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因縁 73 それは

とうとう2週間シモンの姿が見えず、ミシェールは、モントルア侯爵夫妻に断りを入れ、授業を休んで、朝食の後から城内を歩き回っていた。

以前は、シモンが仕事中の時にすれ違いもあったが、最近はそれさえない。

ミシェールの練習場所に来ないのは良いとして、仕事をしている場面を見ないのは、さすがにおかしいと思ったのだ。

誰かに聞くのは嫌だった。どうしても会いたいわけではなく、仕事をしている所を見付けるだけで良かったのだ。

昼食には食堂に行き、出来るだけ早く食べて、お茶を貰ってすぐに食堂を出た。

ヴィヴィアンナが話しかけてきたが、今回ばかりは一言だけ謝罪して、会話を断ってしまった。

足早で歩き通し、さすがに疲れてミシェールは裏庭で犬のフィビーの側の、地面に腰を降ろした。

会えていた相手が、理由も分からずに会えなくなって、少し隙間風が吹いていた。

昼間は、たまにここに、シモンが居て、ボール遊びにも着いてきていた。

フィビーとボール遊びをしてた時に、一度なぜかシモンもボールを追いかけて走っていき、フィビーと競っているのを、エルバルトは笑って見ていて、ミシェールは溜め息を吐いていた。

その事を思い出し、ミシェールはボールでも投げたら、現れるだろうか?と荒唐無稽だと思いながらも真剣に考え、ゆっくり腰を上げる。

気付いたら、侍女と護衛が変わっていた。

そんなに長くボーとしてたつもりがなかったので、ミシェールは驚きつつも、ミシェールは侍女を見る。

「フィビーと、ボール遊びをしたいです」

侍女は頷いて、近くのメイドを引き止め、メイドはすぐに頷いて、騎士団の宿舎の近くにいる従者と話す。

暫くして、柔らかいボールがミシェールに渡された。

護衛がフィビーに長いリードをつけ、繋がれていた鎖を外す。

ボール遊びは前庭の植木の少ない場所まで行くので、少し歩いてそこまで行く。

護衛がフィビーを伏せさせ、ミシェールに小さく頷いた。

「フィビー、お願いね」

フィビーにボールを見せると、パタパタと尻尾を振る。

ミシェールがボールを思いっきり投げ、護衛の手が離れたフィビーが、長い毛を靡かせて走る。

戻ってきたフィビーは、どこか得意気にボールを咥えていて、ミシェールはそっと撫でて、ボールは侍女が受け取り、布で拭かれて、ミシェールに渡される。

そのボールが、横から取られた。

「お兄様」

取った相手を、ミシェールは少しガッカリしながら見上げた。

「シェリー、隠れん坊のコツ知ってるか?」

手の中で、ボールを投げては掴みを繰り返し、騎士服の上着を脱いだデューが小さく笑う。

ミシェールが首を傾げると、デューは何かをフィビーに嗅がせ、

「確保」

デューが短く指示をすると、フィビーが茂みへと飛び込んだ。

「うわっ?!まっ!」

言葉になってない声が聞こえ、ミシェールは茂みへと走る。

リードを持って、先に動いていた護衛が、茂みを掻き分け、視界が開ける。

フィビーに足を押さえられている、騎士服のシモンがそこに居た。

「隠れん坊をした事は?」

上着を着たデューが、ミシェールの隣りに立ち、静かに聞いた。

ミシェールは

「2回だけ」

と小さく答える。ミハエルが休みの日に、使用人の子供達と遊ぶ機会が何度かあり、その時に2回経験したのだ。

「鬼の後を付いて回ると、案外見つからないて、悪友が言ってた」

「シモンとしてたつもりはないですが」

「で、探し物はあれで良いか?」

デューが指差す方を見て、ミシェールは小さく頷いた。

それにデューは頷き、護衛からリードを預かる。

「気持ちは分からなくもないが、コソコソ見てるのは、兄として見過ごす事は出来ないからな。お茶の時間までは調整して貰うから、一度話をしたらどうだ?」

フィビーを撫で、シモンを開放させ、デューはチラリとミシェールを見て、フィビーを連れて宿舎へと向かった。

シモンが溜め息を吐いて、尻餅をついた姿勢から立ち上がり、髪を搔いた。

そこに、茂みの外からミシェールに言われ、

「はしたない事をしたのは間違いでした。とはいえ、仕事をしなくて良いとは思えません」

「えっと、スミマセン。仕事はしてました」

シモンは茂みを掻き分けて応えた。

「仕事をしている所を見ていません」

「たまたま、配属が合わなかったんだと思います」

サラリとミシェールの髪が風に揺れる。

少し沈黙が流れ、シモンが頭を掻いた。

「避けてました。たまにこっそり覗いてました」

「覗き?え?」

ミシェールが3歩後退り、護衛の横に立った。護衛は肩を震わせている。

そこでシモンが自身の言葉の危うさに気付いた。

「あ!違いますよ!さっきみたいに!こっそり見てただけで!ミシェール様の想像したのとは違います!疚しい事はありません!デューさんに誓います!」

「疚しくないならこっそり見なくとも良いと思いますが」

「ミシェールお嬢様、狩人は物陰に隠れて獲物をこっそり見るのですよ」

侍女がミシェールに優しく言うと、ミシェールがまた一歩下がる。

「獲物?」

「違いますから!ただ、元気かな?て様子を見てただけです!」

悲鳴まじりにシモンが否定し、護衛がボソリと言う。

「弱った所を狙うのか」

「なるほど」

もう一歩ミシェールは後退る。

「違いますって!会うのが恥ずかしかっただけです!」

叫ぶように言われ、ミシェールは首を傾げた。

ミシェールが会うのが恥ずかしく思ったのは、数回だ。

泣いた翌日と、ヴィヴィアンナを『お姉様』と初めて呼んだ翌日。

シモンと会わなくなったあの日、シモンは特段何もしていない。

してしまったのは、ミシェールの方だった。

今でも思い出すと後悔しかない。

「シモンさんが恥ずかしい事をなさった記憶がありません」

「はい。勝手に恥ずかしく思っただけです」

「私がはしたない事をしたせいで、シモンさんに恥ずかしい思いをさせたのでしょうか?」

ミシェールに確認するように言われ、シモンは頭を掻き、溜め息を吐いて、ミシェールを真っ直ぐと見る。

「違います。俺が、ミシェール様を好きだからです」

「好き、ですか」

ミシェールが少し考え込む。

家族間での好きではないのは、予想出来る。シモンは家族ではないから。料理の好き嫌いは当然違う。修道院仲間同士で、好きだ嫌いだと言っていた子達がいた。多分そっちだろうが、ミシェールにはその経験がない。

「それはどんな気持ちですか?」

「会うのが恥ずかしいのに、でも会うと嬉しくて、声が聞きたくなって、褒めて欲しいて思ったり、褒めて貰えただけでそれが自慢になって、姿を見れただけで嬉しくて、泣かないで欲しくて、喜んで欲しい。元気がないと心配になります。あとは、良い所を見て欲しいと思ったり。まあ、俺は、こんな感じです」

最後までミシェールを真っ直ぐ見て言い、シモンは鼻を搔く。

その言葉一つ一つに覚えがあり、ミシェールは頷く。

「なるほど。では、私はヴィヴィアンナ様が好きなんですね」

「え?」

「勉強になりました」

「はあ」

「お嫌でなければ、今度型を見て下さい」

「分かりました」

シモンが答えると、ミシェールは頭を下げて、その場を離れ、客室へと向かった。

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