居ても立っても
「バンゴ、ゴヘノヘは来るの…?」
ゴヘノヘの気配すら掴めないまま五日が経ち、猪人達の様子を確認しに行った時、私は思わずバンゴに尋ねてしまいました。
すると彼は、
「来る。来ている…!」
きっぱりとそう告げました。他の猪人達も、酒宴に興じながらも武器はすぐ傍に置き、完全に酔い潰れたりはしないようにはしています。いえ、もしかすると緊張感から完全に酔ってしまえないのかもしれませんね。
集落全体が何とも言えない空気感に包まれているのを、私も感じます。
そんな猪人達の集落を後にし、私は準備作業の現場へと向かいました。
ゴヘノヘの襲来が遅れていることで、想定していた以上にしっかりと準備が行えています。
トーム以外の山羊人達の協力が得られなかったから諦めていた仕掛けも、次々完成しています。それでも、やはり山羊人達の力がないことで完璧とは言い難いですが……
と、
「……!」
私は何者かの気配を察し、ナイフを手に身構えました。
敵意は感じませんでしたが、だからと言って油断はできません。
「! テキジャナイ! テキジャナイ……!!」
臨戦態勢に入った私の姿がよほど恐ろしかったのでしょう。気配の主達は、必死で手を振ってアピールしてきました。
まあ、私も軍人の端くれ。敵対する者であれば相手がたとえ年端のいかない子供でも容赦せずに迎え撃つ覚悟はありますから、彼らにしてみれば<獣蟲>並みに恐ろしく見えたかもしれません。
でも、対象が確認できたことで、私は警戒の段階を下げます。ナイフは手にしたままですが、構えは解きました。
「避難したのではなかったのですか?」
私がそう問い掛けた相手は、山羊人達でした。見るからに働き盛りの雄達が五人。
すると彼らは、まだ少し怯えながらも、
「オレタチモ、テツダウ。トームバカリ、ハタラカセラレナイ」
とのこと。
聞けば、<長>が協力を拒んだ手前言い出せなかったものの、彼らもゴヘノヘをなんとかしたいという気持ちはあったそうです。
その上で、トームが一人で懸命に働いているのを見て、居ても立ってもいられず、家族が避難の準備を整えたのを確認して、それでこちらに駆け付けたということみたいですね。
「ありがたいですけど、大丈夫ですか? 後で怒られたりしませんか?」
私の疑問に、彼らは、
「オサハ、フルイ」
「オレタチ、ダッテ、ニゲテバカリ、ハ、イヤダ」
「ゴヘノヘ、ガ、ニクイ…!」
視線は落としながらも、拳を握り締め、口々に言ったのです。
特に、『ゴヘノヘが憎い』と口にした彼は、前回の襲撃で行方不明になった山羊人の息子でした。彼を生んだ後、産後の肥立ちが悪く逃げることができなかったために犠牲になったのだと……




