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因果 16 朝の散歩

ミハエルとヴィヴィアンナが、大公領に戻り半月、ヴィヴィアンナは朝の散歩をしていた。

大公領に来てからの日課で、その横にはデューが犬を連れて歩いていた。

騎士団の副団長が飼っている犬で、デューがミハエルの元に拾われた原因となっている犬の設定である。

犬の世話は従者の役目であるが、縁のある犬だからと、その役目はデューへと与えられ、ヴィヴィアンナ達が王都に行っている間も、しっかり面倒を見ていた。

犬はデューの膝までの大きさで毛足が長く、ゆったりと歩き、滅多に吠える事がない。

ヴィヴィアンナは、デューと犬の朝の散歩に付き合いながら、会話を楽しむのが日課だった。

「綺麗になったわね」

「昨日洗ったんだ」

サラサラと流れる毛並みに、ヴィヴィアンナが目を細めると、デューは頷いて返す。

途端、ヴィヴィアンナが不服そうな顔をする。

「教えてくれたら見に行けたのに」

「昨日は急だったから。今度は前もって伝えるから、ちゃんと閣下に許可貰って欲しい。洗う時は結構濡れるから大変なんだ」

「そうなのね?以外とお転婆さんなのかしら?」

不思議そうに首を傾げるヴィヴィアンナに、デューは首を振る。

「水遊びが好きだからはしゃぐんだ」

「じゃあ、庭に池を作ろうかしら。魚を飼っても良いし」

「こいつも喜ぶよ」

ヴィヴィアンナの提案に、デューは頷きながらも少し寂しくなった。池を作ると簡単に言えてしまう彼女は、主の妻になる予定で、すでに女主人として、庭を整え出していた。

雑草だらけで秩序がなかった庭は、今は遊歩道が出来て、それに沿って色々な植物が植えられている。

対してデューは平民の騎士。その遠さが寂しくなったのだ。

こうして、昔と変わらないように話せているが、本来なら話し掛ける事も憚れる。

「眉間のシワ」

短く注意され、デューはヘラリと笑ってみせる。

「貴族には戻りたくないし、戻れないけど、遠いなぁて思ってさ」

母親が王族に対して毒殺を企てたのをデューが知った時、ミハエルに聞かれた。『アストリアに戻れなくとも貴族には戻せてやれるがどうする?』と。

デューはその申し出に首を振った。今更自分が貴族社会に戻っても迷惑だからと。

王族の毒殺事件が表沙汰になってなくとも、現アストリア公爵当主は、母親シェキーラの跡を継ぎ、周りから色々言われているのは予想出来る。何せ夫婦揃って病死したのだ。色々勘ぐる人間は出てくる。王家には恩があるから服従を示す必要があり、筆頭公爵とはいえ気苦労が多く、気が休まらないのは目に見えているのだ。

そんな中、アストリアの元嫡男と思われる人物が社交の場に現れたら、余計な推測を呼びかねないし、デューにアストリアを継がせるべきではと言われ兼ねない。別人を押し通すには、デューは祖父に似過ぎていて不可能なのだ。

「困らせた。ごめん」

言葉に詰まって足が止まったヴィヴィアンナに、デューも足を止めそう言い、再び歩き出す。

ヴィヴィアンナは暫くそのままだったが、小走りで追い付き、再び並んで歩き出す。

「どんな池が良いか、一緒に考えて。距離は確かに変えられない。私は貴族としてしか生活をした事ないし、デューが戻れないのも分かるから」

「ああ」

「でも諦めて距離を取られるのは悲しいわ。昔みたいになれなくても、話がしたいから」

「ああ」

「だから、歩きましょ。こうして並んで、散歩しながらお話する。たまにさっきみたいに距離が出来ても、追い付けば良いし、立ち止まって待っても良いと思う」

ヴィヴィアンナの明るい声に、デューはなんだかくすぐったくなり、顔を綻ばせる。

「ありがとう」

「どういたしまして」

二人して微笑みを交わし、その後はポツポツと喋ったり、たまに無言を楽しんだりして庭を歩き、散歩は終了となった。


「という事がございました」

執事がミハエルの執務室へと出向き、笑いを堪えながら報告をした。

ヴィヴィアンナとデューの朝の行動は、当然誰かしらの目に入る。使用人だったり、見回り中の騎士の護衛だったり。

それらがまとめられ、執事へと報告され、それはミハエルへと届いた。

「夫婦かよ」

肩を震わせて笑い、ミハエルは零す。

「ヴィヴィアンナ嬢の方が少しばかり大人だな。小僧は苦労してる割に抜けてるから困る」

「プロポーズかと、メイドが色めき立っており、押さえるのに難儀したようです」

「いや、一応、俺の婚約者だって知ってる筈だよな?」

続けての報告に、ミハエルは苦笑を浮かべた。

それに執事は頷き返す。

「勿論でございます。三角関係か、はたまた四角関係かと、騒いでいたとか」

「しっかり釘をさしてくれ。騒がれると二人がやりづらい」

「では、公認の愛人として説明しましょう。周りでは騒がない。ヴィヴィアンナ様に不躾な態度を取ってはならないとも。ヴィヴィアンナ様とミハエル様は政略的な婚約だからと」

「二人への態度は変えない方が良いな。まだ初々しい二人だから、見守ってくれと伝えてくれ」

付け足されたミハエルの言葉に、執事は肩を震わせながら頭を下げ、部屋を出ていく。

それを見送り、ミハエルは肩を竦めた。


「やけに見られてるのですが、俺は何かしましたか?」

城内を見回りながら、デューは溢した。

横には先輩騎士の男が居て、からかうように口を開く。

「モテ自慢か?」

「いや?そんなんじゃなくて、従者にも見られてます」

「ほお、男にもモテるとは」

「違いますって。そいつ確かメイドと恋仲な筈です」

小さい反論をし、デューは辺りを見る。

メイドや従者は普段通りに動いていて、異常はないのだが、たまにチラリとデューを見る者が居る。若い者ほどそれが多い。

何か付いていれば指摘されるだろうが、それはなく、従僕、侍女は淡々と変わらぬ仕事ぶりで、騎士連中も態度が変わらない。

メイドと従者だけに何故か見られるのだ、おかしいと思って当然だった。

「従者ねぇ。騎士にでも憧れてるのかもな。モテる職業だからな。俺もモテたい」

「先輩は結婚してましたよね?」

「それとこれは違う。嫁さんは大事にしているが、見られていれば張り合いがある」

デューからの問いに、先輩騎士は言って不器用なウインクを一つした。

「奥様に教えても良いですか?」

「それは困る」

先輩騎士の即答に、デューは小さく吹き出し、先輩騎士はその背中を叩いた。

その翌日から、デューに向けられていた妙な視線がなくなった。

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