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因果因縁【完結】  作者: 七石 和子
本編後
211/211

ユーモンドの気掛かり

時間軸*本編終了後、1年と3ヶ月後頃。

オブライエンの事件から5年後

 事件はミシェール16の時で、作中のミシェールは21の誕生日後

※ミシェールの婚姻は19の冬で、3ヶ月後に20になっております

ベネルオース帝国皇城の応接間にて、エクレナールの王太子ユーモンドは、内心愕然としていた。

目の前の男が、記憶にある人物と、同じ色を持っていたからだ。銀髪は短く、緑の目は垂れ気味。色は同じだが、目の形は違う。他の輪郭は、成長過程で変化があろうと、目の形が変わる事はない。

そんな筈はない別人だと、冷静な頭は思うのだが、幼い頃の自分が、歓喜するのを、ユーモンドは抑えられなかった。

愕然としながらも、冷静を装い、ユーモンドは友好的に微笑み、ベネルオース語を口にする。

「私はエクレナール国の王太子ユーモンド・フィン・ポラ・エクレナール。そなたの名を、聞かせてくれぬか?」

「フリシーア伯爵の第二の夫であります。デュー・フリシーアと申します。お初にお目にかかれて光栄です。お待たせしてしまい、誠に申し訳ございません」

流暢なベネルオース語は地方の訛りが少しあり、その身体に馴染んでいると思わせるもので、すっと頭を下げる仕草は、騎士を思わせるもの、手にも剣タコと思われるものがあり、やはり違うと失意を感じながらも、幼い自分は、僅かな希望を捨てられないのか、心がザワザワと落ち着かないのを、ユーモンドは感じた。


少し前の時間から、ユーモンドは伯父のミハエルと、その伴侶ヴィヴィアンナ、その後ろに居る彼らの養女、ミシェールと相対していた。

イネッサを伴っての外遊で、現在イネッサは友人を招いてのお茶会中で、久し振りの祖国であるイネッサの為に、夫婦それぞれの時間を確保したのだ。勿論、ヴィヴィアンナ夫妻に会う事を、ユーモンドは伝えていて、イネッサからはゆっくり話す事を進められた。

それぞれ挨拶をし、ユーモンドは首を傾げた。

「第二夫君殿は一緒ではないのか?」

「殿下の御前に出る事に、随分緊張しているようなのです。外の空気を吸って落ち着かせて来ると、出て行ってしまいました。可愛い方でしょう?」

「幸せそうで、なによりだ」

ヴィヴィアンナが、幸せを隠す事なく微笑むので、ユーモンドは苦笑で返した。

ヴィヴィアンナが、ベネルオースの田舎の庶子の出の男爵と、婚約させられたと、聞いたユーモンドは、その冷遇に腹が立った。

ミハエルが人質という立場だから、せめて後ろ盾のある夫を用意して欲しいと思ったのだ。

とはいえ、自身の祖母の縁者が、皇帝の妹である、イネッサの立場を軽んじた事件を起こしている為に、異を唱える事は出来ず、気にかけすぎる事は、元婚約者という微妙な立場が、妙な憶測を呼んでしまう為に、何もしない事が、最善策なのだろうと、ユーモンドは黙る事を選んだ。

その後、式に参加したヴィヴィアンナの両親が、エクレナールに帰国し、二人の機嫌が良いようだと、人伝に聞き、ユーモンドは少しだけ安堵した。

ヴィヴィアンナが、ベネルオースの外務部で活躍していると聞いた時は、当然だと思えた。幼少期から、異国文化に触れていて、妃教育を受けているのだ、異国の出身だろうと、外務部ほど相応しい場所はないと、思えた。

更に、第二夫君と仲睦まじいという噂に、ユーモンドはやっと肩の荷が降りた気がした。

伯父のミハエルとも、良い夫婦関係だと思えたが、親子と言えるほどの年齢差に、引っ掛かりがあったからだ。

それで、今回の外遊で、ヴィヴィアンナに会えたらと考えた。ヴィヴィアンナ達の顔を見て、ユーモンドが、安心したかっただけだった。

人質という立場の、叔父のミハエルを見舞うという形で、ヴィヴィアンナの同席を願った書簡を送った所、思いがけず、第二夫君を紹介したいと、ヴィヴィアンナから返事があり、余程良好な関係なのだろうと、会うのを楽しみにしていた。

だというのに、部屋に入ってみれば、その人物がおらず、ユーモンドは少し残念に思っていた。

だが、ヴィヴィアンナの様子を見れただけで、残念な気持ちはなくなり、どんな人物なのかと、ユーモンドが安堵していると、ミハエルが苦笑を浮かべる。

「胸焼けする程だ」

「パドトワロ陛下に頂いた良縁に、心から感謝しておりますの」

「そうか、ミシェールから見ても、良い方かな?」

ユーモンドが、ヴィヴィアンナの後ろで、騎士姿で立つミシェールに、視線を送ると、口の端をわずかに上げ、小さく頷く。

「良くして頂いております」

「とはいえ、試験期間を経て、養子入りしたフリシーア伯爵の時とは違い、戸惑いもあるだろう?成人した令嬢が、年の近い養父と上手く暮らせるとは思えないが」

「会って頂けましたら、お分かりになられます」

ミシェールの、随分柔らかくなった表情と声に、ユーモンドは困惑した表情を浮かべた。

デビュタントで見たミシェールは、多少頑張って微笑んでいたが、あきらかに無理をした表情だった。彼女が、感情のままに表情に出せない事は、ユーモンドも知っていた。

デビュタントに向け、作り笑顔を身に着けたのだろうが、その必死さが、会場中の令息の目を奪っていて、仮とはいえ婚約者が居て良かったと、変な親心が芽生えたのを、ユーモンドは覚えている。

仮婚約中だった者と、晴れて夫婦になった事は知っている。

それが良い変化を生んだのだろうが、いきなり現れた年の近い養父を、なぜここまで受け入れられるのか、ユーモンドには分からなかった。

少しして、デューと名乗った男が現れるまでは。


ヴィヴィアンナの隣りに、迷いもなく座ったデューに、ヴィヴィアンナがからかうように笑う。

「やっと来たのね?殿下をお待たせするなんて、公式の場であったら、とんでもない事よ」

「元平民の田舎男爵に無茶を言わないでくれ」

仲睦まじい様子に、記憶の一部と重なり、すとんと、ユーモンドは、何もかもが腑に落ち、微笑みを浮かべる。

「フリシーア伯爵、あまり第二夫君ばかりを構うと、伯父上が不憫だ。大事にして欲しい」

「いらん。今でも口煩くて辟易してるんだ、これ以上構われたら窮屈だ」

ミハエルが鼻を鳴らせば、ヴィヴィアンナが綺麗に微笑み、

「勝手な事をされる事をお控え下されば、口を挟む事を控えますわ」

「第二夫君として、ミハエル様の事を思って発言させて頂いているだけです」

デューが澄ました表情を浮かべた。

背後にいるミシェールは、困ったように溜め息を吐いていて、これが日常なのだと、伝わってきた。

ユーモンドは、泣きたいのをこらえ、笑顔を作り、ヴィヴィアンナを見る。

「気軽な関係のようだな。」

「ミハエル様のお人柄があってこそですわ」

「尊敬出来る方で、沢山甘えさせて頂いております」

ヴィヴィアンナと、デューが顔を見合わせてから、ユーモンドに微笑みを向ける。もう気に掛ける事はないと、言外に言われた気がして、ユーモンドはミシェールを見て、歯を見せて笑う。

「第二の父上殿に、不満はないか?この機会に、伝えたらどうだ?」

「普段から伝えさせて頂いております、二の父は、大人気ないと」

静かに応えたミシェールの言葉に、デューが困ったような声で、小さく彼女の名前を呼び、冷ややかな視線を向けられ、首をすくめた。

その様子に、ヴィヴィアンナは小さく笑い、ミハエルも肩を震わせている。

ユーモンドもつい笑ってしまい、失礼と断ってから、もう一つ質問をする。

「遠慮がない関係のようだな。弟君も、慕っているのか?」

「はい。身長を超すのだと、張り切っております」

しっかり頷いたミシェールは、僅かに笑んだ口でそう言ってから、溜め息を吐く。

「だからこそ、あのまま、頑なに修道院で過ごしていたら、弟の明るい未来を閉ざしていたのだと、姉として不甲斐なさを感じております」

それに、ヴィヴィアンナが立ち上がり、そっとミシェールを抱き寄せ、ミハエルとデューが優しく見守っていて、心配していた義理の従妹弟達の健やかな日常が確信出来て、ユーモンドは晴れやかな気分で口を開く。

「修道院から出るというのは、それだけ大きな決断だったという事なのだろう。恥じる事はない。デュー殿、ミシェール嬢とエルバルトきみは、義理とはいえ私の従妹弟なのだ。よくしてくれて感謝する」

十分だと、ユーモンドは安堵したと同時に、これから願う事は、デューにとってどんな感情になるのか?という不安が生まれた。

皇帝パドトワロから、オブライエンが幻覚の世界に浸っていると聞かされ、ユーモンドは、この機会に、ミシェールの容姿の力を借りられないかと思っていたのだ。

だが、過去の自身の後悔があり、その後悔を晴らしてくれた仲睦まじい家族に、酷いお願いをする事は、図々しいのではないか?と悩みが生じる。

それでも、オブライエンを幻覚の世界に放置する事は、再従兄として、王太子として、許せる事ではない。 

ユーモンドは深く頭を下げる。

「実は、オブライエンとの面会に、ミシェール嬢を連れて行きたい。不快なお願いであると承知の上だ。断っても構わない」

「シェリーは、どうしたい?」

「お受け致します」

ソファーに戻ったヴィヴィアンナの問いに、ミシェールが静かな声で答えた。

ミハエルもデューも頷いていて、ミシェールの意思を受け入れているように見え、ユーモンドは再び頭を下げる。

「筋違いに恨みを向けるオブライエンの事、身内として改めて謝罪する。日程は改めて知らせる。宜しく頼む」

「娘がお役に立てるようなら、光栄な事です。頭をお上げ下さい」

デューが穏やかに言えば、ヴィヴィアンナとミハエルが優しく微笑みを浮かべた。

自分にとって都合の良い夢のようで、ユーモンドは一度瞼を閉じてから、デューを見る。

「デュー殿は、事件の事をいかほどご存知なのですか?」

「かの方が、エクレナールの亡くなられた王太子殿下を慕っていらして、亡くなられた原因をミシェール達の実母にあると誤認し、二人までも恨み、暴走したと、お聞きしております。そして、現在、刑の執行を受け、夢想の世界の住人となっていると」

「そうか。そんな男の所へ、ミシェール嬢を連れて行く私に、思う所はないか?」

「まさか。殿下が悩んだ末の事だと、先程の言葉で分かっております。ミシェール自身が受けると言ったのなら、私は何も思いません。それに、殿下が心配なさるほど、私共の娘は弱くないと、信じております」

柔らかく微笑みを浮かべたデューの言葉に、ミシェールが肯定するように小さく頷き、ミハエルは大きく頷き、ヴィヴィアンナが柔らかな笑みを浮かべた。

ユーモンドは鷹揚に頷く。

「感謝する。お陰で有意義な時間を過ごせた。後で礼を贈る」


挨拶をした後、ユーモンドはお付きの者をつれ、賓客室まで戻った。

この後、晩餐会に向けて用意しなければならず、従者達が湯浴みの準備に取り掛かっている。

常に周りに人が居るのは当然で、煩わしいと思った事もある。

祖国であれば、人払いすれば、短い時間だが一人になれるが、異国の地ではそうはいかない。

「パドトワロ陛下は、随分お心が広い」

ユーモンドが小さく独り言を漏らせば、側仕えの男が首を傾げた。オブライエンの事件以降、苦しい外交を手助けしてくれているが、全ては溺愛するイネッサの為で、ユーモンドはよく恐ろしい人だと、漏らしていたからだ。


デューが、記憶にある彼だと、断定出来た訳ではない。断定してしまえば、祖国の貴族達は、アストリアを継がせたがる者と、デューにシェキーラの罪の連座を問いたい者が現れるだろう。

それは、やっと落ち着いてきた祖国を、また混乱させる事になるし、別人として接してきたのなら、確認しない方が、向こうには都合が良いという事だ。

恐らく、パドトワロは、分かっていて、男爵の地位を用意し、ヴィヴィアンナと婚姻させたのだと、ユーモンドは思っている。

罪人シェキーラの嫡男を、何故見逃しているのかと考え、自分と引き離す為なのだろうと、結論づけると、ユーモンドは苦笑を浮かべる。

デュクリスとヴィヴィアンナの縁を切ったと、ずっと後悔していて、せめて不自由のないように、尊重しあえる仲間になれたら。と思っていただけで、ヴィヴィアンナとの間に、甘さはどこにもなく、自身の罪を見続ける事に、息苦しさを感じるだけだった。

目の印象の違いで、祖国の者で気付くとしたら、後はオブライエンのみだろうと思うと、それが皮肉で、ユーモンドは薄く微笑む。

何故生き延びていたのか、ミハエルといつ会ったのか、シェキーラの事件は知っているのか、何故自身は何も知らされなかったのかと、沢山の疑問はある。

だが、別人として生きていて、何も語らない事が答えなのだろうと、再会を喜びあえない事を残念に思いながらも、あの二人が並んでくれていた事に泣きたい程の喜びも感じていて、三兄弟が家族として過ごしている奇跡に、何も出来なかった自身の無力さを痛感した。

義理の従妹弟となるずっと前、事件の直後から、ユーモンドは二人に何か手立てはないかと、心配していた。

エルバルトの失語症に、ミシェールが無表情である事は、人伝に聞いていたからだ。

とはいえ、公表されていなくとも、事件を知る貴族が僅かだろうが居て、国を背負う立場と、被害者の家族である事から、二人にしてやれるのは、デビュタントを祝い、遺恨はないと示すのが精一杯だった。

どんな奇跡があったのだろう?と思いながらも、ユーモンドは亡き友人と、その家族の幸せを祈った。

外交官の夫である以上、デューがユーモンドと会う事は、避けられないだろうと、名乗り出られない再会を。


ユーモンドが確認しなかったのは、作中にある通り。

アストリアは、現状従弟叔父がなんとか定着し、嫡男はそろそろ婚姻しててもおかしくない頃。そこに、元アストリア嫡男が現れたら、担ぎ出して、利用しようとする者が居そうだな。と。

子供の頃のデュクリスは、後継者として周囲に認知されていましたから、その認識を悪用したい人が、出てくるかも知れない。

デューが別人を装った事で、生き伸びていながら、戻って来なかった事に、何かしらの理由があり、ミハエルもそれを知って、今まで黙っていたのだろう。と悟り、ユーモンドは、問い正す事はしませんでした。


そんな訳ありな立場でありながらも、デューが自身の前に現れてくれた事に、ユーモンドは感謝しております。


デュー自身は、夜会などで、ユーモンドといきなり会うより、人知れず再会して、ユーモンドと言葉を交わしたかった。

夜会で、田舎の庶子の出の男爵が、異国の王太子と長く話す事は不自然ですから。

それで、幼い頃共に過ごした仲間に、過去の後悔を払拭出来たら。と思ってた訳です。

ユーモンドが気付くかどうかは、ほとんど賭けで、気付いた様子がなければ、ユーモンドとヴィヴィアンナが幼馴染みなのを切り出し、自身にも幼馴染みが居た。と、遠回しに昔話を幾つかして、気付かせる予定でした。

ヴィヴィアンナとしても、ユーモンドに、いつまでもデュクリスの事で気に病まれたくなかったので、落ち着いて話せる場を受け入れました。


話の締めが、主人公じゃないてどうなんだ?て思いますが、外伝だし、思いついてしまったので。


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