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因縁 2 修道院

翌日、また同じ男が二人に会いに来た。

対面室へと姉弟で揃って入れば、大きな身体の男が椅子に座って待っていた。

昨日来た男は立って待っていて、ミシェールとエルバルトに笑顔を向ける。

「おはようございます。今日はもう一人連れて来ました」

「おはよう、ございます」

「やった、声が聞けた」

ミシェールが挨拶すれば、男は得意気に座っている大男を見る。

「閣下、やりました!」

「挨拶だけだろ。」

閣下と呼ばれた大男は、そう溜め息を吐くと、ゆっくりと立ち上がり、ミシェールとエルバルトの前に立つ。

高い背で見下され、ミシェールはエルバルトを自身の後ろへと立たせる。

大男がゆっくりと膝を折り、腰を曲げてミシェールと視線を合わせ、

「ミハエルだ。好きに呼んでくれ」

言葉と共に、右手が差し出される。

大きな手と顔を交互に見て、ミシェールは右手をそれに添える。

「ミシェールです。こっちは弟のエルバルトです」

左手でエルバルトを自身の横へと立たせると、エルバルトがミハエルに向かい小さく頭を下げた。

「座って話そう」

小さく頷き返し、ミハエルがゆっくりと立ち上がる。

「ミシェール、エルバルト」

付き添っていた理事長のナンジーがそっと背中を押し、席へと促した。

三人が昨日と同じ所に腰を下ろすと、ミシェールの目の前にミハエルが座った。

白が混じり始めた赤みのある金髪が艶を放ち背中を覆っており、赤い瞳でじっとミシェールを見ている。

「昨日、こいつと話さなかったのは何か理由が?」

「赤い、髪なので、」

ミハエルの問いに、ミシェールはミハエルの横に座った男を見る。

生まれてから初めて見た髪の色をしている。

燃えるような赤い髪に、幼さが少し残った赤茶の瞳と、口は友好を示すようににこやかな笑みを浮かべていたが、驚愕へと変わる。

「え?髪のせい?」

「言葉が通じないかも知れないと、黙っておりました」

そう言って、ミシェールは小さく頭を下げた。

「ん?シモン。話し掛けていないのか?」

「挨拶はしました。ただ、ミシェール嬢と何を話したら良いのか分かりませんでした」

ミハエルが隣りから睨めば、男シモンは堂々と言い放った。

途端、ミハエルの目が細くなる。

「任せてくれと自分から名乗り出ておいて、何やらかしてるんだ」

「だって!見て下さいよ。まだ13歳なのに、背筋はシャンと伸びてて、所作なんかも綺麗で!俺の周りにこんな立派な淑女居ませんでした!なので話しなんて無理でした」

シモンは手でミシェールを示し、ハキハキと答える。

その手の先、ミシェールは背筋を伸ばし、手は綺麗に揃えて膝に置き、灰色のワンピースなのにドレスでも着ているかのように、シモンには見えた。

それに、ミハエルは呆れたように口を開く。

「いや、俺の奥方様が居るだろ。文句のつけようのない淑女が」

「奥方様は大人ですし、お仕えする方で、何よりお優しい雰囲気。対してミシェール嬢は、なんだか話し掛ける事も憚れます。彼女を子供として扱えませんでした。なんなら女王様と呼びたいくらいです」

「アホか」

段々興奮したようで、シモンが鼻息荒く自身を見て来たので、ミハエルは頭を抱えたい気分になった。

ミハエルがそろりと向かいに視線を送っても、微動だにする事もなく、表情も変わらないミシェール。

この状況でこれとは、さすがアストリアの娘だ。と妙な感心をし、ミハエルはそちらへと顔を向ける。

「まずは、話しをしに来たのにロクに会話をしなかった部下の不出来を詫びよう」

言うやいなや、ミハエルはゆっくりと頭を下げて上げる。そして、ミシェールの隣りに座るナンジーへと声をかける。

「理事長、引き取るという説明はしてあるのだな?」

「はい。お話しを頂いてすぐに。ただ、二人共に戸惑っております」

「そうか。まあ、ゆっくりと考えさせてやってくれ。無理強いしても良い事はない」

「畏まりました」

ナンジーの返事に、ミハエルは大きく頷き、ミシェールへと顔を向ける。

「という訳で、自分がしたいように選んでくれて構わない。ただ、説得はさせて貰う。これは俺がしたい事をしているだけだ。迷惑かもしれんが諦めてくれ」

「したい事を?」

「ああ。二人にはまだ沢山の可能性がある。その可能性を広げてやるのが、大人の役目だ。自由に選べる事を諦めるには若すぎる」

じっと目を見てくるミシェールに、ミハエルは大きく頷いて言った。

それに、ミシェールは深く頭を下げる。

「私共のためにここまで心を砕いて頂き、感謝申し上げます。お言葉に甘えて、時間をかけて考えさせて頂きます」

「まあ、そうしてくれ」

鷹揚に頷き、ミハエルは帰る事を伝え、シモンを連れて修道院を出る。

「ありゃ手強いな。無理そうだ」

「ですね。俺なんかが説得出来る相手じゃないです」

遠い目をしたミハエルに、シモンは勢いよく首を縦に振った。

ミシェールは考えるとは言ったが、あれはどう聞いても遠回しの断りの文句だった。エクレナール国の筆頭公爵アストリアで育っただけある。

それだけに残念だとミハエルは思う。彼女の母親が王族を毒殺などしていなければ、社交界で女帝と呼ばれた母親と同じように、彼女も社交界で活躍出来た筈だと。

親の割を食うのは力のない子供だ。ミハエルには、そこから掬い上げるだけの力がある。

王兄なんて大層な物で、早く手放したいが、こういう時に使えるので、なかなかそれが出来ていない。

嫌だ嫌だと言いながらも、それを活用するのだから、自分はやはり身勝手な王族なのだ。と自己嫌悪し、ミハエルは修道院を見上げる。

レンガ造りの二階建てで、身を寄せる場所のない女性と子供が生活を共にしている場所だ。

創設者は王家の縁者で、ナンジーの前任者も王家に縁のある人物だ。

ナンジー自身は元利用者で、年齢は40。家出同然で結婚した相手に先立たれ、子供を婚家に取り上げられ、彼女は身一つで追い出された経緯で、ここに身を寄せた。

世の不条理の塊のように見え、ミハエルは溜め息を吐く。

こうして身を寄せ合って生きている女子供が居る事は、王族として不甲斐なく感じるのだ。

ただ、ここがあるから、彼女らが生きていられる事実がある。ここがなければ、搾取されて生きる可能性もあるのだ。

だから、ミハエルは自分が出来る事をする。それが、ミシェールとエルバルトに手を伸ばす事だった。

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