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1-1. ワナに堕ちた大聖女

「大聖女! 貴様は追放だ――――!」

 きらびやかな王宮、その大広間の壇上で国王が大聖女ユリアを指さし、真っ赤な顔で()えた。

 列席の正装をした王侯貴族たちは静まり返り、お互いの顔を見合わせながら困惑の表情を浮かべている。


 今日は王国の大切な儀式『蒼天の儀』の日。それは国内外から多くの賓客(ひんきゃく)を招き、神に祝福された大聖女がそのけた外れな神聖力で街を聖結界で覆い、魔を(はら)う神聖な儀式だった。

 ところが、ユリアは国宝『蒼天の杖』を無くし、壇上に手ぶらで現れたかと思うと、神聖力を全く出せないまま、結界を張るポーズを無様に繰り返すばかり。


 王家の威信をかけた儀式を潰された国王の怒りはすさまじく、静まり返った大広間には緊張が走っていた。


「お、お待ちください! これは何かの間違い……」

 金の刺繍が施された純白の法衣をまとった十六歳の少女ユリアは、真っ青になって国王に近づこうとする。ダークブラウンの髪に健康的な艶やかな肌、そして整った目鼻立ちの美しい少女は眉をひそめ、目に涙を浮かべながら、とりなそうと必死だった。

 さっきまで蒼天の杖は持っていたし、神聖力も普通にあった。それが控室でお茶を飲んだ直後、強烈な眠気に襲われ、気がついたら壇上に引っ張り出されていてこんな事になってしまっていたのだ。杖無しでも結界は十分張れるはずだったが、神聖力まで奪われていたとは想像もしていなかった。

 騎士たちが一斉にユリアを囲み、捕縛(ほばく)する。

「ひったてろ!」

 国王はアゴで出口を指し、騎士たちはユリアの両手をガッシリとつかんだまま引きずっていく。

「い、いやぁ! やめてぇ!」

 ユリアは悲痛な叫びを上げるが、出席者たちはただ冷たい視線を投げかけるだけで、引きずられていくユリアを傍観していた。

 ユリアは、離れたところで伏し目がちに見ている、幼なじみで男性従者のティモを見つける。

「ティモ! 助けて! ティモ――――!」

 しかし、ティモはくるりと背を向けると、何も言わずに逃げ出してしまった。

「えっ! な、なんで……」

 唖然とするユリア。

 物心ついた時から一緒だったティモ、自分の事を一番分かってくれているはずのティモに逃げられてしまったことにユリアは愕然(がくぜん)とし、口を開けたまま言葉を失った。

「お前たち、待て!」

 豪奢な純白のジャケットを着た金髪の少年が飛び出し、両手を広げ、ユリアを引きずる騎士の行く手を阻む。透き通るような白い肌に凛とした鼻筋、そして王家の血筋を示すエンペラーグリーンに輝く瞳……、少年は第二王子だった。

「大聖女さまは何かの間違いだとおっしゃっている。まず調査が先だろう!」

 少年は毅然(きぜん)と言い放つ。

 ユリアは泣きそうな顔でこの美しい少年を見つめた。

 すると、同じく純白のジャケットを着た男がニヤニヤしながら少年に近づいた。

「なんだ? お前、コイツに()れてんのか?」

「ほ、惚れてるとかどうかじゃなく、一度の失敗で追放なんて……」

 少年はちょっと頬を赤らめながら言い返す。

「国宝を無くし、大切な儀式をぶち壊し、神聖力も失った小娘を大聖女になど、もはや誰も認めんよ」

 男は汚らわしいものを見るかのようにユリアを一瞥してそう言うと、少年をにらんだ。男は少年の兄、第一王子だった。

「いや、でも……」

 口ごもる少年。

「俺はこんな黒髪の田舎娘が大聖女だなんておかしいと思ってたんだ。父上の命令は絶対だ。文句は許さん……。いいからどけ!」

 男は少年を突き飛ばした。

 ぐはぁ!

 少年は無様に転がり……、細い腕で身を起こしながらその美しい顔を歪める。

 男はフンッと鼻で笑うと、アゴでユリアの連行を指示した。


「い、いやぁぁぁ!」

 大広間にユリアの悲痛な声が響き、そして連れ出されていく……。

 ザワザワとする大広間、その中で一人ニヤけている女がいた。聖女ゲーザだった。ゲーザは美しい銀髪を編み込んでオフホワイトの法衣をまとい、整った目鼻立ちに白い肌、そして果物のようなプックリとした紅い唇……、しかし、その(あお)い瞳の奥にはかすかに(くら)い情念が揺れている。

 ゲーザはでっぷりと太った教皇の隣で、ユリアの連行を眺めながらその美貌(びぼう)に似合わぬいやらしい笑みを浮かべていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 内容は面白いと思います。ユリアを助けようとした少年は今後話に関わってくるんですかね? [気になる点] 会話文とそれ以外の文が離れずに文章がつながり続けているので、少し読みにくさを感じまし…
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