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因縁 3 両親の罪

「今日来て下さった方が、貴方達を揃って引き取る。と言って下さった方よ。ちょっと怖そうだし、言葉遣いもあれだけど、凄く良い話だと思うの」

そう言って、ナンジーは二人へと微笑みかける。

予想通りだったので、驚く事はなく、ミシェールはナンジーの目を見る。

「勿体ない話なので驚いております。考えさせて下さい」

「それは、エルバルトも同じ意見?」

ナンジーの問いに、エルバルトは頷きで返し、ミシェールと手を繋ぐ。

「二人を引き離す話じゃないのよ?正直、あの方以上の方はいらっしゃらないわ」

「それは知っております。一度ご挨拶した覚えがあります」

困った表情を浮かべたナンジーに、ミシェールは頷いた。

社交界デビュー前に、家名を取り上げられたので、社交の場には出て居ないが、ミシェールはミハエルと挨拶した事がある。

祖母の葬儀の時で、母親に呼ばれ、彼に挨拶したのだ。ミハエルは家名は言わず、母親の従兄弟のミハエルだとだけ告げたが、身なりを見れば一目瞭然だった。

質の良い服で、皆がミハエルに頭を下げていた。

そして、アストリアは王家とは縁が深く、曾祖母は王家からの輿入れだ。彼の素性などすぐ気付いた。その時の、あの鋭い赤い目が印象的で、ミシェールは彼を覚えていたのだ。

「ご両親の事を気にしていたわね」

頑ななミシェールの態度に、ナンジーは溜め息と共に、スカートのポケットから紙を取り出した。

それはミシェールの目の前へと置かれる。

「読んでみて。エルバルトにも聞かせてあげて」

ナンジーに勧められ、ミシェールは紙を広げる。

『王子誕生の慶事により、社会復帰を促進するという政策的な見地から、今般、恩赦を実施する。

下記に該当する者は、社会への復帰を認める。

・初犯の軽犯罪者で、被害者への謝罪が十分出来ている者

・軽犯罪者で病気で刑の執行が困難な者

・本人の所業によらない罪で監視処置を受けている者で、本人に社会への怨嗟や義憤の念がないと、監督者が判断した者。

※ただし、どちらにおいても、身元引受人が居ない場合は除外となる』

全てを淡々と読み上げ、ミシェールはナンジーを見る。

「こんな物は意味がないと思います。罪人の子供だという事実は変わりません。閣下の元へ行けば、閣下の評判に関わります」

「ミシェールとエルバルトだけじゃない。他にもやり直す機会を与えられているの。貴方達は若いの。ご両親の罪に囚われて生きるには長すぎるわ」

「ナンジー先生。閣下とのお約束をお忘れですか?私達にはゆっくり考えさせて欲しいとおっしゃっておりました」

必死に言葉を紡ぐナンジーに、ミシェールは普段以上に冷たく感じるようにと言葉を返した。

その冷たさに、ナンジーは息を飲み、頭を下げる。

「ごめんなさい。冷静さを欠いていたわ。私の考えを押し付けてしまってたのね」

「私達を思っての事なのは分かっております。ですが、両親の罪を背負う覚悟をしていたのです。いきなり、もういい。と取り上げられても、両親との繋がりまで取り上げられる気分です」

「そう感じてしまったのね。ごめんなさい。貴方達の罪の意識がなくなればと思ったのだけれど、軽率だったわ」

溜め息を吐き目を伏せたミシェールに、ナンジーは再度謝罪をした。

それにミシェールは顔を横に振る。

「いえ。なので、受け止める時間を下さい。それから考えさせて頂きます」

「そうね。ゆっくり考えて」

ナンジーに見送られ、ミシェールとエルバルトは書斎へと向かった。


そこは、誰でも使えるように開放されており、院から出て行った者や、理解者からの本が寄贈されていて、修道院の子供はその本で勉強をする。

分からない事は、自分で調べ、それでも分からなければ、修道院に住む女性陣に聞けば、大体解決出来るのだ。

法律に関する本を探し出し、ミシェールはそれを取り出す。

分厚いそれは、まだ子供の身体では少し重く、慎重に机に置く。

エルバルトがミシェールの隣りに座り、ページを押さえ、本を見やすいようにした。

「ありがとう」

小さく礼を言い、ミシェールは目次を流し読む。

軽犯罪の一覧がズラリとあり、犯罪の重さによって、分けられているようだった。

目次を捲り、重犯罪の一覧を見つけたものの、ミシェールは頭を振る。

両親が何をして裁かれたのかなんて、本には書いてないのだ。書かれているのは、犯罪に対して、これだけの刑罰がある。と説明されているだけ。

死罪になるのなら、重犯罪なのだろうが、幾つかの犯罪が書かれているので、一つに絞る事は出来ない。

「他の勉強しましょ」

分厚い本を閉じ、ミシェールはそれを本棚へと戻す。

二人で思い思いに本を選び、姉と弟は書斎を出て行く。部屋にある黒板で書きながら勉強する為だ。


翌日、またもシモンがミハエルと共に会いに来た。

修道院仲間は、とうとう二人が引き取られるのか?!と騒ぎ立てる中、ミシェールはエルバルトを連れて対面室に入る。

「よぉ」

「おはよう、ミシェール嬢、エルバルト君」

相変わらず座って待ってたミハエルと、笑顔で立って待っていたシモンに、ミシェールとエルバルトは揃って一礼し、向かいへと座る。

ミシェールがミハエルの向かい、エルバルトがシモンの向かいだ。

「今日はどのようなご用向きですか?昨日の今日では、ゆっくり考える時間はございませんでしたので、お返事は出来かねます」

「ミシェール様、さすがです」

ゆっくり噛んで含めるように言ったミシェールに、何故かシモンが興奮し、絶賛を送る。

ミシェールはついそちらへと視線を送った。

「閣下相手に、あんな堂々と言えるだなんて、尊敬します!あ、ミシェール様て呼んで良いですか?」

「はあ」

「いやぁ、凄いです!カッコいい!」

ミシェールが曖昧に返しても、全くそれに気付く様子のないシモンに、ミハエルが背中を叩いて止める。

「落ち着け。話しにならん。大体、初対面で緊張してた癖に、さっきからベラベラと」

「尊敬は緊張を超えるのです!」

自慢げに自身の胸を叩いたシモンに、ミハエルは顔を小さく横に振り、話題を本題へと戻す。

「さて、二人を呼ぶ前に、理事長と話をしたのだが、両親の罪を意識するのは当然だ。だが、俺への余計な心配は無用だ。周りの評判なんて心配ないくらいに領内は安定させているし、貴族界隈じゃすでに色々言われすぎて、一つ増えたくらい屁でもない」

「はしたない表現ですが」

「それは良く言われる。もっと相応しくしろ。とうるさいジジィ共にな」

ミシェールの注意の言葉に、ミハエルは歯を見せて笑う。

「普段はもっと酷いですからね。ミシェール様は聞いた事のないような言葉遣いばかりですよ」

目の前に本人が居るのに、シモンは内緒話でもするかのように、口に手を宛ててそう言った。

その様子に、ミシェールはつい溢してしまう。

「随分、自由な部下なのですね」

「閣下は口も態度もガタイもデカいですが、器もデカいのです」

ミハエルに向けて言ったミシェールの言葉に、シモンは父親を自慢する子供のような顔で応えた。

それに、ミシェールは顔をそちらへと向け言う。

「それは良かったです」

「俺、閣下の所に入れて凄く幸運だと思ってます」

そう言い、シモンは笑顔を送った。

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