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因果 18 覚悟

デューはアストリア公爵が帰るのを玄関ホールまで見送り、応接室へと戻った。そこにはのんびりお茶を飲んでいるミハエルがまだ居た。

「場を作って下さり感謝致します」

頭を下げたデューに、ミハエルは肩を竦めてみせる。

「ついでだ。婚約者への贈り物を相談してたら、たまたま護衛が知り合いだった。それだけだ。で、どういった心境の変化だ?」

今回のアストリア公爵との密会は、デューが望んだものだった。1か月前、ミハエルに現アストリア公爵と会いたい。と相談された。

それで王都に着くなり、ミハエルはアストリア公爵を別邸へと呼び付けたのだ。

デューは相変わらずなミハエルに少し笑い、口を開く。

「逃げる選択をして良かったのか。ずっと考えていたのです。敵が分からない時は、目に見えない事が怖くて、とにかく逃げる事しか考える事しか出来なかった」

「相手が分からない事が怖いのは誰だって同じだ。外交だってそうだ。恥ずかしい事じゃない」

「母が相手だと知っても、逃げる事しか頭になかった。何故なのか聞く事も出来なくて、知りたくなかったから、とにかく母から隠れていようと」

苦しそうなデューの言葉を、ミハエルは目を伏せ溢す。

「身内が敵なら距離を取る事も必要だ」

「そうやって、俺はずっと守られてきた。母の行動理由を聞く選択もあった。それが納得出来る物なのか、正直分からない。今のアストリアに対しても、俺は逃げていた。母がした事であって、俺じゃないから。て」

手を固く握り、デューは続ける。

「母の事は、正直まだ怖い。けど、今のアストリアには、向き合うべきだと思った。アストリア公が望むなら、戻ってアストリアを背負うつもりだった」

「ちょっと待て。アストリアに行く覚悟があったのか?」

デューの言葉を遮り、思ってもみなかったミハエルが、お茶を乱暴に机に置き、ソファから身を乗り出す。

「はい」

「謝りたい。て話だったが、その頃には覚悟していたのか?」

「はい」

「アストリアには戻りたくないんじゃなかったのか」

脱力しソファに沈んだミハエルに、デューは首を振る。

「勿論。戻りたくないです。だからと言って、今のアストリア公に責任も贖罪も押し付けたままなのも間違っている。だから、行く覚悟がある。て伝えました」

「まさか見送りの時にか?」

「はい」

「せっかく人払いしたのに、なんだってまた」

とうとう頭を抱えたミハエルに、デューはその勘違いを正す。

「アストリアとは言ってません。ただ行く覚悟があると伝えました」

「それもギリギリ危ないが。返事は、まあこうしているんだ。断られたか」

「はい。首を横に振られ、達者でと」

デューの言葉に、ミハエルは長く溜め息を吐き、ソファから背中を離す。

「今回の事アンナには言ってないよな?」

「今日アストリア公に会うのも。望まれたらアストリアに行く覚悟があるのも伝えました」

デューの言葉に、ミハエルは立ち上がり、彼の目の前に立つ。

「ばかものめ」

言葉と共に、ミハエルの拳がデューの頭頂を強く叩き言う。

「もし、アストリア公が断らなかったら、アンナはどう思ったと思う?」

「彼女は、俺が決めた事なら、頑張ってきて欲しいて」

「男前だな。てか、止められたら、どうするつもりだった?」

「止められても、アストリア公には聞いてましたよ。この身体にはあの血が流ているから」

「酒でも飲まなきゃやってられん。ま、お疲れ」

頭を抱えて軽く横に振り、ミハエルはデューをチラリと見てから応接室を出て行く。

ドアの向こうには執事が待っていた。

人が近付けないように見張りをしていたのだ。

「準備させます」

執事に無言で頷き、ミハエルは痛む頭を抑えながら歩く。

デューにアストリア公爵に会いたいと言われ、それならば。と王都での時間を確保し、それで満足した過去の自分の怠慢さに、頭を殴ってやりたい気分だった。

現アストリア公爵は自分の責務を良く理解していて、例え今更元嫡男デュクリスであるデューが現れても、きっと黙ってくれるだろう。という確信があった。

デューが逃げていた事に向き合い、謝罪した事でアストリアと完全に切れれば良い。と、軽い気持ちだったのだ。

今日の今日までデューの覚悟を確認しなかったのは、完全に彼の落ち度だった。

もし聞いていたら、どうするべきか迷っただろうが、それでもやはり再会はさせた。

ただ、デューの覚悟を知っているのと、知らないとでは、ミハエルの気持ちの持ちようが違うのだ。


「アストリアに行かずに済むなら良かったわ。デューは行きたかった?」

ヴィヴィアンナにそう質問され、デューは首を振った。

場所は別邸の屋根裏部屋で、屋根裏部屋へと続く階段では副団長の犬が寝そべっている。

二人になれるように。という副団長の計らいであった。

飼い主に忠実な犬は、人が近付いたら一吠えし、遊んでくれとばかりにじゃれつき、足止めする任務が与えられている。

デューとアストリア公爵との一部始終を彼が語り終えた所で、二人は屋根裏にある箱にそれぞれ座っている。

「行かなくて済むなら、行きたくないのが本音だ。散歩する約束を守れなくなる。だから断られてホッとした」

「早く大公領に戻りたいわね。ここは窮屈だもの」

「花嫁が何言ってるんだよ」

「ここだと散歩出来ないでしょ?」

デューが苦笑してツッコむと、ヴィヴィアンナは当然のように言い首を傾げる。

それにデューは眉を顰める。

「当たり前だろ。大公妃となるんだから。ここの庭で一緒に散歩なんて出来ないよ」

「護衛として着いてくれば良いと思わない?他にも護衛を頼むし、おしゃべり無しならおかしくないと思うの」

「モントルア令嬢」

硬いデューの声に、にこやかだったヴィヴィアンナの笑顔が消え、悲しそうな物になる。

自分がその表情をさせた事に申し訳なさを感じながら、立ち上がって彼女の前で膝をつき、デューは言葉を紡ぐ。

「少し距離を取ります。私は騎士で、モントルア令嬢は大公妃となられる。それなのに近過ぎました。私の不徳の致すところで申し開きもございません」

「デュー。そんな事言わないで」

「いえ。これからは適切な距離を心掛けします。失礼致します」

そう言い、デューは頭を下げて階段へと向かう。

階段で寝そべっていた犬は、シッポをふり歓迎し、デューの足下へと擦り寄った。

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