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因縁 28 楽しみ

バザーの一週間前、領主が修道院を訪れた。

王兄の大公ミハエルがバザーを見に来るので、下見に来たのだ。

バザーの会場は、修道院横にある礼拝堂が開放されるので、そこで修道院理事長のナンジーが、領主一行を相手している。

礼拝堂は形だけで、常駐する司祭も修道士もおらず、理事長が修道女として勤めているだけだ。

王家の縁者が、伴侶に先立たれ、その思い出の地に建てた物が、この修道院と礼拝堂だった。

その為、宗教色が弱く、訳ありの淑女や身寄りのない子供を預かる事を主な仕事としている。

この土地に縁のない者が多い為に、余所者の爪弾き者を押し付けられている。と修道院を不満に思っている町民が居る事が、悩みの種だ。

バザーは、なんとか土地に馴染もうと、先々代から開催されているが、まだまだ受け入れられていない。

「子供達だけでも、見て貰えれば分かって貰えると思うんですが、不満がある人は来ないですよね」

バザーの開催理由を淑女から説明され、シモンが眉を寄せる。

場所は修道院の食堂で、出品する物の確認作業をしていた。

ミシェールとエルバルトは食堂の別の一角で子供達で集まっていた。

バザー用に貴族から寄付された物を仕分けしているのだ。

服を仕立てた時の端切れが多く、模様替えで不要となったシーツや、布団カバー、クッションカバー、カーテンもある。普段手の届かない質が良くて綺麗な生地は、バザーでは人気商品だ。

「ねえ、シモンがいつも食堂でやってるあれ、あれを子供向けの話ですれば良いのではない?子供が来たいて言えば、興味はなくとも来て頂けるわ」

一人の淑女が言うと、周りが楽しそうに表情を輝かせる。

「読み聞かせじゃなくて、演じるのね。楽しそう」

「人形でやれば、もっと子供が喜んでくれるかしら」

「観てる子供が参加出来ると、もっと楽しいのではないかしら?」

盛り上がる淑女達を、シモンは楽しそうに見守る。

ここに居る者で、修道院をより町に溶け込ませようとしているから、部外者は出しゃばらない方が良いだろう。と思った為だ。

ふと離れた所にいるミシェールを、シモンは見る。

あの布を渡された日から、まだ2日、髪の毛はまだ戻っていない。

赤い髪の毛の事は、養護院時代から、気になるなら剃るか染めるかすれば良い。と、職員から言われていた。

シモンはそれを拒否していた。恐らく、その方がどこかに貰われた可能性もあったのだろう。と思ったが、貰われた先で気付かれた時に、騙した事になるのでは?と思ったからだ。

ミハエルの所の騎士見習いに受かったのは、本当に奇跡だと思った。見習い仲間で、髪の毛を悪く言った仲間は、その後に問題行動で不適格とされ、追い出されていた。

他の仲間にもからかわれたりしたが、許容出来る範囲だったので、言い返すだけにしている内に、髪の毛は個性として受け入れられてきた。

先輩騎士は、髪の毛の事をいじる人はおらず、仕事の良し悪しを指摘されるくらいだったので、凄く恵まれた職場だ。と感動していた。

そんな中、雇い主のミハエルが、修道院から子供を引き取る為に、この町に行くと聞き、その一行に混ぜて貰うべく、シモンは手を挙げた。

一番に自分を受け入れてくれたミハエルの為に、是非役立ちたいという思いで、養護院育ちだから、子供の扱いは慣れているからと自分を売り込んだ。

その旅の道中、シモンの髪の毛は悪目立ちをした。

すれ違う人間や、宿や食堂の人間が、ミハエルの次に、シモンに視線を向けるのだ。

ミハエルはその見た目と高貴な身分の為だと、分かった。その次に自分に向けられる視線に、嫌悪が混じっている事に、シモンは気付いてしまった。

大公の一行だから、表立って何かを言う人間はいなかったが、心が少しささくれ立ってしまったが、同行した騎士団長が、良く耐えた。と気遣ってくれたおかげで、ここまで来れた。

そして、ミハエルが自分の見た目で怖がらせるだろうと、ミシェールとエルバルトとの面会を、ミハエルから任され、シモンは任せて下さい。と答えたのだ。

会ってみれば、神話から飛び出たような綺麗な女の子が居て、年下とは思えない程に所作が美しく、シモンは笑顔で固まってしまった。

幻のように消えてしまうのでは?と思わせる程美しいのに、ピンと伸びた背筋に、どこか威厳を感じさせられ、どこかの国の女王だと言われても、納得してしまいそうで、見てるだけで精一杯だった。

そして、ミハエルにもハッキリ断れる彼女に、シモンは尊敬した。

そんな尊敬している彼女に、自身を大切にしろ。と髪の毛をぞんざいに扱った事を注意され、シモンは凄く嬉しかった。

尊敬した女の子が、赤い髪を怖がっているならと、またここに派遣される事が決まってすぐ、迷わず髪の毛を染めてしまった自分を、シモンは恥ずかしく思った。

ミシェールは、赤い髪を嫌だとも、怖いとも言っていなかったのに、そう思い込んで暴走したのだ。

なおかつ、ミシェールは赤い髪を似合っていた。とさえ言ってくれ、初めての事で照れてしまった。それが社交辞令だったと言われても、彼女が認めてくれた赤い髪を、シモンは誇りに思っている。

だから、赤い髪に似合うだろう布を、早く髪の毛に巻きたいのだが、長持ちする染料だったので、なかなか落ちない。

今回は、デューとミシェールとエルバルトの再会が主な目的で、バザーが終わったら領地に戻る予定になっている。

それまでに、見せられたら良いと毎日髪の毛を水で拭いているものの、効果はなさそうだ。

赤い髪が、楽しみになれたのは、ミシェールのおかげだ。

シモンは淑女方に断りを入れ、子供達の輪に入る。

「これなんか、マントにしたら楽しいかも」

渋い朱色のカーテンを手にし、シモンは自身の背中に充ててみせる。

「わ!かっけー!良いなぁ!」

「私、この花柄好き」

負けじと、他の子供達が布を選びだし、大人しく作業していた子供の輪は、騒がしくなった。

「シモンさん、邪魔です」

溜め息混じりにミシェールに言われ、シモンは笑顔で頭を下げ、淑女方の元へと戻る。

バザーの準備も大詰めに入り、シモンはミシェールと話が出来ずにいて、少し寂しくなっていたのだ。

例え『邪魔』の一言だろうと、声が聞けた事に、シモンは満足した。

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