因縁 29 大公家の騎士
一週間後、とうとうバザーの日になった。
子供達は冬の前に送られた、ミハエルからの新品のお揃いの服を着用した。
普段は男の子は襟のないシャツとズボン、女の子は襟のないワンピースか、襟のないシャツとズボン。
それが、紺色の生地に白い襟がある物で、子供達は少し澄ました表情で礼拝堂に居る。
淑女達も、装飾は少なくとも一番良い生地の服を選び、品出しを終えた。
礼拝堂の重い玄関ドアを開けると、町民達が待ちかねていたように入っていく。
「あら、今年はおめかししてるのね」
「そう言う貴女も、化粧濃いじゃない」
ご婦人が、修道院の面々がめかしこんでいる事を指摘すれば、隣りのご婦人が笑った。
今日、ミハエル一行が来る事は、知られているのだ。
警護の為に、修道院までの道と、修道院の周りに衛兵が立ち、礼拝堂の周りには領主から騎士が派遣されている。
「だって、大公様だよ?王族をお目にかかれるなんて、一生ないと思ってたさ」
「いつもは来ない連中も来てるわよね。あれなんか、修道院を無くせて、いつも集会で言ってるじゃないか」
一人のご婦人が、渋い表情の男をチラリと見る。
商品を手に取ろうともせず、腕を組んで修道院の淑女達や、子供達を睨みつけている。
ナンジーが笑顔で話し掛けているが、一切見ようともしていない。
町の食堂は弁当とスープ、パン屋はバケットとジャム、ラスクを提供しているが、それさえも気に入らないとばかりに睨みを向ける。
「何をしたいんだかね」
「下手な事はしないと思うがね、あれじゃあおっかなくて、子供達は可哀想だよ」
ご婦人方はコソコソ話しながら、品定めをし、色々と選んで行く。
いつも以上の人出に、騎士が人数制限をし、長く滞在している者は、礼拝堂から出されていく。
渋い表情の男も、騎士に促されれば、抵抗する事なく、礼拝堂を出て行った。
礼拝堂を出た者は、修道院の庭で各々集まり、大公が来るまで待つつもりでいて、昼食用に弁当やパン、スープを買って、庭に用意された椅子に腰掛けたり、地面に直接座ったりして過ごしている。
町民の子供達は、集まれた事に興奮し、人の間を縫って庭を走り回ったり、手遊びをしたりと、好き勝手に過ごす。
それを、渋い表情の男は、修道院の敷地の外から眺めていた。
楽しそうにしている中に、入っていく事が出来ず、敷地の外へと出たのだ。
お昼が過ぎ修道院前に、騎馬隊に囲まれた馬車が2台止まった。
先導の馬車からは領主の伯爵と、補佐の男爵が降りて来て、後続の馬車から、大公ミハエルと、大公妃のヴィヴィアンナが降りる。
その登場に、庭にいた町民が歓声を上げる。
宿屋の主人が、大公の姿を見て腰を抜かした。
秋に宿を丸ごと借り受けた人物だったからだ。
どこかのお貴族様が気まぐれにでも来たのだろう。と思っていたので、まさかの身分に、何か失敗をしていないかと、心配になってくる。
礼拝堂の中の町民が、騎士の指示で全て追い出され、領主の案内で、一行と護衛の騎士は礼拝堂へと入って行く。
「おい!お前!」
その時、馬車の周りに残った騎士に、あの渋い表情の男が食ってかかる。
「悪魔だろ!俺は騙されないぞ!」
「いえ、私はミハエル様の騎士です」
「閣下をたぶらかして、国を乗っ取るつもりだな!そうはさせん!」
まだ幼さの残る顔で否定する騎士に、男は手を振り上げる。
周囲から悲鳴が起こる中、精悍な顔付きの騎士が、その手を顔で受けた。
バシと音を受けても、その騎士は動じる事なく、男を見据える。
「愛国心故の行動だとお見受けする。ただ、この騎士も、この国を愛して騎士になった。どうか、その思いを受け止めて欲しい。万が一、この騎士が国にとって不利益となるなら、大公家の威信にかけ、大公家騎士団が団結して対処すると誓う」
「騎士様がそこまでおっしゃるのなら」
気まずそうに、男は町の方へと歩き、叩いてしまった騎士を振り返り、何度も頭を下げて、町へと消えた。
見守っていた衛兵と、周りの騎士に騒がせた事を、精悍な騎士が詫びると、幼さなさの残る騎士が声を上げる。
「デューさん!なんで受けたのですか?!」
「その方が、この先、あの人は不用意な真似は出来なくなる。閣下の身の安全の為だ」
「でも、あいつは俺だけが気に食わないようでしたよ」
「そのお前を雇っているのは閣下だ。矛先が閣下に向かう前に摘むべきだろ」
不服そうに言う騎士に、精悍な騎士のデューは平然と言い、修道院の礼拝堂を見る。
そこには、デューの恋人で、大公妃のヴィヴィアンナが居るのだ。
こんな所を見られなくて良かったと微笑み、デューは隣りを見る。染料が落ち赤い髪に戻った、幼さの残った騎士のシモンが、気まずそうにデューを見ている。
自分のせいで、騒ぎとなった事を、気にしているのだろうと気付き、デューは苦笑を浮かべる。
「堂々としていれば良い。何も悪い事はしてないんだ。なんなら、騎士団長にでもなって、大公領で自慢の騎士になるのも良いな」
「デューさん、冗談言うんですね」
「なんだ、冗談で良いのか。俺の同期はいつも騎士団長になる。て言ってるのにな」
何事もなかったように、二人が喋っているので、周囲は安堵の溜め息を吐き、礼拝堂を気にする。
扉は固く閉じられ、その前に騎士が2名立っている。
シモンもそちらへと視線を向けると、デューが笑みを含んだ声で言う。
「後で会ってきたら良い。案内役が抜けても問題ないだろ」
「ミシェール様とバル君に会っていかないのですか?」
「改めて時間を貰う予定になっている。4人でゆっくり話せたらと思ってるんだ」
「なら良いですが」
言って、シモンは懐を撫でた。
ミシェールから貰った布が、そこに入っているのだ。
昨夜、満足する赤に戻ったので、早く巻いた所を、彼女に見て貰いたかったのだ。
とはいえ、2日前に領主の屋敷へと行き、案内役として付き添っていたので、会うのが2日ぶりとなる。
ミシェールが笑えないのは知っているので、せめて格好良いと言ってくれたら良いなと、淡い期待をシモンは胸に秘めている。
実質、案内役は領主が務めるし、ミハエルも道は知っているので、形だけの仕事に、シモンは少しだけ不満だったりした。




