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因果 13 笑顔

刑の執行が遅かったのは、筆頭公爵による王太子毒殺などと公表する事が憚れた事から、王太子の病死と時期をずらして、関連性がないように見せる為だ。

その為、本来親族へも及ぶ処罰は保留とされ、シェキーラの従兄弟が公爵代理を務め、刑の執行後、公爵家当主となった。

毒に冒されたヴィヴィアンナは、婚約者の病気療養として離宮へと移った事にされ、その僅か数日後に王太子の病死が発表され、同時に第二王子ユーモンドが王太子となり、ヴィヴィアンナとは婚約白紙、ユーモンドと皇女の婚約が発表された。

事件の半年後、ヴィヴィアンナの意識が戻り、快方に向かった2ヶ月後、王が刑の執行を命じた。

苦苦しい表情でミハエルは事の成り行きを説明し、苛立ちを隠す事なく自身の髪を掻いた。

「まさか、こうなるなんてな。どこで間違ったのやら」


母親シェキーラの愚行を思うと、向き合う事は諦めていたデューだったが、モントルア一家の荷造りを待っていた3日間でミハエルに説得された。

死んだ筈の自分が何故生きているのか、真実全てではなく、でも納得出来る筋道で、話す必要がある事を。ヴィヴィアンナにとって、デュクリスは心残りの一つだろうから、解消してやれと。

ただ、母親の愚行に関しては、言うか言わないかは任せる。と言われた。

そして、デューは話す事を選んだ。

母親の愚行を暗に知っていると。許されるとは思っていないと。そして伝えたい事を口にする

「ただ、これだけは言わせて欲しい。生きていてくれてありがとう」

「ねえ、デュー、貴男と再会してから、私一度でも嫌な顔をしたかしら?」

ヴィヴィアンナの柔らかな声に、デューは目を見張り、ヴィヴィアンナを見る。笑顔がそこにはあった。

「デューと、おば様は別の人物でしょ?デューに対して憎いとか恨むとか違うと思うの。それにね、おば様にも怒ってないの。悲しかったし、苦しかったけど、結果、デューと再会出来たもの」

一点の曇りもない笑顔と言葉に、嘘は感じられず、デューは話して良かったと思った。

憎まれても恨まれても受け入れる覚悟だったが、それはやはり苦しいのだ。

初恋とまでは言えなくても、彼女との未来を淡く描いていたのだ。嫌な顔をされるのは、出来れば嫌だった。

「王子妃になっていたら、再会は出来ても、こうしてお話は出来なかったと思うの。これで良かったと今は思えているわ」

「うん。俺も話が出来て良かった」

にこやかなヴィヴィアンナの笑顔に釣られ、デューも表情が柔らかくなり、モントルア侯爵と夫人は優しい笑顔で見守っている。

まるで幼い頃に戻ったような感覚がデューにあった。

ヴィヴィアンナはいつも楽しそうにしていて、勉強もどこか楽しみを見つけ、デューは一緒に笑っていた。

たまに泣いたりもしたが、彼女の周りはいつも笑顔で溢れていたのだ。

それだけに、母親の愚行は、デューにとって許せない。一つ間違っていれば、この笑顔は失われていたのだ。

「眉間にシワ発見。私と話が出来て良かったと思うなら、そんな顔しないでね」

目敏くヴィヴィアンナに言われ、デューは慌てて眉間を左手で揉む。知らずに力が入ってしまったようだ

「すっかり昔のヴィヴィだわ。立派な淑女はどこに行ったのかしら」

「この馬車の中だけは、許してやろう」

困ったようにモントルア夫人が言うと、モントルア侯爵が苦笑を浮かべた。

確かに、ミハエルと対面していた時のヴィヴィアンナは、貴族令嬢の代表と言えそうな程に、言葉選びも表情作りも完璧だった。

その成長が、会えなかった7年を感じさせ、寂しさがあったが、今はそんな寂しさをデューは全く感じない。

「じゃあ、私の事は昔みたいに呼んで」

手を打ち、名案を思いついたとばかりに、ヴィヴィアンナは笑う。

「じゃあて何?!無理!平民!俺!」

「馬車の中だけよ?数時間で着くじゃない」

「話を聞いてくれ」

受け入れられないそれに、ヴィヴィアンナに食い下がられ、デューが悲鳴混じりに言えば、モントルア夫妻は揃って口を開く。

「がんばれ」

次の街に着いたのは、夕食の時間の少し前だった。

すっかり疲れた表情のデューが馬車から降り、手を差し出せば、笑顔のヴィヴィアンナがゆっくりと降りる。

目の前にはミハエルが腕を組んで待ち構えていて、ニヤリと口の端を上げる。

「小僧、良い仕事したな」

「うるさい」

デューは短くかみつき、ついでモントルア夫人の降車を手伝い、次にモントルア侯爵へと手を向ける。

「あんなに小さかったのにねぇ」

しみじみと言いながら、モントルア侯爵が馬車から降りた。

本来は、侍女や従僕の仕事だったが、モントルア一家からの指名を受けての事であった。

「閣下。デューの事、ありがとう存じます。ゆっくりと話せました」

「しみったれた笑顔で来られても、カビが生えるからな」

ヴィヴィアンナがお礼を言うと、ミハエルは口悪く言い、踵を返してすぐそこの宿屋に入る。

「しみったれて何かしら」

「モントルア令嬢が知る必要のないお言葉です。お忘れ下さい」

パチクリ瞬きを繰り返すヴィヴィアンナに、デューはそう澄まし顔で答え、宿屋へ入るように手で示した。


その後も順調に旅は続き、ヴィヴィアンナの体調を考慮し8日かけ、一行は大公領の城へと昼食前に到着した。

城は頑丈な造りになっており、昔は城塞として使っていたが、3代前の王が東にある国シージアと同盟を結び、使わなくなった物なので、少しばかり傷みがある。

出迎えた使用人達から歓迎の挨拶を受け、モントルア一家は城内へと案内され、旅の汚れを落とす為に、順番に湯浴みを済ました。

ヴィヴィアンナは疲れが出た為、スープだけを摂り、用意された賓客室へと案内された。

モントルア夫妻はミハエルと食堂で遅い食事を軽く摂り終わり、お茶をしている。

「これは、改めて令嬢にも伝える事だが、婚姻はするが、俺は令嬢を愛する事は出来ない。勿論、大事にする」

「命が護られ、大事にされるのなら十分でございます」

ミハエルの言葉に、モントルア侯爵は頭を下げる。

ミハエルと婚約、そして婚姻する事で、ヴィヴィアンナは命を守られるのだ。

現王太子ユーモンドの今の婚約者はべネルオース皇国の皇女で現在20歳。

べネルオースは鉄鋼を主要産業としており、近年の文化革命でどこの国も鉄鋼を求め、国交を強化しようとしている。

そして、軍隊が強い事でも有名だ。自国で武器を製造し、新しい武器で他を圧倒している。

皇女は、若き現皇帝の妹で、可愛がられていた。

その可愛い妹の未来の夫が、長い時を過ごした元婚約者と愛を囁き合う可能性は、あってはならない。

ヴィヴィアンナが独り身でいる事は、皇帝に目を付けられる事へとなり、実際、彼女が回復してからは、彼女に監視の目がつけられていた。

皇帝の側室への誘いもあったが、それではヴィヴィアンナが不憫だと、国内での相手探しは急がれた。

皇帝の側室となっても、冷遇される恐れがある。それほどに、皇帝は皇女を可愛がっていたのだ。

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