イデア・マロリー
僕は子供の頃、誘拐された。
犯行は夕方。
まあ、よくありそうな時間帯。
彼は僕のストーカだった。
電信柱から見ていたり、写真を撮られていたり。
でも、干渉はしてこなかった。
まだいたって安全なストーカーだった。
ある日、僕は学校が嫌になって逃げ出した。
当時の親は多忙のためか育児放棄が続き、
僕は鍵の閉まった家に入れなかった。
家も学校も嫌だから、ずっと街中をぶらぶらと歩いていると、彼は話しかけてきた。
「大丈夫?」
僕は大丈夫だと答えたけれど、彼は不安なようで、僕は二、三回かジャンプして元気だということを伝える。
「それならいいんだけど……」
彼は自分をオリバーだと名乗った。
後々知ったことといえば、オリバーではなくオリヴァーだということと、
ショタコンではなく、ロリコンということ。
当時の僕は髪も長かったし、カチューシャもつけていたものだから、まあ確かに、女の子に見えるけど。
でも、普通間違える?
約半年以上も僕のこと見ていたのに……?
まあそんなこんなあって、僕はオリさんの家に行くこととなった。
オリさんの家にはアニメグッズがいっぱいあって、そのほとんどが女の子のポスターとかカップとか抱き枕とかフィギュアとか。
とりあえず、いっぱいあった。
かといって、そのキャラクターの種類は二、三人と少なかったけれど。
ごめんねといいながら、溢れかえったグッズを机からどけてお菓子を山ほど置いてくれた。
まあ、そのお菓子もほとんどがシールとかカード付きのお菓子だったけど。
子供だった僕にとっては、オリさんの家にはゲーム機がたくさんあって、個人的に物凄く嬉しかった。
うちはおもちゃを買うほどの余裕もなかったから、クラスメイトの話を聞いていつも羨ましがっていたからだ。
「そうだ、何か欲しいものある?」
欲しいもの。
いざ聞かれると、何も思い浮かばない。
僕には物欲のようなものは特にないから。
それに、言ったとして買ってはくれないから。
そんな僕の気持ちに勘付いたのか、
オリさんはゆっくり考えてねと優しく頭を撫でてくれた。
今でもその感触は忘れていない。
オリさんとの生活は本当に幸せなものだった。
二人で駄弁りながらお菓子を食べたり、ゲームしたりした。
時にはアニメキャラクターについて熱心な講論も始まったけど……。
まあ、それもまた一つの思い出だ。
だけど、それもこれも時間の問題だった。
僕が行方不明という噂はあっという間に流れ、警察が動き出した。
オリさんはそんな僕を気遣ってか、しばらくはずっとテレビもネットの掲示板も見せてくれなかった。
もし、僕が見つかったら、彼はどうなるのだろうか。
そんなことが脳内を過る。
夢はいつか覚める、
警察を見た日はそれを自覚した記念日になった。
現実というのはなんとも残酷なもので、
「幸せ」というのは過ぎ去っていくものだった。
誘拐されて何年か経ったある日に、
僕とオリさんは遊園地に行った。
前、欲しいものは何かと聞かれた時に、何年も経ってから言った事がそれだった。
熱りも冷めただろうと、二人でウキウキに遊びに行った。
だけど、案の定バレた。
職員さんに通報され、オリさんは捕まってしまった。
なぜかオリさんは、抵抗をしていなかった。
その時、ただいつも隠れていた鎖骨あたりが見えて、僕は驚愕して腰を抜かしてしまった。
無数の古傷が刻まれていたのだ。
遠くから見てもわかる程に。
恐ろしかった。
一体何をしていればあの様な傷がつくのだろうか。
僕は泣いてしまった。
自分がオリさんを助けられないという無力感もあるだろうけど、それ以上に、感謝の気持ちが強かった。
まだ一緒にいたい、その望みは叶わずに、
オリさんは投獄され、僕は病院に搬送された。
病院に搬送された後の記憶は、断片的過ぎる。
自分でも一体何をして過ごしていたのかわからない。
覚えているのは、自分のカウンセリング風景だ。
「貴方の名前は山裾邑。覚えてる?」
「……はい」
「じゃあ、誘拐犯の名前は覚えている?」
「はい」
「…………名前は?」
「オリヴァー・グラン」
「貴方を誘拐した理由は?」
「僕を助けるため」
「貴方、学校で困っていたの?」
「……いいえ」
「じゃあ家?」
「…………はい」
「お母さんは怖い?」
「怖くない」
「じゃあ、苦手?」
「はい」
「なぜ誘拐されたの?」
「……家の鍵が閉まってた」
「最後になぜ遊園地にいたの?」
「…………僕が行きたいって言った」
「……いい判断だね」
そこで、何かがブチ切れた。
いい判断、だって?
お前には何もわからないだろうに。
憶測で決めつけやがって。
そんな言葉を僕はその人に吐きつけた。
そして僕は、大人になるまで、精神疾患者として、外出を制限され、薬を飲まされたのでした。
おしまいおしまい。
どう思う?
いやぁ、どう思うって言われてもな。
にしてもオリさん変わんないね
お陰で邑には背越されたけどなぁ。
あは、でもオリさんの脳天見られて嬉しいよ俺
脳天……もうちょっといい言い方ないの。
んー、つむじ?
うん、そっちの方が断然いいけどなんか変。
そっか(笑)