因縁 12 破滅へと
※毒親注意
主人公達の母親が輪を掛けて酷いです
子供達はさらに追い込まれます
お辛い方は、読まずに飛ばして下さい。
削る事も考えたのですが、削れませんでした。
お読みになられる方は、お心の準備をお願い致します
母親のシェキーラは、それまでも異常は見えたが、両親が揃って王宮へと呼ばれる2年程前から、さらに異常は増していた。思えば、その頃から、母親は破滅へと歩いていたのだろうと、ミシェールは思う。
表へと出る時は、高い矜持で取り繕っていたようだが、家族の前では異常の頻度は増えていたのだ。
ミシェールが9歳、エルバルトは4歳。
その春の頃から、母親はエルバルトに執着を見せるようになった。
エルバルトは母親の近くだと萎縮してしまうので、周りはそれとなく引き離しているが、食事の時間だけは、共にするしかなかった。
交流会の後の夕食時は、エルバルトが誰と過ごしたのかと、エルバルト自身から聞き出すようになったのだ。
それまでは、夕食の席で母親から言われるのは、教師からの報告を元にした注意であったり、呪いのような激励、アストリアの気高さであったりで、ミシェールやエルバルトから何かを聞き出すような言葉はなかった。
萎縮してしまうエルバルトだが、それになんとか答えると、ミシェールに本当なのか、と確認してくる始末だ。
それで、エルバルトに制裁をした訳でも、行動に規制をかけたりもしなかった。『その調子で、アストリアに相応しい振る舞いを心掛けるのですよ』と、新たな呪いを言うようになっただけだ。
エルバルトはそれに頷きで返していたが、ある時から食事の後に戻すようになっていた。
それをミシェールが知ったのは、エルバルトの部屋が、何やら慌ただしくなっていて、様子を見に行ったからだ。
青い顔で、器に顔を伏せていた弟に、ミシェールは慌てで駆け寄り、その背中をさすってやった。
必死に『大丈夫よ』と繰り返し声を掛けていたが、なにが大丈夫なものか。と自身の頼りなさに泣きたくなった。
落ち着いた弟と一緒に温かいお茶を飲んでいると、父親がそっと部屋へと入って来て、二人を抱き締め『よく頑張ってくれている。心配しなくとも皆それは分かっている。二人が望むなら、他で暮らしても良い』と何度も言ってくれていた。
そのついでに、子供向けの短い物語を、抱き締めたまま聞かせてくれて、ミシェールが区切りの良い所で止めると、残念そうに笑い、『続きはまた』と言って父親は部屋から出ていった。
おそらく、父親は必死に母親に理解と反省を促していた後に、二人の所へ来てくれていたのだろう。
母親には、エルバルトが戻している事は、1回しか伝わっていない。
その1回目の翌日、専従医師の解任が伝えられ、新たな医師を紹介されたからだ。
エルバルトが戻す理由は、明らかに母親の言葉が原因なのだが、母親はそうは思わなかったようだ。
『未来の国を支えるアストリアの後継が、体調を崩したなど医師の管理不足が原因』と、母親がぼやいていたのを、侍女が耳にし、エルバルトが交流会の後の夕食後に戻す事は、秘匿されるようになったのだ。
夏になり、エルバルトは誕生日が過ぎて5歳になっていた。そんなある日の朝食前、ミシェールは覚悟して母親の部屋へと向かった。
その前日、交流会があり、夕食後のエルバルトは、戻しただけでなく引きつけをおこしたのだ。
父親が侍女に医師を呼ばせ、医師が注射をうち、エルバルトは眠りについたのだ。
母親の部屋へと招き入れられ、ミシェールは使用人達に退室を願った。
使用人達は渋ったものの、母親が了承した事で、部屋から出ていった。
「お母様に、お願いがございます」
震える手に力を入れ、ミシェールは母親を見据えた。
「ご安心なさって。今度こそは良きお医者様に来て頂く手配をしておりますの。ミシェールさんはお優しいもの。エルバルトさんを心配なさっているのでしょう?」
クッションに起こした上半身を預けた母親から返って来た言葉に、ミシェールは心が冷えた。
エルバルトの心配をし、体調を聞くでもなく、いきなり医者の交代の話。ああ、この人は駄目だ。とミシェールは感じた。
「エルバルトと、父上の伯父様の所へ生きたいと存じます」
気付いたら、手の震えは止まっていた。母親に嫌われたら。なんて考えもなくなっていた。
弟を守る事だけが、ミシェールに残った唯一のやるべき事だった。
「今、なんと?」
ゆっくりと母親が身体を起こし、クッションから上半身が離れた。
−ガチャリ!
と背後でドアが激しく開く音がし、ミシェールの身体を父親が抱き寄せた。
「今、なんとおっしゃったの?」
「シェキーラ!落ち着け!」
母親がベッドから素足で降り、父親は悲鳴まじりの声で制止の声をかける。慌てて駆け付けたのだろう、ガウン姿で、縛ってある髪はほつれていた。
その脇を侍女長が駆け抜け、母親の肩にしがみつく。
「公爵様!冷静になさって下さい!」
「ミシェールさんまで!私からエルバルトさんを取り上げるおつもりなの?!エルバルトさんはアストリアの誇り!私の希望!ミシェールさんは分かってくれていたのではないの?!」
血走った目で叫ぶ母親に、侍女が増えてさらに抑えにかかる。
「行きなさい」
異常な光景に、ミシェールが身体を震わせていたら、父親は優しく言い、近くに来た侍女へとミシェールを任せた。
ミシェールは侍女に付き添われ、自室へと連れて行かれ、ベッドに座る事を促された。
メイドが温かいお茶を入れてくれ、それを飲んでいたら、ミシェールは自分の手が震えている事に気付き、カップをメイドに返した。
そこへ、ノックの音がし、エルバルトがメイドと一緒に入室し、ミシェールに駆け寄ってくる。
エルバルトに抱き締められ、ミシェールはその身体を抱き締め返した。
自分は判断を間違えてしまった。とエルバルトを抱き締めたまま後悔した。
その日の朝食は遅くなり、食堂ではなくそれぞれ済ませる事になり、ミシェールはエルバルトと共にした。
落ち着いた頃、父親が部屋へと訪ねてきて、侘びと、父親の兄の候爵家への暫くの滞在を提案された。
「お父様は?」
「私はお母様と話し合う必要がある。二人にとって良い環境に出来るようにな」
ミシェールの問いに、父親は微笑んで首を横に振ったものの、それはこれまでにも話し合いされていた筈だ。でなければ、父親の顔色の悪さを説明出来なかった。
「僕は残るよ。母様は、僕に、頑張って、欲しくて、色々、言ってるて、分かってるんだ。僕は、弱いから、すぐ、吐いちゃうけど。もっと、頑張れば、大丈夫、だから」
震える声で、エルバルトが言った時、ミシェールは息が出来ないような錯覚に陥った。
なんと言えば良いのだろう?とミシェールが思う前に、父親が首を振った。
「少し離れた方が、互いの為になる事もある。向こうで頑張って、成長した姿で戻ってくれば良い。母様を喜ばせると思って、行ってきてくれないだろうか?」
その言葉に、エルバルトは涙を浮かべて頷いたのであった。




