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因縁 23 馬鹿

母親が、デューを亡き者にしようなど考えなければ、デューは今もデュクリスとして二人の前に居た筈だ。

ミシェールも笑えていた可能性があり、エルバルトは声を失う事はなかったのであろう。

留学中の1年で、母親が同じように言葉で支配していても、デュクリスが戻れば、盾となり、二人を守る為に奮闘出来た筈だ。

母親がエルバルトを王にと、考えるキッカケを避ける事は出来なかったかも知れないが、エルバルトが相談出来る環境は作れた筈なのだ。

ミシェールが母親の影響で笑えなくなった事で、エルバルトは知らずに遠慮し、相談出来ない環境が出来ていたと、デューは思う。

相談さえして貰えれば、止められる。

母親がエルバルトを王にと言った時、デューは18歳で、周囲の協力を得られれば、家督を継ぐに十分な年だ。現アストリア公爵は、相談すれば、必ず力になってくれると思える人物だった。母シェキーラを気鬱だと公表し、引き摺り降ろす事も可能であっただろう。

ただ、そうなると、デューは彼女と恋仲にはなれなかった。現王太子は第二王子のままで、彼女は第二王子の王子妃となっていた事になる。

それはそれで、彼女は幸せだっただろうと思う。だがそれを想像すると、ムカムカするし、悲しいのも、辛いのもある。

結局、今のデューの幸せは、ミシェールとエルバルト、父親、元王太子の悲劇の上にある。

それを思うと、デューは申し訳なくなる。だからと言って、もう彼女とは別れられない。

共に生きると約束したのだ。申し訳なくとも、デューは手放せない。

「俺は十分幸せだから、俺に対する負い目は感じる必要はない。逆に申し訳無いくらいなんだ。二人が背負っている物を、俺にも分けて欲しい。俺にも、母を止められなかった責任はある。それは譲れない」

エルバルトを包む腕に力を込め、エルバルトの左手を握るミシェールの手を、デューは右手で包み込む。

「母との血の繋がりなんて関係ない。これは兄としてのお願いだ。妹と弟を守りきれなかった責任を取りたい」

「私達とは関係ないて、言えるのに。お兄様は馬鹿です」

長く溜め息を吐き、ミシェールが言い、エルバルトはデューの腕にしがみついて何度も頷いた。

「彼女にも言われた。馬鹿はお墨付きだ」

「そう言えば、仕える方の奥様と恋人なのですよね。馬鹿でなければ、説明出来ないかと」

「本当に。恐ろしいくらいの馬鹿だ」

ミシェールの手を強く握り、デューは一人で笑う。

「きっと二人の罪の意識はなくならないだろう。俺もやっぱり捨てられてないから。その罪悪感や苦しみを、一人で抱えるんじゃなくて、三人で分かち合いたい。考えてくれるだろうか?」

暫く笑った後、デューはそう言い、宿に戻る事にした。

掃除の時間が近付いていたので、ミシェールとエルバルトも頷いて、デューが対面室から出るのを見送った。


翌日の朝食後に、シモンとデューが対面室で待っていた。

「ミシェール様!1日ぶりです!お姿拝見出来る喜びをどう表現したら!!!」

「落ち着け。困らせるな」

手を合わせ拝むシモンを、デューが小突いて止めた。

相変わらずなそれに、エルバルトが肩を揺らした。

「1日我慢したのですから、デューさんはもっと感謝するべきです」

「バルに笑われてるぞ、馬鹿」

腰に手を置いて胸を張ったシモンは、デューの言葉にそちらを見た。

「バルて、呼んで貰ってるんだ?」

シモンの問いに、エルバルトは小さく頷いた。

それにニコリと笑い、シモンはデューの肩を叩く。

「ナンジーさんと話があるので、抜けます。邪魔はしないのでごゆっくり」

ミシェールにウインク一つ送り、シモンは対面室を出て行った。

机には4つお茶の入ったカップがあり、デューは向かい側にある1つを移動させた。

「隣りで良いかな?」

デューが聞くと同時に、ミシェールとエルバルトは動き、デューを挟む形で座った。

それに顔を緩ませ、デューも座る。

「昨日の今日だから、まだ二人の背負う物を任せて貰えないだろうな。今日は、母への文句を言い合おう」

「え?」

「母だけが悪かったわけじゃないだろうけど、こうなってるのは、母の行動が原因だからな。昨日宿に戻ったら、やっぱり母に対して怒りがあったんだ」

見上げてきたミシェールと、エルバルトを交互に見てから、デューは長く溜め息を吐いた。

「俺が目障りだったのなら、病気療養なり適当に理由つけて、どこかに放り込んでくれても良かった。母に死を望まれていたと知った後、何度もそう思ったよ。アストリアに居た頃は、全くそんな素振りはなかったんだ。厳しい母だったけど、理不尽な事は一切なかったから」

何度思い返しても、デューは母親から疎まれているような素振りは感じなかった。父親から命を狙われていると、伝えられた手紙を読んでも、それが母親だとはすぐには思い付けない程、ミシェールと扱いの差は感じて居なかった。だからこそ、母親が自身の死を望んでいると気付いた時、デューは随分取り乱した。

父親からの遺書で、その理由を知ったが、デューにとっての母親は、やはりシェキーラだ。

「母が誇りだった。せめて、二人が幸せだったら、許せたんだけどな」

言ってデューは視線を自身の膝へと向けた。

そのデューの手を、エルバルトが右手を、ミシェールが左手を握った。

デューの左手を握る、ミシェールの手に力が入り、ミシェールは机のカップを見詰め、口を開く。

「私も母を尊敬してました。自慢でした。厳しくて緊張もありましたが、私の目標だった。変わってしまってからは、いつも母に怯えてました。お兄様を亡き者にする意思があったと聞かされ、この人の血が流れている事が恐ろしいと、自分が怖くなりました。バルに、あんな恐ろしい事を言っていたと知って、悲しかった。私も、母に怒ってます。バルを苦しめた事も、兄を亡き者にしようと考えた事も許せないです」

「うん」

そっと頷きで返したデュー。

暫く無言が続き、エルバルトがデューから手を離し、脇に置いてあった黒板とチョークを手にする。

コンコンとチョークで黒板を叩き、二人の注意を引いた。

デューは昨日と同じように、エルバルトを膝の上に乗せる。

『僕が弱いから、

 僕を強くしようとしてるんだて思ってた

 だから怖かったけど頑張った。

 笑って欲しかった。

 母様にも姉様にも』

書いては消してを繰り返し、エルバルトはデューを見上げ、再び黒板に向き合う。

『兄様とお話し出来て嬉しかったです。

肩車楽しかった』

「うん。俺も肩車も二人と話せて嬉しかった」

デューは、ミシェールの手から自分の手を抜き、その手でミシェールの頭を撫で、右手でエルバルトの頭を撫でた。

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