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因縁 21 たくましき

翌日の朝食後、シモンはデュクリスで今はデューと一緒に現れた。

自慢げな子供達からクッキーが二人に渡され、続いて話の披露を期待した子供達にシモンが詫び、二人は早速脚立とモップと布、ブラシを持って庭へと出た。

壁の汚れを落とし、モップで一旦窓を拭き、更に布で窓を拭いていく。

子供達は最初の内は見学をしていたが、次第に数が減り、昼食後にはすっかり居なくなった。

淑女達は布を敷き、クッションを敷いて、日傘とお茶を用意し、万全を期して見学し、互いに色々言っては盛り上がっていた。

ミシェールはその端にお邪魔し、エルバルトはたまにシモンの指示で色々手伝っていた。

作業が終わったのは夕方だ。

昼食は修道院からサラダを挟んだパンを提供してあり、夕飯もどうか?とナンジーが誘ったものの、デューは断った。

「汗臭いので、淑女方にご迷惑でしょうから、宿に戻ります。ご厚意に感謝します」

デューがナンジーに礼を送ると、淑女達から溜め息が漏れる。それにナンジーは苦笑を浮かべる。

「むしろ喜びそうですわ」

「いえ。お昼をお世話になって、夕食まで頂く訳にはいきません。埃を落として明日またお邪魔しますので、歓迎頂けたら嬉しいです」

「俺も、埃を早く落としたいので、明日遊びに来ます」

デューの言葉に、シモンも続き、二人は頭を下げて道具を片付けた後、宿へと戻っていった。

「残念」

「仕方ないわ。変な噂をされたら、あの人も私達も困るもの」

一人の淑女が残念そうに溢すと、他の淑女は苦笑した。

過去に手伝いをして貰っていた男手はあったのだ。それが、修道院を良く思ってない人が、淑女達といかがわしいことをしているのだろう。とまるで事実のようにあちこちで言いふらし、手伝いに来ていた男手は、来づらくなって、今は薪割りが済んだ薪を運んでくれているだけだ。

昼食はまだ明るいから良からぬ事を言いふらすのは難しいだろうが、夕食となると、色眼鏡で見られかねない。

街には理解ある人が多いが、妙な噂は出来るなら避けた方が良いのだ。

「せっかく良くして下さるのだもの。困らせてはいけないでしょ」

「ミシェール、引き取りの話は出来るだけ先延ばしにしなさいな」

一人が良い事を思いついた。とばかりに手を打ち提案すると、周囲から歓声が上がる。

「デューさん以外の騎士様が来る可能性もあるものね」

「シモンは若すぎるもの。大公で雇われている騎士なら、平民とはいえ安泰だわ。ミシェール、貴女は修道院に居たいのでしょう?私達は味方よ」

一様に盛り上がりをみせる淑女達。

淑女達はそれぞれ理由があってここに居る。大体が夫に先立たれ、何かしらの理由で、実家に身を置く場のない者だ。他は、夫の暴力から逃げる為に身一つで来た者。婚約が破断になり、家に居づらくなって修道院に来た者。なので、家族との面会はほぼない。もし面会があるとすれば、次の縁談を持って来るか、親族に不幸があり、遺産相続の話し合いの為のどちらかが多い。

不遇の淑女が居る筈だが、ここに居る淑女達は一様に穏やかながらも明るい。一人素直じゃない者も居るが、根は優しいのを、皆知っている。

その彼女達の、不遇を感じさせない逞しさに、ミシェールは眩しく思った。


翌日の朝食後の勉強の時間、シモンとデューが揃って食堂に来た。

「昨日は相手出来なくてゴメンね。クッキー美味しかったよ」

子供達に囲まれ、シモンは腰を落として、楽しそうに笑う。

デューも腰を落として、子供達に抱き着かれており、目を細めている。

エルバルトはシモンを囲む輪の中に居ながら、デューが気になるようで、チラチラと視線を向けていた。

シモンが周りを見渡し、口を開く。

「今日は、あっちのお兄さんが肩車してくれるって!」

「おぃ」

湧いた歓声に、デューの短い抗議は掻き消された。

シモンを囲んでいた子供達がデューを囲む。

エルバルトはその輪には入らず、シモンの側に立っていた。

「エルバルト君も、お願いすれば良いですよ。俺じゃ、ちょっと無理なので」

シモンの言葉に、エルバルトは首を横に振って返した。

「うーん。肩車をして貰った事は?」

続いた質問にも、エルバルトは首を横に振る。

「なら、経験しておいた方が良いです。もし嫌だったら頭を叩けば降ろしてくれますから」

シモンはそう言って、強引にデューの前に並ぶ列にエルバルトを並ばせた。

「外へ行こう。どこかにぶつけると危ない」

観念したように、デューが言えば、ナンジーが申し訳なさそうに頭を下げ、デュー、子供達の後に続いてナンジーも庭へと着いていく。

淑女達も一旦部屋へと戻り、日傘を手に庭へと見学に向かう。

ミシェールも遅れて庭に向かい、シモンがその後をゆっくりと着いて歩いた。

庭では小さい子から順で、デューが肩車をして歩いて回っていた。

ミシェールと並んで様子を見ていたシモンが、肩車を待っている子供達の方へと歩き出す。

「肩車は無理だけど、おぶるよ。追いかける」

シモンが腰を下ろすと、年長組の女の子がその背に抱き着いた。

「え?女の子か、緊張するなぁ」

言いながらも、女の子の足を抱え、シモンが立ち上がり、デューを追いかける。

「それ、触っちゃえ」

「シモン!危ない事させるな!」

シモンの言葉に、女の子がデューに触ると、デューは慌てて逃げるように身を翻す。

「皆!追いかけちゃえ!」

シモンの言葉とともに、待っていた子供達が一瞬顔を見合わせ、デューを追いかけ始める。

「ちょっ?待って!危ないから!」

逃げ回るデューを、誰かが触ったら、肩車が交換となり、シモンもそれに合わさて、おぶる相手を変え、交代後10数えたら、またデューが追いかけ回されるを繰り返す。

年長組の女の子は、肩車ではなく、お姫様抱っこだ。

合間に淑女達が用意したサラダを挟んだパンを食べ、お茶をして、少しだけ話しをして、また肩車しながらの鬼ごっこ。

とうとう、エルバルトがデューを触った。

シモンには昼前におぶられていたが、デューを触る事に躊躇していたのだ。

触ったのがエルバルトだと分かると、デューは目を見張り、次に顔をくしゃりと崩した。

お姫様抱っこをしていた女の子を下ろし、エルバルトの背後へと移動した。

「しっかり掴まってくれよ」

エルバルトの股に顔を入れ、デューはゆっくり立ち上がり、足を支える。

「さすがに疲れたから、追いかけっこは止めて貰えるか?」

デューが言えば、子供達は後を着いて回るだけ。シモンは小さい子を肩車し、のんびり口笛で何かの曲を吹く。

庭の中で一周し、エルバルトがそっと降ろされ、デューは肩車がまだの子供を抱き上げる。

エルバルトはミシェールの側へと移動し、ミシェールの右手を握った。

「楽しかった?」

ミシェールの問いに、エルバルトは握る力を強くして応えた。

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