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因縁 27 劣等感

その3日後、デューは一旦大公領へと戻って行った。

大公ミハエルとその妻が、バザーを見る為に、この町を訪れると連絡があり、急遽迎えに行ったのだ。

シモンは修道院で何かあった時の為に残った。

修道院の中では、バザーに向けて各々作業中だ。

広いのと、窓が大きい事から、食堂でそれぞれ集まっている。

それぞれの得意を活かしたり、共同で作成したりと様々だ。

ミシェールは栞と、女の子に好まれる本の一部を想像し、ハンカチに刺繍で縫った物を用意していて、栞はハンカチのおまけにする。

エルバルトは、布張りの小物入れの箱を5種類用意している。

シモンは木を組み合わせ額縁を作り、木の実や色ガラスをくっつけていた。皆の作業の手伝いをしているうちに、作りたくなったのだ。

バザーでは、食べ物は町の食堂とパン屋が参加する事になった。

元々、あらぬ苦情対策の為に、食べ物は提供しない事になっていたのだ。

それをシモンが知り、町の商店から呼んだらどうだろう?と提案し、理事長のナンジーが検討し、商店と話し合いの末、領主の了承を得て決まった。

「髪はまだ戻らないのですね」

「あ、はい。結構しっかり染まったようです」

ミシェールからの言葉に、シモンは前髪を引っ張った。

染料が落ちてきて、黒の下から僅かに赤みが出てきており、今は茶色っぽく見える。

「必要ないかも知れないですが、こちらを」

作品の入った籠から、ミシェールは一枚の布を取り出した。

「えっと?」

布とミシェールを見比べ、シモンは首を捻った。

「花のお礼を考えたのですが、これくらいしかご用意出来ませんでした」

「え?あ、ありがとうございます」

モジモジしながら布を受け取り、シモンはそれを広げる。

カーキ色を主としたオレンジと緑色を使って一枚の大盤の四角に縫われていた。そして一箇所の角に赤い糸で鳥、緑の糸で葉っぱが刺繍されていた。

「緋色の冒険ですか?」

「はい」

思い付いた物語をシモンが言えば、ミシェールが小さく頷いた。

鳥が主人公の物語で、親元で仲良く育った一羽の鳥が、病気になった兄弟の為に、薬を探す旅に出るもので、児童書としては有名なものだった。

その鳥が、緋色をしているのだ。

薬を持って帰ったその鳥は、旅をする楽しみが忘れられず、また旅の空へと向かっており、シリーズとして何冊か出ている。

「格好良いです。それに、好きな話なんです。文字はそれで覚えたくらいです」

満面の笑みで、シモンは布を撫でた。

その反応に、ミシェールは少し目を伏せる。

「もし、髪の毛で嫌な思いをされて、隠したい時にお使い下さい。それ以外でも、お好きなように」

貰った鉢植えに、何を返すか迷った結果、何かに刺繍をするくらいしか、ミシェールは思いつかなかった。

ミシェールもすぐ目についていた赤い髪を思い出し、緋色の鳥は、すぐに思いついた。では何に縫うか?と考え、本人は、一度も気にした様子は見せてないが、周りとは異なる物は、何かと嫌な思いをする事もあるだろう、と髪の毛を隠せる布にしようと決めた。

裁縫道具のしまってある部屋へと行き、カーキ色の布を見つけ、足らない分をオレンジ色と緑色の布を選んだ。

出来上がったものの、本人が気にしてないのに、これを渡すのは失礼にならないか、嫌味かと勘ぐられたりしないか、と心配していたが、思ってた以上に喜ばれ、安堵したと同時に、表情を変えられない自分が少し寂しくなり、ミシェールは顔を伏せた。

「ミシェール様、似合いますか?」

シモンの声に、ミシェールは顔を上げる。

シモンをみれば、布を首に巻き、刺繍が見えるように結んであった。

「お似合いだと、思います」

「嬉しいです。本当に。ありがとうございます」

幼さの残る顔で子供のようにシモンが笑った。

一度周囲を見渡してから、シモンが口を開く。

「ここの方々はそんな事なかったのですが、髪の毛の事は、養護院の時から周りから色々言われていたんです。それでも、髪の毛を剃る事も、染める事もしませんでした」

その言葉に、ミシェールはやはり余計な事だったのか。と自分の判断に後悔した。

シモンの言葉が続く。

「両親の顔を覚えてないけど、自分の一部を否定したくなくて、ずっと我慢してました。養護院を卒業する年になって、腕っぷしには自信があったし、騎士になろうと、あっちこっちに試験を受けに行きました」

そこでシモンが溜め息を吐く。

「面接官が、俺にはなんの質問もせず落としたり、国に帰れて言われたり、7件落ちて、次に駄目だったら他の職業にしようと決意して、受けた所が閣下の所でした」

思い出したようにシモンが笑う。

「散々駄目だったのに、最後のやけっぱちで、大物の所へ行って、あっさり通ってビックリしちゃいました。合格を告げてくれた方の隣には、閣下が居たのですが、まさか当人がそこに居ると思ってなくて、何で合格したのか?て聞いちゃいました」

「何と言われたのですか?」

「素直そうだから。と。で、髪の毛の事は?てつい聞いたのですが、火でも出るのか?と聞かれまして、いえ。と答えたら、残念だ、それで?て、全く気にしてないように聞かれて、凄く嬉しかったんです」

大切な思い出を思い出したように、シモンが柔らかく微笑んだ。それは一瞬で、溜め息が漏れる。

「騎士見習いになれたのですが、騎士見習い仲間に、髪の毛の事を悪く言われて、俺はそいつを殴ってしまいました。髪の毛を含めて自分を認めて貰えて、忘れていたのです。俺の髪の毛は異質なんだと。喧嘩になって、監督官に謹慎を言い渡された時、何でこんな髪の毛なんだろうて、初めて思ってしまいました」

シモンの目が、ミシェールをじっと見る。

「だから、ミシェール様に、自分を大切にしろ。て言われた事、本当に嬉しかったです。髪の毛を褒められたのも、初めてでした」

「生まれ持った物は仕方ない事ですから。褒めたのは社交辞令でした。すみません」

シモンの視線から逃れるように、ミシェールは自身の膝に視線を落とした。

「でも、ミシェール様は俺の髪の毛を受け入れてくれてます。髪の毛で嫌な思いをするなら、剃れば良い、染めれば良いて簡単に言う訳じゃなく、一時的に隠す事を提案してくれました。刺繍を見せようと使うと、オレンジが見えるのも、赤を否定してないようで、凄く嬉しいのです」

ミシェールが刺繍を施す際に、赤い髪にオレンジは凄く似合うだろう、と意識してそれが見える箇所を選んだ事を、気付かれたように感じ、ミシェールは顔が上げられなくなった。

シモンがミシェールの視界へと入ってきた。

床に両膝をつき、シモンが笑顔で見上げてくる。

「髪が戻ったら、巻いてみます。だから見て下さいね」

何も言えず、ミシェールは小さく頷いた。

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