎士が出て行き、礼拝堂に残ったのは修道院の面々だ。

「皆さん。お疲れ様。大公妃様から大変満足されたとお言葉を頂きました」

ナンジーの言葉に、淑女達が小さく歓声を挙げ、子供達も我が事のように飛んで跳ねたり、声を挙げて抱き着いたりした。

バザーも終わり、大公一行が去った為に、町民は全員帰っていったので、全員修道院へと戻る。

「皆さん、お疲れ様です」

修道院の前に、シモンが待っていた。

いつもはだらしない騎士服が、ボタンがしっかり止められていて、淑女達と子供達はおかしそうに笑いながら、ナンジーが鍵を開けた玄関をくぐっていく。

ミシェールが、シモンの前に立った。

「閣下に付いていったのでは?」

「俺はお役御免だそうで、置いていかれました。デューさんも薄情ですよね」

シモンが頭を搔く。

その赤にミシェールが視線を向けると、シモンが懐から布を取り出し、頭を覆った。

布の端から赤い髪が覗いていて、オレンジにも、カーキにもその赤は似合っているように、ミシェールには見えた。

「お似合いです」

「ミシェール様に一番に見て貰えて嬉しいです」

顔を僅かに赤らめたシモンに、下から衝撃が来た。

エルバルトがシモンに抱き着いたのだ。

エルバルトがシモンに向かい、右手の親指と人差し指で丸を作って見せる。

「似合ってると、言ってくれてるのですか?」

シモンが聞くと、エルバルトがコクコクと小さく頷いた。

「ありがとうございます。じゃあ、宿屋に戻ります。また改めて来ます。バザーお疲れ様でした」

シモンが敷地を出て行くのを見送り、ミシェールとエルバルトも修道院に入る。

「間違っていないのかしら」

玄関の鍵をかけ、ミシェールは独り言を漏らす。

生まれ持った物を大事にしろ。と言いながら、隠す事を勧めた事は、間違いではないのか?赤い髪を否定しているのでは?と不安になったのだ。

エルバルトがミシェールの右手を握り、ぎゅっと慰めるように力を入れてきた。

「ありがとう」

エルバルトの手を握り返し、ミシェールは食堂に向かった。


翌日の昼食後、ミシェールとエルバルトは対面室に呼ばれた。

向かった先に居たのは、座っているミハエルとヴィヴィアンナ、そして騎士服の上着を脱いだデューが立って待っていた。

ナンジーは二人を送り届けてすぐに対面室を出て行く。

「よお、久しぶりだな。元気そうだ」

ニヤリと笑ったミハエルに頭を下げ、二人は向かい側に座る。

「俺の事は居ないものと思ってくれ」

ミハエルが肩をすくめ、机に肘をつき、その腕に頭を乗せ、目をつむった。

デューが椅子に座り、口を開くも、

「久しぶり。えっと、こちらが彼女で、」

「ヴィヴィアンナよ。ミシェールとエルバルトは覚えていないわよね」

楽しそうにヴィヴィアンナが遮った。

名前を呼ばれた事と、覚えていないという言葉に、ミシェールとエルバルトが固まる。

「ミシェールとは交流会でお話しした筈なのだけれど、貴女が5歳の頃までの話しだから、覚えて居ないわよね。二人を抱っこした事もあるのよ」

「ヴィア、二人が戸惑ってる」

得意気に話すヴィヴィアンナを、苦笑したデューが止める。

昨日の淑女らしい姿とは、まるで違うヴィヴィアンナに、ミシェールとエルバルトは呆然としていた。

何より、兄が宝物でも呼ぶように、ヴィヴィアンナの愛称と思われる言葉で呼んでいる。

理解が追い付いていない様子に、ヴィヴィアンナが口を開く。

「私、デューとは家ぐるみで親しかったの。だから、再会出来て、こうして一緒に生きてくれてる今が、凄く幸せよ」

本当に幸せそうに笑ったヴィヴィアンナに、ミシェールは膝の上で拳を作り、口を開く。

「でも、母が間違っていなければ、貴女は毒で苦しむ事も、婚約が白紙になる事はなかった。本当に申し訳ございません」

ミシェールとエルバルトが揃って深く頭を下げた。

ヴィヴィアンナが小さく笑う。

「やっぱり兄妹ね。デューにも謝られたわ。あの事件がなくて、デューがアストリアに残ったままだったら、私は今の幸せとは出会えなかった。

デューが他の女の人を選ぶ所を、見ずに済んだわ。もしかしたら、それでも幸せだったかも知れない。でも、今の私は、デューが居る幸せの方が良いの。だから、私に悪いなんて思わなくて良いわ」

ヴィヴィアンナの優しい声に、ミシェールはキツく目をつむる。

涙は出そうにないが、何かが口から漏れそうで、必死に堪えているのだ。

「閣下には色々面倒をかけてしまっているけど、私の幸せを諦めるな。とおっしゃって下さったのですもの。存分に幸せを追求するわ」

「そんな事を平気で言えるんだから、ヴィアは凄い」

楽しそうにヴィヴィアンナが宣言し、デューが呆れたように溢した。

二人の日常が垣間見えた気がして、これはこれでありなのだろう。と、ミシェールは歪な関係に納得した。

エルバルトを見れば、ヴィヴィアンナに釣られたのか少し微笑んでいる。

ヴィヴィアンナが立ち上がり、机を回り込み、ミシェールと、エルバルトを後ろから抱き締めて、声を震わせた。

「会いたかった。貴女達のお母様の事は本当に残念だったわ。私の目標だったの」

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