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因果 24 悩める

ミハエルとヴィヴィアンナが皇帝からの贈り物に悩んでいた頃、デューも悩んでいた。

ヴィヴィアンナから思ってもいなかった告白と、頬への口付けをされてから2週間を過ぎた。

その間、ヴィヴィアンナから呼び出される事はなかった。

あの日の2日後、彼女はデューの雇い主である大公ミハエルと婚姻し、晴れて夫婦となった。

婚姻の儀の前日にモントルア侯爵夫妻が来て、ヴィヴィアンナは両親との時間を過ごしていたようだったし、当日は朝早くに大聖堂へと出向き、夜は王宮に泊まり、別邸に帰ってきたのは、儀式の翌日の昼前。

戻っても忙しいようで、彼女が自室で籠もっていても、侍女やメイドの出入りが多かったし、お茶会に行ったり、人を招いたりとしていたようだった。

巡回警備が主の仕事のデューは、それをそれとなく知っているだけで、ヴィヴィアンナの姿を見られるのは一日一回あれば良い方であった。

会えたらと、なんとなく、朝の散歩をしてみても、ヴィヴィアンナの姿は見かけず、毎日肩を落としていた。

部屋へ会いに行けたら良いが、さすがにそれは憚られたし、そこまで会いたいのか?と考えると分からなかった。

『デューが好き』と言った彼女は、今は人妻だ。

からかいではない。と言われても、それを本気にしてもどうにもならない現実がある。

何を悩む事があるのか。とデューの冷静な所は思うのだ。ヴィヴィアンナからの申し出など、受ける事など出来る筈がないと。会って断われと。

だけど、思ってしまった。

見る事は叶わなかったヴィヴィアンナの婚礼衣装は、きっと綺麗だっただろうと。披露の夜会では、ミハエルとファーストダンスをしたのだろうと。

なぜかそう思うと、胸が苦しくなり、会いたいのに会いたくない。という相反する思いになり、デューを悩ませていた。

そんな中、出立の延期が使用人に知らされた。

屋敷中が騒がしくなり、騎士団の上層部が集まって何か話し合いをしている。

一瞬有事か?とデューは緊張したが、武装の指示がない事からそれはすぐに打ち消した。そして、馬車を増やす事になって、その手配に忙しいのだと知った。

それに、デューは安堵した。ヴィヴィアンナになにかあった訳ではなくて良かったと。

デューが任務の時間を終えると、大公領への移動で変更になった箇所と注意点を伝えられ、仲間達と確認しあった。

アストリアから護衛と馬車を借りる事になっていて、従僕はモントルアから借り、翌日の夕方に顔合わせがあるので、意見を交換をする事になっていた。


その翌日、デューは昼休憩を利用し、ヴィヴィアンナの部屋の前へと来た。

部屋へと続く廊下の曲がり角にも騎士は立っていて、ドアの前にも、騎士が二人護衛として立っている。主の奥方様の部屋なので、厳重なのは当然だった。

「ここに何か用があるのか?」

護衛騎士の一人がデューへと問い掛けてきた。

その目を真っ直ぐ見て、デューは口を開く。

「奥方様にお話ししたい事が」

曲がり角の騎士にも言った事を、そのまま言えば、もう一人の護衛騎士がドアをノックする。細く開けられたドアから、侍女が顔を出し、デューを一瞬見てから、護衛騎士へと視線を送る。

「どうされましたか?」

「騎士が挨拶をしたいと」

護衛騎士の言葉に、侍女の視線が再びデューへと向かう。

その視線にデューが礼を返せば、ドアが一旦閉まり、中から侍女が三人出ていった。

その後ろから、侍女長がドアから出てくる。

「どうぞ。お会いになるとの事です」

中へと促され、デューは初めてヴィヴィアンナの部屋へと入った。

昼食後の時間で、ゆっくりしていたのだろう。

部屋着ドレスのヴィヴィアンナが、椅子に座っていて、テーブルには読んでいただろう本が置いてある。

侍女長はドア脇に静かに佇み、二人を見守るように立っている。

「会いに来てくれるなんて思ってなかったわ。掛けて頂戴。お茶は?」

「いえ。お手を煩わせるのは忍びないので」

言いながらヴィヴィアンナの向かいに座り、デューは一度大きく息を吸う。

「あの話、俺で良いのですか?もっと身分が良い人間だって、顔が良い人間だっていらっしゃいます」

「そうね。でも、私が心寄せられるのはデューだけだわ」

「ちょっ?」

ヴィヴィアンナの直接的な表現に、デューは慌てて侍女長へと振り返った。

そこには微動だにしない侍女長がいた。

「彼女は知ってるのよ。執事と家令、副団長も、騎士団長も」

「誰も反対されなかったのですか?」

ヴィヴィアンナへと視線を戻し、デューが言えば、にっこりと返される。

「反対されたらこんな席も作れないし、二人でコッソリ会うなんて無理だと思わない?」

言われてみれば、別邸で2回ほど二人だけで会って話しをしていた。

他に聞かれたら困る内容だったから、失念していたが、嫁入り直前の女性と二人きりで会うなんて、不貞を問われても文句が言えない状況だ。

「あれ?でも、好きだって言ってくれる前だけど?」

二人きりで会ったのは、ヴィヴィアンナから好きだと言われる前の出来事だ。その頃から、上層部の協力があるなら、彼女はもうその頃から?と思うと、デューはドキドキした。

「エル様がおっしゃったでしょ。私が愛人を作るのは構わないて。だから、私が二人で会いたい。て言ったら、方々が協力してくれる事になってたの」

「なら、俺の他にも?」

「知らない」

少しガッカリしてデューが問えば、ヴィヴィアンナは顔をむくれさせ、そっぽを向いた。

「それは失礼かと。奥方様は旦那様以外は、お一人としか二人きりになっておられません」

侍女長からの溜め息混じりの注意に、デューは慌てて立ち上がり、ヴィヴィアンナの側で跪く。

「ごめん、だって、ヴィアはこんなに綺麗だから、騎士連中は閣下が羨ましいていつも言ってたし、良い奴らばかりなんだ」

「まあ、騎士のお仲間方の事を信頼されてますのね」

「そりゃ、信頼してなきゃ、騎士の仲間として居られないよ。命が掛かってるんだ」

拗ねた表情のままのヴィヴィアンナに、デューは頷いてみせる。

それに、ヴィヴィアンナの目が鋭くなる。

「私は?私の事は信頼していないのかしら?」

「え?」

「だってそうでしょ?私はずっとデューに会いたい。話がしたい。て伝えていたわ。なのに、さっきのは何?他にも居るなんて考えるなんて、信頼されてないとしか思えないわ」

ホロリとヴィヴィアンナの目から涙が溢れたのを見て、デューは慌てて立ち上がる。

「本当、ゴメン。信頼してないんじゃなくて、自分に自信がないだけなんだ。俺は何も出来ていないから。周りに助けられてばかりの未熟者だから、ヴィアに好きて言って貰えるような人間じゃない。て」

自身の首に巻いていたスカーフでヴィヴィアンナの涙をそっと拭き、デューは自嘲の笑みを浮かべたのであった。

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