トモダチ
三題噺もどき―はちじゅうはち。
※あったかもしれない、赤ずきんの話※
お題:楽しい・狼・色
木漏れ日の差す森の中。
少し大きめの籠を片手にスキップをしながら歩いていく。
「〜♪」
無意識に鼻歌まで歌ってしまった。
―それほどまでにこの時間が楽しいのだ。
嫌いだったはずの、この森の中を進むこの時間。
「~♪」
私は、この森の中に住む祖母に食べ物や飲み物を届ける。
その祖母に会うのは、いまだに苦手。
私が楽しみなのは、友逹に会いに行けるから。
祖母を騙し、私を襲おうとした狼と友達になったのだ。
「~~♪~♪」
彼は、村の人には恐れられていて、私もはじめは怖かった。
けれど、1人で寂しかったのだという。
だから、友達になれたのかもしれない。
今まで、村でも、家でも1人だった私に出来た初めての友達。
そんな彼に会えるのだから、楽しみでないはずがないだろう。
祖母の家に行く途中にある、広い草原。
(狼さんは……)
―いた!
真っ青な草原に一際目立つ銀の毛並み。
他の狼とは違う、美しい色。
でも、彼はそのせいで群れから追い出されたんだそうだ。
(私は好きだけどな……)
他の狼は、その美しさに怯えたのかもしれない。
「狼さん!」
「あ、やっと来たね。」
―今日は来ないのかと思った。
そう言って、ニッコリと優しく微笑む。
「今日はちょっと籠が重かったの……」
「そっか、一緒に持って行ってあげようか?」
「ううん、大丈夫。すぐそこだし。」
「そう?じゃあ今日は何の話をする?」
「そうね―」
彼とはほかの村の子供たちみたいに、はしゃいで遊ぶことは滅多にない。
こうやってお話を聞かせてくれるのだ。
そうやって話している時間がとても楽しい。
村に居る時よりも、家に居る時よりも、祖母のもとに居る時よりも、この時間が、何より楽しい。
そんな楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
「あ、もう、お婆さまにご飯を持っていかないと……」
「そっか、もう、そんな時間か……」
彼はいつに無く悲しそうだった。
「どうしたの……?何かあった?」
「いや、もう、お別れなんだと思うと、悲しくて、」
「また、明日も会えるじゃない!」
ホントは、今日で最後なのだけれど。
お別れを言いに、明日またここに来るから。
―それじゃぁまた明日。
そう言おうとした。
でも、声を発することは出来なかった。
真っ白な銀の毛並みが、目の前を覆う。
「バイバイ。」
口元を真っ赤に染めて、狼は嗤う。