因縁 4 シモン
あの後も、ミハエルの所の快適さを、シモンが幾つも披露し、ミハエルが適当な所で止め、二人は帰っていった。
それを見送り、ミシェールは溜め息と共に零す。
「変な方」
その一言に尽きた。
シモンと初めて会ったあの日、ミシェールは身構えていた。
これから会うのは、何かの悪事にミシェールとエルバルトを利用する人間か、暴力で支配するような人間かのどちらかだろうと。
そして、対面室で待っていたのが、赤い髪の若い男で、見た目も少し子供っぽく、身体もガッシリしていなかった。暴力を振るうような身体付きじゃない事に、ミシェールは少し安心出来た。
だが、ナンジーから名前をシモンと聞かされ、ミシェールは一瞬ドキリとした。
父親のミドルネームと同じだったのだ。
ブライト・シモン・アストリア。2年程に罰を受けて死んだという事実だけを、ミシェールとエルバルトは知っている。
ナンジーは三人でお話ししてみて。と早々に部屋を出ていき、残ったのはミシェールと、喋らないエルバルト。
そして人懐っこい笑みをずっと浮かべているシモンという男。
髪はミシェールが見た事のない、燃えるような赤い色で、挨拶したきり喋らないシモンに、何をしに来たのか?と思って、言葉が通じない可能性に辿り着いた。
言葉が通じないのなら書いても通じないかも知れない、何をしに来たのか分からず、どう対処したら良いのか戸惑い、席を外したナンジーが戻るまで、無言で見つめ合っていた。
戻って来たナンジーにすらすらとシモンが喋った時は、使う言語が同じな事に、ミシェールは内心驚いた。
また。と言いながら、その翌日に来られ、何かよく分からなかったが、シモンが興奮していた事は理解出来た。
そして、またその翌日の今日。
何故かミシェール様呼ばわりで、そして、少し言葉が通じないくらいの暴走加減。
今までに接した事のない不思議な性格だというのは分かった。そして、上司のミハエルを尊敬しているのも。
良い人なのだろう。とはミシェールは思う。何でも言ってしまう事は玉に瑕だが、嘘がない言葉は、勘ぐる必要がないから良い。ただ、たまに話しが通じなくなるので、ずっと一緒だと相当疲れると予想出来る。
シモンの仕事仲間や上司は大変だろう。と顔も知らぬ方々の苦労を思い、ミシェールは溜め息を一つ吐いた。
クイッと袖を引っ張られ、ミシェールは意識をそちらへと移す。弟のエルバルトがミシェールの袖を握っていた。
「私は行かないけど、バルはどうする?」
自身の言葉に、首を横に振ったエルバルトを見て、ミシェールも首を振る。
「私に気を使っているなら、良いのよ?バルが行きたいなら、別々になっても良いし、一緒に行っても良いわ」
エルバルトは、ミシェールの腕にしがみつき、首を横に振って答えた。
その後、毎日シモンはやって来て、騎士仲間の話しを色々しては、宿へと帰っていく。
ミハエルは休暇でこちらに来てるのに、来客が来て困っているようだ。という事はシモンの会話から知った。
あの不遜な男が、望まぬ来客をもてなすのは意外だと思っていたが、困った事になった。
初対面から1週間経った日、シモンが帰った後、修道院仲間の子供達がいつ結婚するのか?と聞いてきたのだ。
シモンの年齢は16歳で、ミシェールは13歳。年の近い男女が会っているから、そんな飛躍した話しになった事は理解出来た。
だが、シモンと会う時、そこにはエルバルトも居る。
対面室の様子を覗ける部屋もある。
それを知っていてのこの質問に、ミシェールは目眩がしそうになった。
その翌日、やはりシモンは来た。
対面室へとエルバルトと向かい、ミシェールはドアを開け放ったまま言う。
「シモンさんのお話、ここの子達も聞きたいそうなの。食堂でご披露お願いして良いかですか?」
勿論、シモンはそれに一も二もなく頷いた。
「楽しみだなあ、俺、養護院育ちなんで、よくチビ達の相手してたんです」
廊下を先導しているミシェールに、シモンは世間話のように話し始めた。
「こんな髪ですから、多分、どこか他の国の血が混じってるんだと思います。捨てた理由がそれかどうかも分からないですが、養護院が当たり前として育ってるので、変に謝ったりしないで下さい。謝られたら、俺が不憫だと思われている事になります。それは嫌なんです。養護院の皆が家族ですから」
「大事にされてるのですね。ご家族を」
「はい。だから、ミシェール様がここを離れたくない。て言ってるのは、少し嬉しいです。ご両親の事が大事だから、だからその罪をここで償いたいのかな?て思ってるんです」
「え?」
ピタリと先を歩いていたミシェールの足が止まり、エルバルトも慌てて足を止め、シモンも合わせて足を止める。
「私が、なぜ両親が大事だとお思いに?」
「大事に思っていなければ、両親が罪人だからとその罪を背負うなんて思わない。と思います。養護院には色んな子供が居ます。俺は親の顔を知らないですが、親から暴力を受けていた子、罵られることが日常だった子、そんな子供達も、やっぱり両親が好きだったんです。勿論、中には興味ない、なんて子も居ました」
そこまで言ったシモンが、長く息を吐く。
「その子供の父親が、盗みを働いたみたいで、どこでどう調べたのか、盗んだ金を返せ、て養護院にまで押しかけて来られた事がありました。その子供は、そんなヤツ知らない。知らない人間がした事だ。て言って追い返しました」
「養護院に居る子供にお金を返せなんて」
話のあまりの酷さに、ミシェールは振り返ってシモンを見た。
その視線に、シモンは肩を竦める。
「それだけ、大事なお金だったかも知れないですし、平民だと、少しのお金でも命取りなんです。だから、あれは仕方ないて分かってる。悪いのはお金を盗んだヤツだけ」
言い終わると、シモンはパッと表情を人懐っこい笑顔に変える。
「そんな訳で、ミシェール様達は気兼ねなくお考え下さい。ご両親を大事にされてるお二人が、一生懸命考えて出した答えを、俺は楽しみにしてるのです」
「ええ。お言葉に甘えて時間をかけて考えさせて頂きます」
「やっぱミシェール様は格好良いです!」
ミシェールが言うと、シモンは興奮したように言い、嬉しそうに笑った。
本当に、変な人だ。と思いながら、身体の向きを変え、ミシェールはエルバルトの手を取り、食堂へと向かった。




