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因果 20 騎士の葛藤

デューに対して、悪質な嫌がらせをしていた四人が、肩を落として食堂を出て行くと、同期の彼はデューを見て怒った。

『お貴族様も!私物をどうにかされたなら上に言えよ!犯罪なんだからよ!黙ってるから馬鹿を見るんだろ!』

それに、デューは笑ってしまったのだった。

彼は、商家の息子だったのだが、放火の被害で親が商売を止め、他へと働きに出ていると、後で教えてくれた。家を少しでも助けたくて騎士になりたいのだと。頭悪いからと彼は笑った。そして、服の繕い方を、口が悪いながらも教えくれた。

その事を思い出し、デューは立ち上がる。

貴族だった自分と、平民の彼は、今や良き騎士仲間だ。

騎士見習いになった時点で平民になってたとしても、平民側からしたら、デューは貴族で恵まれた存在だと思われていた。

その距離を縮めてくれたのは、彼だ。

デューが仕方ないと諦めていた事を、誰よりも怒り、デューに怒れとぶつかってきてくれた。

ヴィヴィアンナの立場を考えれば、距離を取った事は間違いではない筈なのだが、何故か無性に会って話したい衝動にかられ、デューは屋敷へと歩を進める。

騎士の訓練場は屋敷の裏手にあり、裏庭を通りかかると、使用人達が少し浮かれていた。

馬車が綺麗だったとか、ヴィヴィアンナのドレスがどうだったか、ミハエルは髪が少し跳ねてたとか、色々な言葉でそれは別邸中に飛び交っていた。

ミハエルとヴィヴィアンナが王宮の馬車に乗り込み、大聖堂へ行ったのを、使用人達が楽しげに話していたのだ。

そんな話題の中、屋敷を急ぎ足で歩き、デューはミハエルの執務室へと着いた。

ノックして中へと通されてみれば、やはりミハエルは不在で、家令が手紙の束を選り分けていた。

「おや、久しぶりに見る顔ですね」

「お邪魔してすみません。閣下はどちらへ?」

「大聖堂ですよ。儀式の最終確認中ですが、急ぎの用がありましたか?」

「いえ。お邪魔しました」

当たり前のように言われ、デューはさっきまでの勢いが萎え、トボトボと執務室を出る。

ミハエルとヴィヴィアンナの婚姻の儀まで1週間だと、デューは分かっていた事なのに、それに説明出来ない何かを感じ、モヤモヤした。

お昼の休憩時間が終わる前に、デューは訓練場へと戻り、その後もいつも通り過ごし、そして夕食後、見習いに混じっての訓練後に走り込みをし、監視が居なくなっても庭を走り、疲れきった身体を自身のベッドへと横たえた。


翌朝、起き抜けに水を頭からかぶり、身体を拭いた後、デューは庭へと向かう。

王都では、犬の散歩は従者が担っており、途中すれ違った。庭中を歩き周り、ふと、白い日傘がデューの目に入った。

そちらへと視線を向ければ、侍女長が日傘を差しており、その日傘の影の下、ふんわりした金髪が風で揺れていた。

声をかけようとして、何て呼んだら良いか分からず、デューは唾を飲み、口を開く。

「おはようございます。散歩ですか?」

「ええ。あなたも?」

驚いた表情で振り返ったヴィヴィアンナが、部屋着用のドレスで庭を歩いていた。

侍女長の後にはメイドが一人、そして反対側に副団長の姿があり、同期の姿も離れた場所にあった。

「はい」

「髪が濡れてるわ。風邪をひいたら大変よ」

「これくらい平気です。調度良いくらいです」

笑顔で言うデューだったが、季節は秋で、朝の早い時間だ。やはり無理がある。

「彼に布を」

ヴィヴィアンナが言えば、侍女長の後に居たメイドが頭を下げて屋敷へと向かう。

メイドが離れた事を確認し、ヴィヴィアンナがデューへと視線を向ける。

「ねえ、たまにで良いから少しだけ時間を頂戴」

「はい。お心のままに」

「ありがとう。それで何かご用だったかしら」

「お身体が冷える前にお戻り下さいと」

デューの言葉に、ヴィヴィアンナがクスクスと笑い声をあげて言う。

「あなたに言われても説得力がないわ。それに、侍女長がしっかりしてくれているもの」

「出過ぎた真似をしました」

「メイドが戻るまで待ってね」

騎士の礼をとったデューに、ヴィヴィアンナは小さく頷き、彼女は近くの草木へと視線を向ける。

メイドが戻るまでの数分、ヴィヴィアンナとデューは無言で、大きなタオルを抱えたメイドが戻ると、メイドからデューへと渡され、ヴィヴィアンナは屋敷へと歩を進めた。

それを髪を拭きながらそっと見送り、デューはミハエルの部屋に行き、無礼を侘びた。

「負けてしまったわね」

楽しそうに溢したヴィヴィアンナに、メイドは首を傾げたのだった。


その2日後、デューは騎士へと戻り、戻った日の昼食後に、ヴィヴィアンナから呼び出された。

夜勤の予定だった彼は、すぐにそれに応えた。

執事に案内されたのは、ミハエルの執務室の隣にある資料室だった。

そこにある椅子に、横並びで距離をおいて二人は座った。

「閣下から愛されないなんて良いのか?」

「ええ。それがどうしたの?」

思い切って聞いたデューに、ヴィヴィアンナは首を傾げた。

彼女にとって当たり前なのだろう。とはデューも理解出来る。上位貴族の侯爵家の彼女は、政略結婚を当然として教育されている。それはデュー自身も同じなのだが。

それが今は悔しいし悲しい。

「夫婦になるんだろ?」

「人の心を他人が動かすなんて難しいじゃない。それに、今回は必要な事だもの。止められないわ」

「分かってる。分かってるんだけど、ヴィアは十分苦労したのに、こんな事」

ヴィヴィアンナ自身が良いと言ってるのに、一人駄々をこねているような気分になり、デューの視線が下がる。

今回の結婚が、ヴィヴィアンナの命を守る為である事は、デューにも分かっているのだ。とは言え、愛されないと分かっている結婚で、彼女が傷付かないか。と不安になっていた。

「ありがとう。心配してくれて。でも、本当に良いのよ。愛はなくても、家族の絆は作れる筈だもの。それにしても」

そこまで言って、ヴィヴィアンナは嬉しそうに笑う。

「ヴィアて呼んでくれて嬉しかった。懐かしい」

「え?!あ、いや、忘れて、不敬だった」

「駄目よ。やっと聞けたのだもの」

自分の失念に慌てるデューに、満足そうに笑いヴィヴィアンナは椅子から立ち上がる。

「まさかそんな事でエル様に怒ったなんてね。私の為にありがとう」

「いや、余計なお世話だった」

執務室へと繋がるドアノブに手を掛け、ヴィヴィアンナが言うと、椅子に座ったままのデューは小さく首を振った。

今回は、デューがミハエルに対して何をしたか、それを聞く為だけに呼び出されたのだ。

ヴィヴィアンナが執務室に入り、その先の廊下へと繋がるドアが開く音を聞いてから、デューは椅子から立ち上がった。


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