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因縁 5 巣立ち?

シモンの語る話は、子供達に好評となり、修道院に居る淑女達も、入れ代わり立ち代わり楽しんでいて、日常となっていた。

食堂で話をするようになってから、シモンは大袈裟なほどの身振り手振りをし、声色を幾つか使い分けし、臨場感たっぷりに、騎士の日常を面白可笑しく話す。

素人の即興だから、劇団のような精錬された物ではないが、修道院という狭い世界で生きている者には、立派な娯楽と言えた。

今日も皆を楽しませたシモンが、宿へと帰るのを、ミシェールは玄関まで見送っている。

「今日もありがとうございます。こちらは淑女の方々からのお礼です。皆様でどうぞ」

焼き菓子が入った籠を、ミシェールが差し出すと、シモンは籠とミシェールを交互に見て、顔を綻ばせる。

「ありがとうございます。皆様にもお礼をお伝え下さい」

「承りました。そちらはコーヒー味ですので、甘い物が苦手な方でも食べられる筈だとおっしゃってましたので、騎士様方のお口に合うかと思います」

「楽しみです。俺、お菓子好きなんです」

「淑女の方々もお喜びになります」

手放しで喜んだシモンに、ミシェールも満足し、安堵の息を吐いた。

玄関に辿り着いて、シモンはミシェールへと身体を向ける。

「あの、6日後に帰るので、皆さんにお伝えお願い出来ますか?何だか言いそびれてしまいました」

「6日後ですか」

「あ、あの話の返事は、ゆっくりと考えてくれと。そのつもりになったら手紙を送って貰えば。迎えを手配すると、閣下からの伝言です」

「はい。その時はそのように」

「すっかり俺が楽しんでしまってスミマセン。子供を前にすると、楽しんで貰いたくなってしまって」

「いえ。皆様すっかり楽しみにしてましたから、お帰りは残念がります」

「へへ。それは嬉しいです」

鼻を擦り、はにかんだシモンを見て、ミシェールは少し考えるそぶりを見せて、口を開く。

「シモンさんの任務から外れた事をさせておりましたが、何も言われておりませんか?」

「はい。て言うか、俺が勝手に会いに来てるだけです。ここに出掛ける時は毎回せかすな。て注意されてます」

「そうでしたか」

「それに、どんな連中が向こうに居るか、知って貰えれば怖くないかな。と思って話しをしていただけなので、気にしないで下さい」

「ご配慮頂きありがとうございます」

「なので、残り5日ですが、また話にお付き下さい。では、また明日」

「また明日お待ちしてます」

ニコリと笑い、焼き菓子の入った籠を掲げ、シモンは玄関をくぐって、宿へと帰って行った。


食堂に戻り、その事を伝えると、皆は少し肩を落したものの、仕方ないね。と囁き合う。

人との別れは慣れているので、例えどんなに親しんだ相手でも、それはすんなり受け入れられるのだ。

エルバルトがミシェールに歩み寄り、ぎゅっと手を繋いできた。

「楽しみしていたから残念ね」

ミシェールがそう言うと、エルバルトはじぃとミシェールを見て、ゆっくりと顔を横に振る。

「そうね、お別れは慣れたわよね」

エルバルトに頷きで返され、ミシェールは握られた手に力を入れて握り返す。

別れは慣れているが、寂しい気持ちがない訳じゃないのは、ミシェールも知っている。

ここに居る皆、言わないだけで、本当は寂しいと思っている筈だ。

それだけ、シモンはここに溶け込んでいた。

「シモンにお礼の手紙を書きましょう」

一人の淑女が穏やかな声で言い、食堂に居る皆が頷いた。

「文字がまだ書けない子は言って頂戴。一緒に書くわ」

少し清ました声で言ったのは年若い淑女で、普段は子供とは積極的に関わっていないので、周囲の子供は顔を見合わせた。

「俺、カッコいい絵を描く!」

手を上げて言ったのは絵を得意としている男の子で12歳の子だ。

それに続けとばかりに、食堂はあれやこれやと盛り上がった。


4日間、今までと変わらず食堂でシモンの話を聞き、5日目。

修道院へと訪れたシモンは、食堂で子供達に囲まれていた。

「格好良く描けたから、飾ってくれよ」

得意気に絵が描いてある板を見せているのは、絵が得意な男の子だ。

「これ、綺麗でしょ。私達で編んだのよ」

3人の女の子は互いの腕を組んで、代表の子が組紐を見せている。

「おてがみ、かいた」

幼い男の子は、モジモジしながら封筒を差し出していて、皆自分が用意した物をシモンに渡そうと囲んでいるのだ。

それを少し離れた場所から冷静に眺め、ミシェールは隣りを見る。

エルバルトも、シモンに手紙を書いていたが、輪に加わわらず、一緒に輪を見ていたのだ。

後で落ち着いて渡したいのだろう。と推察し、ミシェールは食堂を見渡す。

昨日の夕方から、淑女達が細やかな飾り付けをし、花は今朝摘んだ物が飾られていて、今日はシモンに対する感謝の会として、焼き菓子もテーブルに置かれている。

淑女達も、子供に囲まれているシモンを微笑ましそうに見ている。

まるでここから巣立つような扱いのシモンは、贈り物一つ一つを丁寧に受け取っている。

「モテモテだな。子供に」

一つのテーブル席を陣取り、椅子に窮屈そうに腰掛け、ミハエルは焼き菓子を一つ摘んだ。

明日出発の前に、ミシェールとエルバルトの顔を見に来たついでに、理事長のナンジーに挨拶をしに来たのだ。

そして、シモンに対する感謝の会への同席を、ナンジーが勧めた。

「シモンさんは裏表がないですし、見た目も大きくないので、親しまれておりますから」

ミハエルの側に立ち、ミシェールはシモンに視線を送る。

今は淑女から順番に抱擁と手紙を渡されていて、シモンは少し顔を赤らめて受け取っている。

横から、ミハエルが問いかける。

「置いていっても良いが、どうして欲しい?」

「シモンさんは閣下の所に居るのが一番かと存じます。騎士様方もお待ちなのですよね」

「あいつはここでも十分だと思うが」

「それは、シモンさんご本人にご確認されるべきかと。閣下はおっしゃいました。自由に選べと。シモンさんにもその権利はあるかと存じます。違いますか?」

ミハエルをじっと見据え問掛けてきたミシェールに、彼はぷっと吹き出す。

「確かに。あいつにも選ぶ権利があるな」

そう言って笑いを引っ込め、ミハエルはミシェールへと視線を送る。

「いつまでも待つ。俺の所が嫌なら別の良い所を紹介もしてやれる。ここが良いなら、後見人としてやりたい事をさせてやれる。俺を利用しろ。遠慮なんざ鳥の餌にでもしてやれ」

「なぜ、そこまで?」

真剣な表情で告げられた支援を惜しまない言葉に、ミシェールは首を傾げた。

会ったのは一度きりの縁の薄い親戚なのに、罪人の子供へと手をのばすこの男が、ミシェールの理解を超えていたのだ。

「因果てやつだな」

少し考える仕草をした後、ミハエルはそう言って歯を見せて笑った。

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