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因縁 75 打ち明ける

ミシェールとエルバルトのお試し期間は残り1か月となり、大公夫妻と子供、侯爵夫妻は馬車2台で遠出をしていた。

3泊して着いたのは、国の東側にある街で、大公領の隣りの領地だ。

「この街で、デューとなった」

二人が馬車の中から街を見ていると、ミハエルが静かに言った。

ミハエルは向かいに一人で座っていて、ミシェールとエルバルトの間に、ヴィヴィアンナが座っている。

悩んだ末に、ミシェールは兄がどのように逃亡していたのか、僅かでも知れたらと思って、願ってみようと、ミハエルに言う前に、デューに相談した。

デューは、ヴィヴィアンナには、嘘の説明をしてあるので、デューの逃亡の様子を知る事は、家出ではなく、必要に迫られた失踪だと知られる事になるからだ。

デューは少し時間が欲しいと言って、翌日の朝の散歩を、ヴィヴィアンナと二人きりで終え、部屋へと入ってきた。

デューの目が少し赤くなっていて、ヴィヴィアンナは労るように肩を撫でていた。

ヴィヴィアンナは、デューの説明を、嘘だと気付いていて黙っていたと、静かに笑って言った。アンナジョリーも気付いていたと。

気付いていて、騙された振りをしていた二人の優しさに、ミシェールも泣きたくなった。

命を狙われての失踪だと、改めてヴィヴィアンナには説明され、その首謀者は告げず、もう大丈夫とだけ、説明がされた。

そして、ミハエルがここへと案内してくれたのだ。

宿に着き、一番大きな部屋に入り、ミハエルは、地図を机に広げる。

その周りに、ミシェール、エルバルト、ミハエル、ヴィヴィアンナが立ち、その後ろにアンナジョリー、ドルファン、デューが立つ。

カフスボタンが一つ、ミハエルの手で地図の上に置かれた。

「失踪したのがここだ。そして、ここが今居る街」

もう一つ、カフスボタンが置かれた。

ミハエルが指に嵌めている、家紋の指輪を、地図に置く。

「大公城はここだ」

この街と城の寄り添う距離と比べて、失踪した所は離れている事に、ミシェールとエルバルトはどれ程時間がかかったのだろう?と思った。

その机を挟んだ向かいで、ミハエルが静かに言う。

「追手を警戒してたから、実際の距離は倍はあるだろう。移動は馬車は稀で、徒歩か、せいぜい馬。子供には辛かっただろうが、よく頑張ってくれた」

「騎士様の、助けがあったからです」

ミハエルの後ろで、直立不動で立っていたデューが、首を振った。

ヴィヴィアンナが、指に嵌めていた指輪をミハエルに渡す。

「合流したのはこの辺りだな」

地図の外に、それが置かれる。

デューが動き、騎士服のボタンをもぎとって乗せる。

「出国したのは、ここ」

「聞いていた話しより、大冒険じゃないの」

ミシェールの後ろで立っていたアンナジョリーが涙を浮かべて笑った。

ドルファンは、妻を労るように、ピッタリ寄り添って立っている。

「怪我は、しなかったのね?」

ヴィヴィアンナが振り返って、デューの肩に触れた。

「うん。騎士見習いになってからしかない」

「私にも言わせて。生きていてくれてありがとう」

デューの肩に、ヴィヴィアンナが顔を押し付け、デューはそっと髪を撫でる。

「うん」

「侯には無理をさせた」

ミハエルが、ドルファンを見る。

それにドルファンは、首を横に振った。

「いざとなれば、シージアを頼れますから。閣下ほどの覚悟は、ございませんでした」

ドルファンの祖父は、東隣のシージア国の公爵の出だ。叔母はその公爵家の分家と縁付いていて、繋がりがあった。

なので、失踪に手を貸した事が、三人の母親シェキーラに気付かれても、ドルファンはシージアの公爵家を頼って、家族で移れば良いだけだった。

エクレナールの、筆頭公爵のアストリアであろうと、他国の公爵までに、手を伸ばす事は難しい。ただ、王子の婚約者であったヴィヴィアンナの事を思えば、娘を置いて国外へと逃れるのは苦渋の決断となる。

だが、ドルファンは手を貸す事を戸惑わなかった。

デュクリスは、娘の結婚相手にと、思える程に好感があって、家族のようにも思っていたのだ。その命が危ないのなら、手を貸すくらい当然だった。逃げ場がなくとも、ドルファンは手を貸す事を厭わなかった。

幸い、シェキーラは、不慮の死を調べる事はしなかったので、その必要はなく終わった。

先々代アストリア当主が亡くなった事で、それどころではなかったのだろう。

不思議な縁で、ドルファンの息子はその現公爵の末の妹と婚約し、来年の春に結婚をする。息子が相手を見初めた結果で、家同士も繋がりが強くなる事を歓迎している。

「アン、勝手なことをして悪かった。あと黙ってた事も」

「私はどこへとも着いて行く。と信じて下さったのでしょ?それに、こんな事軽々しく言えないのは分かるわ」

ドルファンの言葉に、アンナジョリーがその肩に、頭を寄せて言った。

大人達の様子に、ミシェールもエルバルトも、兄の逃亡が命がけで、どれほど過酷だったのか?と身体が震え、寄り添って手を握る。大変だっただろう。とは朧気に思っていたが、経験した事がないので、想像が出来ていなかったのだ。

「ご両親は、知ってらしたの?」

「生きて欲しいと、手紙を貰った」

ヴィヴィアンナの問いに、デューは柔らかく嘘を口にした。

「それなら、良かった。留学を決められた事を、後悔なさっていなかったのね」

「手紙一つ出さない不孝者だと、呆れられたかも知れない」

「お祖父様?」

「多分。亡くなられても、影響はあるだろ?知られるのは怖かったんだ。母が裁かれた事で、アストリアの力は削がれたし、母の罪を知っている人は、アストリアを注視する。それでやっと、安心出来るようになったから、母の犯した罪は、許せないけど、少しだけ感謝してるんだ」

「そう。あの方の死で、デューは安心出来たのね」

ヴィヴィアンナがホッとしたように息を吐いた。

11歳の子供が命を狙われる理由など、そうそうない。死んだ事にして、名前を変え、国を一旦超えた理由を、母親ではなく祖父だった事にしたのは、ミハエルの提案だった。

母親に命を狙われていた事は、さすがに言う事は憚れたが、死を偽装してまで逃亡した以上は、首謀者はそれだけ、影響力のある人間でなければならないからだ。

ヴィヴィアンナがデューから離れ、ミハエルの横で深くカテーシーをする。

「閣下、デューと私の命を守って下さった事、再会させて頂いた事、二人の可愛い子供と再会させて頂いた事も、深く御礼申し上げます」

その横に立ち、デューも臣下の礼をとり、ミシェールとエルバルトも机を回り込み、礼をする。

「縁があっただけだ」

ミハエルは言いながら、四人の方へと身体を向け、ヴィヴィアンナとデューの頭を乱暴に混ぜる。

「笑っていれば、甲斐がある。堅苦しい真似は逆に迷惑だ」

「笑顔は得意ですわ。ミル様のおかげで」

ヴィヴィアンナが頭を上げ、晴れやかに笑った。

「こいつは、俺に慇懃無礼だがな」

「閣下の言動に問題があるだけでございます」

両手でミハエルに頭を撫でられ、デューはそれを払って澄ました顔を上げる。

「お貴族様め」

ミハエルが肩を震わせて笑った。

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