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因縁 1 戸惑いの始まり

主人公が変わります

一部は二部への導入で、

二部が本編です

彼女は戸惑っていた。

11歳の時にここへと送られ、2年が経った。

ずっとここで、息を潜めて生きるのが使命だと、そう信じていた。

それだけ、自分は罪深いのだと思っていた。

だから、迷惑にならないようにと、やった事のない、身支度、掃除、洗濯、料理を覚えて頑張っていた。それは頑張っていれば、厄介者扱いされないだろう。という思惑があったからだ。

追い出されはしないだろうが、自分の存在自体が厄介だと分かっていたのだ。せめて身の回りくらいは出来なければ、申し訳がなかった。

9歳の弟も、幸いな事に一緒だったから、姉弟で肩寄せあって暮らせれば満足だったのだ。

ここは修道院で、彼女も弟も、ここに預けられている。恐らく一生出られないだろうと覚悟をしていた。

預けられた理由は、彼女も、弟もそれとなく知っていた。

大人達は知られないようにしていたが、生活をしていれば単語単語は聞こえ、それを繋ぎ合わせれば想像がつく。両親が悪い事をして、自分達はここへ送られたのだと。

そして、両親が罰を受けて死んだ事も。

彼女の名前はミシェール。ここに来る前は、ミシェール・リンド・アストリア、長い銀の髪を長い前髪と共に後ろで縛り、緑の目は少し細く、少し冷たい印象のある顔つきで、現在13歳。

弟の名前はエルバルト。元の名前はエルバルト・レン・アストリア、少し癖のある銀の髪に、タレ目がちな赤い目の現在9歳。

シェキーラとブライトの子供で、デュクリスの妹と弟である。


季節は実りの秋で、王太子ユーモンドと王太子妃イネッサの間に、王子が誕生し国中が歓喜していた。

秋に咲く花をなんとか飾る家もあれば、鮮やかな布を飾る家など、それぞれの精一杯で街を飾り、王子を皆で祝福した。

王太子妃の出身国の皇国から、お祝いとして焼き菓子が配られ、配布所の聖堂に街の人間はこぞって並んだ。

各修道院にもそれは贈られ、ミシェールとエルバルトもそれを受け取ったのが、3週間前の事だった。

8日前、理事長に呼び出され、ミシェールとエルバルトは庭の草むしりを中断し、理事長室へと入った。そして二人を引き取ってくれる人が現れたと説明された。

相手は国の偉い人で、二人揃って引き取ってくれる。近い内に会いに来てくれるから、ぜひ会ってみないか。と続けて言われ、ミシェールとエルバルトは揃って頷いた。

修道院で暮らしている子供は、たまに希望する大人達に引き取られていたので、その話自体は不思議ではないのだが、二人は裏があるだろうと警戒した。

二人の両親は罪人で、普通の大人が罪人の子供を欲しがるとは到底思って居なかったのだ。

理事長のナンジーは良い人だから、変な相手なら断ってくれると信頼している。だが、それが暴力を振るうような相手だったら、ナンジーが怪我をしてしまう恐れがある。

何かあったら二人で身体を張って守ろうと誓い合い、二人で対面室へと挑んだ。


ガチャリとドアが開く音がして、ナンジーが部屋へと入ってきた。

「お話出来ました?」

言いながら、ナンジーがミシェールの隣りへと腰掛ける。

「いえ。残念ながら」

ミシェールの向かいにいる男が首を振った。

この男が、彼女の戸惑いの原因だった。

彼女と弟を引き取ると言っている人の部下で、今日は二人に会う為に修道院を訪ねて来たのだ。

赤い髪の男。見た目はまだ子供っぽく、身体もガッシリしていなかったので、暴力の心配はなくなった。

では口先だけで、何かよからぬ事に利用しようとしているのか?と警戒してみれば、その様子がない。何をしに来たのか?と困惑していた所、ナンジーが戻ってきてくれた。

ナンジーは三人をそれぞれ紹介し、三人で話す事を勧め、暫く席を外していたのだ。初対面の相手とだけで数分放置はどうなのか?とミシェールは素朴な疑問を飲み込んだ。

「いきなり三人だけにしたのがいけなかったのかしら?ごめんなさい」

「また来ます。ミシェール嬢、エルバルト君、次はお話しをしましょう」

謝罪したナンジーに、男が立ち上がりそう言い、彼女ミシェールと、弟エルバルトに笑顔で手を振り、対面室から出て行った。

「ミシェール?貴女どうしたの?物怖じしない筈なのに」

ミシェールの頭を撫で、ナンジーは心配そうにその顔を覗く。

いつも無表情のミシェールなので、表情は読めないが、少しでも何か分かればと、彼女と話す時はそれを心掛けているのだ。

「ナンジー先生、私もバルも、ここを出てはいけないのではないのですか?」

「まぁ、どこでそんな話を?心配しなくても良いのよ。良い方が居れば頼る事も出来るのよ」

宥めるようにナンジーが言うも、ミシェールは首を振る。

「父も母も悪い事をしたから、罰を受けて死んだのだと知っています。私達はここで監視を受けているのでは?」

「ミシェールもエルバルトも、悪い事なんかしてないの。だから、ここを出ても良いの。そんな悲しいこと考えないで」

「考えておきます」

そう無表情で言い、ミシェールは椅子から降り、先に椅子から降りて待っていたエルバルトの手を取って、部屋から出ていった。

エルバルトはここに来てからの約2年。声を出している所を誰も聞いた事がなかった。

割り振られた部屋へと戻り、ミシェールはエルバルトを抱き締めた。

修道院に来て、何人かの修道院仲間の子供が、引き取られるのを見送った。

引き取られる前には、何度か顔合わせをし、相性が合うかを確認されるので、出ていく子供達は少し照れくさそうに、そして嬉しそうに連れて行かれる。

ミシェール達には無縁な話だから、羨ましいと思った事はない。出られない事は分かっていたのだ。

だがここに来て、急に出て行けると。質の悪い悪巧みでも、暴力的な所への拉致でもなく、これは本当の話だとやっと理解が追いついてきた。

エルバルトから少し距離を取り、ミシェールは口を開く。

「ここを出られるなら、出たい?」

エルバルトはミシェールの両手をぎゅっと掴み、首を横に振った。

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