因果 プロローグ
〜何の因果なのだろう?〜
目の前の光景に、彼は複雑な気持ちになった。
見慣れた主の後ろ姿は、白が混じり始めた赤みのある金髪に、珍しく櫛が通され艶を放ち背中を覆っており、黒の上質な生地に金ボタンと朱色で刺繍をされた軍服を身に付けていた。その右隣に灰色の髪で灰色のフロックコートを着た執事を従え、左隣には綺麗に剃られた頭部に、白いローブ姿の老齢の男。
そしてテーブルを挟んだ向かいに、三人が並んでいる。
真ん中に立つのは腰まで届く艷やかな金髪の若い女性で、青い瞳と小さな口は穏やかに笑みの形を浮かべている。服装は白の上質な布に、裾と胸元に光沢を放つ糸で編まれたレースが施されたドレスに見を包み、首元には控えめなルビーのネックレス。
その彼女の両脇は、主と同じ年頃の男女。
男性は金髪に緑の瞳で、黒の生地に紺色の刺繍と金ボタンが付けられたウエストコートを着ており、女性は金髪に青い瞳で、若い女性と良く似た顔立ちをしており、濃緑の生地に金糸の刺繍を施されたドレスを着用し、二人共、表情には笑みが浮かんでいるが、それは本心かは分からない。
「半年ぶりだな。息災のようで何よりだ」
三人からの挨拶を受け、主は鷹揚に頷き、三人に座るように手で促し、自身も傍らにある椅子へと腰を下ろす。
護衛として主の背後に控えているのは、彼と、騎士団長との二人で、相手側にも背後に二人。
この部屋へと繋がる扉は、彼の背中側と、相手の背中側の二つあり、窓はない。
彼の背中側の扉の向こう側にも、護衛が三人おり、おそらく反対側の向こうも何人か配置されていると思われる。
そして、向かいに居る若い女性へと、彼は気付かれぬように視線を向け、溜め息を堪える。
記憶の奥底に眠っていたあの日々を思い出して。