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因縁 22 振り回された三人

肩車とお姫様抱っこをミシェール以外が受け、シモンとデューは掃除の時間の前に宿へと帰っていった。

その日の子供達は、興奮しており、掃除と食事の時間以外は、ボールを持って走り周り、濡れた布で身体を拭く頃には瞼をこする者が多く、面倒を見ていた淑女が手を貸してやる程だった。

エルバルトも珍しくはしゃいで遊んだので、淑女の手を借り、ベッドまで運んで貰った程だった。


翌日の朝食後の数分後、ミシェールとエルバルトは対面室に向かっていた。

エルバルトの手には黒板とチョークがあった。

対面室で待っていたのはデューだけだった。

「おはよう」

「おはようございます」

言いながらミシェールは椅子に座り、エルバルトは小さく頭を下げて椅子に座った。

いつもの向かいの椅子ではなく、デューがいる脇の椅子に座っており、二人の間には一つの椅子。

デューの左側はミシェール、右側はエルバルト。二人を見比べ、デューは頬を掻いて、一旦向かい側へと行き、そこにある二つのカップを手にし、元の位置に戻る。カップを二人の前に置き、その間に一つ空いている椅子に座った。

今日の対面は、ミシェールが昨日デューの帰り際に願った事だった。

「先日の話は、まだ正直飲み込めていません。ただ私達は、お兄様の話を聞きたいと思いました。失踪してから、どこでどう生きて来たのか、お嫌でなかったら、聞かせて欲しいです」

ミシェールの願いに、デューは一つ頷いてからこれまでの事を語った。

旅の道中の父親からの思いがけない手紙。

それからモントルア侯爵の手助けで失踪し、ミハエルの手を借り、一旦国を出て、ミハエルの抱える騎士団の平民の騎士見習いとして、国に戻った事。

王都に向かう途中に、自身と祖父の葬儀を知り、命を狙っていた相手に気付いた。

その後は騎士見習いとして、他と混じって暮らし、正式に騎士となり、両親の死と、そこに至った母親による王族への毒殺事件を聞いた事。

それら全てを包み隠さず話し、デューは息を吐いた。

「正直、二人程の苦労はしてない。母に命を狙われていると知った時は、確かに酷く傷付いた。けど、俺を生かす為に、父上、モントルア侯、ミハエル様が強い覚悟で動いてくれていたと気付けたから。気持ちを切り替える事が出来た。騎士見習いの仲間は、合わないのも居たけど、一緒に騎士に上がった時には心強い仲間となった。凄く恵まれていたんだ」

「それなら、良かったです。先日から気になってました。どれだけ苦しかっただろうと。私には、バルと、修道院の仲間と、お姉様方が居たから」

話を聞いて安堵し、ミシェールは思い切ってデューの左手を握った。

その反対側でも、エルバルトがデューの右手を握る。

「ありがとう」

両手を返し、ミシェールとエルバルトの手を握り締め、デューは一度キツく目を瞑る。

見計らったようにノックされ、デューがドアを開けると、先日と同じように修道院理事長のナンジーがトレーを持っていた。


並んで昼食を摂り、お茶で一息ついた。

「では、今度は私の話しを聞いて下さい」

息を大きく吸い、ミシェールは兄の葬儀後からの、母親の言葉による支配で、気付いたら笑えなくなっていたと話す。

兄が異母兄だと母親から言われ、動揺した事と、物心ついたエルバルトは萎縮し、母親を避けるようになっていたとも。

エルバルトが4歳の頃から、母親はエルバルトに執着するようになり、それにより、エルバルトが食事を戻すようになり。

エルバルトが5歳を迎えた夏に、引きつけを起こし、それをきっかけでキャラダイン侯爵家に一時避難した事。

兄の命日は一度戻ったが何事もなく終わり、1年キャラダイン侯爵家で過ごすと教えられたが、その年の兄の成人を祝う為、再びアストリアに行き、母親から兄を殺害する意思があったと衝撃の事実を聞かされた事。

それを誰にも相談出来ないまま時が過ぎ、アストリアに戻ったら、母親は以前の穏やかさを取り戻しており、少しだけ安堵していた。

冬にエルバルトが季節熱にかかり、その時の母親の看病を受けたエルバルトが、母親から王にすると言われた事を、この間知ったと。

そして、春。事件が起き、エルバルトは声を失った。とミシェールが知る全てを話した。

想像を絶する内容に、デューは言葉を発する事が出来なくなり、ミシェールの手を握った。

「お兄様への殺意があった事を告げた母は、私を許さなくて良いと。そう言いました。それは、私達へ辛く当たった事への言葉なのか、お兄様を殺すつもりだった事への言葉なのか、今も分かりません」

遠い目をしてミシェールは話を締め括った。

暫くの沈黙の後、デューは右の袖を引かれ、そちらを見る。

エルバルトが黒板とチョークを持っていた。

デューは少し考え、エルバルトを抱え上げ、自身の膝の上に座らせた。

「シェリーにも見えるように」

身を捩らせたエルバルトの肩を、デューが撫でた。

エルバルトが小さく頷き、黒板に文字を書いていく。

『私のエルと呼ばれた』

その文字にデューは首を傾げた。

母親の名前にさん付けは徹底しており、ミシェールに対しても、エルバルトに対してもそれだったので、『私のエル』なんて全く想像出来なかったのだ。

ミシェールは、母親がそう呼んでいた所は6年間聞いた事はなかったが、エルバルトから『王様にする』と母親が言ったと教えられた時、『エル』呼びを嫌がる理由となる出来事があったのだろう。と思ったので、やはり。と苦しい気持ちになった。

文字が消され、再びチョークは動く。

『私のエル。貴方を必ず王様にしてあげる』

文字が消され、続けられた。

『だから、死なないで、エル。て』

エルバルトが黒板とチョークを強く握った。

震えている文字と、震えているエルバルトに、デューはそっとエルバルトを包む。

ミシェールも手を伸ばし、エルバルトの左手を握った。

子供の生死を心配しての言葉のように見えるのだが、エルバルトの震え方から、母親の狂気を感じられた。

そもそも、デューが病気をした時は、看病すらなく、病み上がりに掛けられたのは、『弛んでいるからですよ』と厳しい言葉だけだった。

遅くに生まれた末の子で、待望のアストリアの正当な後継者だから、大事に思っていたのだろうが、その大事な後継者が吐くまで追い詰めてもいる。

母親の事がさらに理解出来なくなり、デューは溜め息が漏れた。

「結局、母に振り回されていたんだな。俺も、シェリーも、バルも」

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