因果 11 犬鬼灯
あの日のモントルア侯爵の行動が、母親の逆鱗に振れる覚悟だったとは、デューはあの時思ってもいなかった。自分の命を脅かしていた相手を知った時に、モントルア侯爵、ミハエル、自身の父親の、覚悟と強い意思に気付き、感謝してもしきれない。とデューは感じた。
言葉では足らないそれを、ずっと伝えたいと思っていたが、モントルア侯爵は第二王子ユーモンドの婚約者であるヴィヴィアンナの父親で、脱走の手引きをした人物で、おいそれと手紙を送る事も出来なくて、ミハエルの屋敷にも来なかったので、それが叶わずにいた。
そうしている内に、ヴィヴィアンナの婚約白紙と命を危ぶまれる程の療養を知り、モントルア侯爵の心痛を思うと、すぐにでも駆けつけたかったが、今更出ていっても迷惑だろうと諦めてしまった。
そして、今日の思わぬ再会だ。
やっと言えたそれに、返されたあの言葉。『無事でなにより』
その重い言葉に、こめられた労りに、デューは生きて再会出来た事を深く実感した。
「それで、どうしてミハエル閣下の所へ?」
ヴィヴィアンナの問いに、意識をそちらへと戻し、デューは口を開く。
「身一つで失踪しちゃったから、モントルア侯に色々用意して貰ったら、自分が情けなくなって。ご恩は必ず返すと約束して別れて、とりあえず一人で行ける所まで行ってみようて、留学先じゃない方向に行き先を決めた」
「まあ、一人で旅を?」
モントルア夫人の驚きの声に、デューは頷いてみせた。
驚きも当然だろう。高位貴族の子息が、いきなり一人で旅をするのは考えられないのだ。身支度は使用人の手を借りるし、食事もお茶も用意される。宿の取り方も、食事の注文の仕方も、お金を払うという当たり前の事も、知らずに育つ。
無謀で考え足らずと判断されても仕方がない事だ。
「大変なんてものじゃなかったと思います。ただ、手助けして下さる方が沢山居て、色々と教えて頂きながら、最東端の町まで着いて。そこで薬の行商人と出会いました」
そこまで言い、デューは苦笑を浮かべた。よくもまあ、ここまで平気で嘘が言えるな。と自分自身驚いて。
「旅は楽しかったし、まだまだ見たい物が沢山あったのに、その方に一人旅を褒められて、泣いてしまいました。情けない事に、一人が寂しくなっていたのです」
それは、ミハエルが立てた筋書きだった。薬の行商人の息子デューとして、一度国を出た事実は隠し通せない。なら、本当の事を嘘に混ぜた方が良いだろうと。
「なら、家に帰れば良かっただろうに」
モントルア侯爵に肩を撫でられて言われ、デューは首を振った。
「外の世界を見ると、貴族の世界はとても狭いと知りました。今も貴族に戻るつもりがありません。そして、薬の行商人に暫く一緒に旅をする事を提案されて頷いたら、気付いたらシージアに着いていました」
「大冒険をしたんだね」
モントルア侯爵の言葉に、ヴィヴィアンナもモントルア夫人も頷き、デューの続く冒険談を待っている。
犬鬼灯
花言葉「嘘」「嘘つき」




