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因果 27 終結

鎮魂祭の参拝が一段落つき、司祭は従僕の案内で屋敷へと戻っていった。

これで解散だろう。とヴィヴィアンナが息を吐くと、ミハエルに肩を掴まれた。

抱かれたのではなく、逃げるのを止めるような掴まれ方で、痛みはない。という器用な事をしてくれている。

「せっかくだ。式を挙げよう」

周囲を見渡し、ミハエルがニヤリと笑った。

「どなたの?」

戸惑いながらヴィヴィアンナはミハエルを見る。

その横から、侍女長が薄いレースの布を掲げる。

「ヴィヴィアンナ様こちらを」

それは、参拝台に置いてあった物で、てっきりこの地方の風習なのかしら?とヴィヴィアンナが思っていた物だ。

手に取り広げれば、頭に被れる大きさで、趣向も凝っている。

そして、なぜか名前で呼んだ侍女長。ミハエルと婚姻してからずっと奥方様と呼ばれていたのに、何故かなんて聞けない雰囲気で、ヴィヴィアンナはミハエルに視線を向ける。

ミハエルは無言で視線を他へと向けていた。

その視線を辿ると、騎士仲間三人に左右と後ろから捕まえられているデューが。

「える、さま。わたくしは、あなた、さまの、つま、ですが」

「形式上のな。言った筈だ好きにしろと。籍はどうにもならないが、式を挙げるくらいならしてやれる」

上手く言葉が出てこず、辿々しくヴィヴィアンナが言えば、ミハエルは鼻で笑い、デューに向かって数歩歩く。

「どうする?逃げるか?」

「まさか。ここまでされて逃げたら、駄目すぎます」

何かを見定めるように目を細めたミハエルに、デューはしっかり視線を返す。

それに、ミハエルは満足そうに頷く。

使用人達はすでに動いていて、礼拝堂を出ていたメイドがブーケを持って入って来て、侍女長へと渡す。

それを侍女長が確認している間に、侍女は呆然と立っていたヴィヴィアンナを長椅子へと座らせる。

鎮魂祭用に、控えめだったメイクに、粉をはたき、色を乗せ、ヴィヴィアンナが持っているベールを頭に乗せ、侍女は侍女長へと頷く。

デューは、白い騎士服にサファイアのブローチが付けられ、神像の前まで従僕に案内された。

「さあ、ヴィヴィアンナ様こちらを」

ブーケが侍女長からヴィヴィアンナへと渡り、ヴィヴィアンナの前にミハエルが立ち、手を差し出す。

「さすがに侯爵を連れて来れないからな、代わりでは不満か?」

「滅相もございません」

泣きそうになるのを堪え、ヴィヴィアンナはミハエルの手を取り、立ち上がった。

一度礼拝堂の玄関まで歩き、そこで振り返る。

使用人達が中央を開けて並び、悪戯が成功した事を喜んでいるような顔、嬉しそうに笑っている顔、涙ぐんでいるのは騎士団長で、色んな表情が、祝福しているのを感じ、ヴィヴィアンナは一度目を閉じ、ゆっくりと開け、微笑んでみせた。

「さあ、行こう」

ミハエルの言葉と共に、彼の腕に手をかけ、ヴィヴィアンナは歩き出す。

一人のメイドが、賛美歌を美しい声で歌い出した。

他の者は一切身動きせず、賛美歌とミハエルと共に、ヴィヴィアンナはデューの所まで歩く。

「エル様。彼女に特別手当を」

「好きにしたら良い。ヴィヴィアンナの範疇だ」

ヴィヴィアンナがこっそり言えば、ミハエルが口の端を上げて答えた。

わずかな時間で、デューの元へと着き、ミハエルとデューが一礼し、デューが笑顔で手を差し出してくる。

それに、ヴィヴィアンナは笑顔で手を取り、勢いをつけてデューへと抱きつく。

「おいおい」

ミハエルが呆れたように笑い、使用人達が吹き出して笑い、今までの静寂が嘘のようだ。

「好きよ。だから、ずっと一緒に居て。逃げても追いかけるから」

「俺も。ヴィアが好き。愛してる。逃げなくて済むように全力で頑張る」

ヴィヴィアンナの言葉に、デューも応え、彼女を抱き締め返す。

「お貴族様!キス忘れてるぞ!」

聞き慣れた揶揄に、デューは吹き出した。

彼はいつも、デューを押してくれる。その有り難い存在に、何を返してやろうか。と考えながら、抱き締める力を弱め、ヴィヴィアンナの肩をそっと押し、距離を取った。

ヴィヴィアンナが少し膝を折り、デューはベールをそっとめくり、彼女の肩を支え、膝を伸ばすのを手伝う。

「ヴィア。凄く綺麗だ。こんな綺麗な姿見られるなんて、夢みたいだ」

「ふふ」

見惚れてデューが言えば、ヴィヴィアンナはくすぐったそうに笑う。

騎士仲間からは冷やかしの声が聞こえるが、デューは無視した。

せっかくの雰囲気が台無しだからだ。

一歩ヴィヴィアンナへと近寄り、デューは彼女の両肩に手を添える。

ヴィヴィアンナの目が閉じられ、デューはそっと口を当てる。

ヴィヴィアンナに肩を叩かれ、デューはそっと離れた。

「長いわ」

「離れたくなかったんだ」

口を尖らせて文句を言ったヴィヴィアンナに、デューは照れくさそうに微笑み返した。

長い口付けに、周囲はポカンとしており、ぷっ!と音がしたと思ったら、それは爆笑へと変わった。

ミハエルだ。

それに釣られ、あちこちで笑い出す。

「結婚式てこんなに賑やかだっけ?」

「さあ?でも、楽しいなら良い事だと思わない?」

笑みを含んだ声でデューが言えば、ヴィヴィアンナも楽しげな声で返し、デューに抱きつく。

「死が別つまで。ね」

「一緒に歩こう。距離が出来ても、立ち止まって待つ事も、追い付く事も出来る。迷ったら一緒に考えよう。どんな方法があるのか」

ヴィヴィアンナを抱き締め返し、デューはあの約束を思い出した。

『歩きましょ。こうして並んで、散歩しながらお話する。たまにさっきみたいに距離が出来ても、追い付けば良いし、立ち止まって待っても良い』

あの時は、そんな意味ではなかったのだろうが、こうなってみると、まるで夫婦の約束事のようで、ヴィヴィアンナは、あの時からこうなると、分かっていたのだろうか?と、デューは不思議な気分になった。

「さあ、やる事やったし、解散するぞ」

いつまでも笑っている周囲に、ミハエルは手を叩き声を張り上げた。

騎士団長がそれに笑いながらも頷き、騎士連中に解散を促す。

バラバラと去りながらも、彼らは遠くからデューに声を掛けていく。

使用人達も一様に祝福を伝えてから去って行き、礼拝堂に残るのはミハエル、デュー、ヴィヴィアンナ。そして執事と、侍女長と、騎士団長。

玄関の向こうにも、恐らく騎士が少し残されているだろう。

「式挙げたからって、アンナは俺の妻だからな。泣かせたら承知しないからな」

デューを指で小突き、ミハエルはニヤリと笑って執事を連れて礼拝堂から出ていった。

「なんなのかしらあの方は」

クスクスと笑いながらも、ヴィヴィアンナの目に涙が光り、デューが侍女長から渡されたハンカチでそれを吸わせる。

ペチンと両頬を叩き、ヴィヴィアンナは気持ちを切り替えた。

「さあ、仕事が待ってるわ。デューは?」

「夜勤だから、まだ時間ある」

「そう。じゃあ、頑張って来るわ」

ウインク一つし、ヴィヴィアンナはベールとブーケを侍女長に渡し、歩きだす。

侍女長と騎士団長も後に続き、残ったのはデューだけだ。

「父上。ありがとう」

神像に向かい、一度深く頭を下げ、デューを礼拝堂を出て行った。




一部 完

一部

これにて完了です


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