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因縁 76 初めての買い物

笑いが治まったミハエルが腰を落とし、ミシェールとエルバルトを見る。

「勝手に引き受ける話を進めたのは悪かった。だが、この二人には、ミシェールとエルバルトが必要だと思った。話を受ける受けないは別として、一度一緒に暮らす事で、二人の憂いがなくなる。何より、二人に想われている事を、知って欲しかった。まだ子供で、たった一つの道しかないと思って生きているのは、見ていて辛い」

『デューとヴィヴィアンナに必要だ』と言われ、ミシェールはぎゅっとエルバルトの手を握った。

必要だと教えられ、やっと母親の呪縛からミシェールは開放された。十分過ぎる程に愛されているが、母親の呪縛はいつだってミシェールの背後で蠢いて、絡め取ろうとしていた。

ミハエルに手招きされ、ミシェールとエルバルトは近寄る。

その二人の鼻をミハエルは摘む。

「簡単に近寄りやがる。警戒しろよ?」

「ミル様はすぐ人の鼻を摘むのですね」

ヴィヴィアンナが呆れたように息を吐く。

それを無視し、ミハエルは笑う。

「言葉はなくとも、二人はずっとそう伝えていた筈だ。良い子を演じなくても、すでに十分必要にされてる。本当は感じているんじゃないのか?」

「君達と話ししてると、子育てをしている気分になる。自分の子供達は任せっきりでね。新しい経験をありがとう」

ドルファンが優しい声で言い、

「この年で必要とされて呼ばれた事、本当に嬉しかったわ。二人のおかげよ」

アンナジョリーが嬉しそうに言い、

「こんなに日々愛しく思える存在が出来て、その愛しい存在が私を信頼して、愛を返してくれる奇跡なんて、そうそうないわ」

ヴィヴィアンナが涙声で言い、

「二人が幸せである事だけを望んでいた。だから特別な事は要らない。幸せに生きて欲しい。愛してる」

デューが二人を後ろから抱き締めてそう言った。

息の漏れる音がし、子供達の肩が揺れる。

その頭を、ミハエルが軽く叩く。

「要らないなんて言うやつらなんか、幸せになって見返してやれば良い。そこに固執するな。場所はいくらだってある。用意してやる。心を殺すな、それは生きているとは言わない」

「うー」

と、ミシェールの声がし、ミハエルの腕を掴んで声を上げて泣いた。

エルバルトが身を捩り、デューの腕から離れ、ミハエルに抱き着き、

「っーー」

とエルバルトが声のない唸りを上げて泣いた。

「負けた気分だ」

床に腰を落とし、デューが苦笑し、ヴィヴィアンナは歩み寄って肩を労うように撫でる。

暫くして、クスンクスンとミシェールはミハエルの腕の中で声を上げて泣き続けていて、エルバルトはポカポカとミハエルの胸を叩きながら泣き、床に座って、膝に二人を乗せているミハエルは、目を細めて二人の頭を優しく叩き続けていた。

ヴィヴィアンナは目頭をそっと押さえ、膝を床に着き、床に座るデューの背中に寄り添う。

「何だか、私も泣いてしまうわ」

「一緒に泣こう」

身を捩り振り返ったデューは、既に涙が溢れていた。

ドルファンは妻の頭を自身の肩に寄せて、小さく笑う。

「子供は素直に泣けるのが一番だ」

「涙声ですわよ」

「見せたくない」

「まあ」


「すみません、ありがとうございます」

夕暮れ時、ミシェールはミハエルの腕の中から離れた。

恥ずかしさからなのか、泣いたからなのか目元が赤い。

エルバルトは泣き疲れて、ミハエルの腕の中で寝てしまっていた。

「腕を触った感想はどうだ?」

ミハエルにニヤリと笑われ、ミシェールは首を傾げた。

「キスはしたいのか?」

続けて言われ、ヴィヴィアンナと

『デューとバル以外の異性には、触りたくても我慢よ』『キスをしたい相手なら触っても良い』

と約束したのを思い出した。

「冗談は結構です」

どうせミハエルの質の悪い冗談だと、ミシェールはきっぱり断った。それに、勢いで目の前にあった物を掴んだだけなので、触りたかった訳ではなかったのだ。

大人達が一斉に噴き出した。

寝ているエルバルトを起こし、運ばれた夕ご飯を食べて、お湯に浸かった。

移動の後だった事、沢山泣いた事で疲れていて、早めに就寝をした。


翌朝、今日は街をゆっくりと見て、発つのは明日だ。

朝食の後のお茶の後に、護衛を連れて街へと出た。

ドルファンが街を案内してくれて、ヴィヴィアンナとミシェールとエルバルトとで回っている。

アンナジョリーは宿に大きな商店を呼び寄せ、優雅にお買い物だ。

「歩いて買い物するのも醍醐味なんだけどね、アンは付き合ってくれないよ。結婚して随分経つけど、こればかりは分かり合えない」

ドルファンはそう言って笑う。

ヴィヴィアンナは使用人用にお茶とお菓子、お酒を幾つか買い、フィビーに骨の玩具を選び、王都の友人には揃いのチャームと、街の特産の上質な紙を選んだ。

ドルファンは息子とその婚約者に揃いのグラスを選んだ。

お昼ご飯は食堂で済ませ、雑貨屋に入り、ヴィヴィアンナは絵の具とチョークを幾つも選んでいた。

「絵を描くのですか?」

「これは修道院用」

ミシェールの問いに、ヴィヴィアンナは優しく笑った。

ミシェールとエルバルトは、ミハエルから小遣いを貰っていたが、何も買えずにいて、雑貨屋で色々見ては悩んでいた。

何かを買ってお土産にした経験は、ミシェールは残念な事にない。

エルバルトがお腹に居た間から産まれて2か月頃までは領地に居たが、祖母が用意した物を交流会仲間に渡しただけで、以降は領地に行っておらず、旅行の経験はないからだ。

ヴィヴィアンナはそんな二人を根気強く見守った。

助言するより、悩み抜いて決める方が良いだろうと、口出しをするのではなく、買う時に、これは使用人達に、フィビーにはこれ、と参考になるように口に出して二人にそっと教えていた。

ドルファンもそれを感じ取ったのか、色々手にとっては、ヴィヴィアンナに助言を求める振りをした。

雑貨屋でも二人の子供は何も買わず、ドルファンは服飾店に入った。

額縁に飾ってある物に、ドルファンの目が止まる。

「これは弟の所に良いと思わないか?」

「素敵だけど、少女趣味すぎるわ。お母様の趣味で選ぶと良いわ。センスが似てらしたもの」

「お前達は揃いも揃ってこういうのを好かないな」

ドルファンが溜め息を吐いて、そっと額縁から視線を外す。

細かなレースで、可愛らしい妖精と花々が編まれていて、それを作品のように飾っていたのだ。

ドルファンが店主と何やら相談を始め、奥へと連れて行かれた。

話が終わるまで、ヴィヴィアンナ達は座って待つ事にし、別の応接室に案内され、お茶と小さな星型の砂糖菓子が出された。

「あら、こんなに小さな砂糖菓子があるのね」

「金平糖でございます。お求めになられるなら、4件ほど西にお店がございますよ。この形に似た看板が出ております」

ヴィヴィアンナの言葉に、店の雇用人がにこやかに説明をする。

ヴィヴィアンナは、ミシェールの目が瞬きが増えたのを見逃さなかった。

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