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獣人のよろずやさん  作者: 京衛武百十
第一部
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口先だけでどうにか

「やはり、<落とし穴>を使うのが戦術としては最も確実だと思う。それほどの巨体であれば、自身のウェイトは強力な武器であると同時に大きな弱点でもあるはずだ。多少の高低差であっても落ちれば決して小さくないダメージを負う。


かつて、<戦車>が陸上戦力の要であった当時、十分な対抗策を持たなかった側は、落とし穴を掘って戦車をそこに落とすことで撃破したという。


それが、強力な各種センサーも備え、転倒や転落についても対策が施された<人型戦車>とも呼ばれるランドギアに移行してからは有効な戦術ではなくなったものの、大型の動物相手であれば十分に効果は望めると思う」


「ああ、同感だ。


しかし、ゴヘノヘは、大型の動物だからこそ余計に足元には敏感だ。象が、小石を踏むのも嫌がるのと同じだな。


だからちょっとした違和感だけでも悟られる可能性もある。実際、自分からわざと踏みつける時は躊躇しねえが、猪人(ししじん)が落とした棍棒や槍は避けてたのを見た。だからかなり上手くやらねえと逆にこっちにとっての墓穴になるだろうな」


少佐と伍長のやり取りに、


「私も同感です。ゴヘノヘの気を引き、足元への注意を疎かにさせる戦術が必要だと思います」


と、正直な意見を述べました。


こうして落とし穴を使うことは決まりましたが、同時に、ゴヘノヘに対して有効な落とし穴となると、私達が現時点で用意できる<装備>では、準備に相当な時間が掛かってしまうでしょう。なにしろ、金属製のスコップすらないのですから。


ですが、ないものを嘆いても状況は好転しません。現時点で用意できるもので対処するしかないんです。


加えて、猪人(ししじん)達については、敢えて彼らが望む戦術を実行してもらうことにします。


彼らにも私達のそれに同調してもらえれば確かに助かるのですが、猪人(ししじん)と長く一緒に暮らして彼らの感性に触れてきた伍長の実感として、


「あいつらに俺達の戦術を納得してもらうにゃ、二世代三世代先を見据えた<教育>そのものを変えていくしかねえ。あいつらの信念は、口先だけでどうにかできてしまうほどヤワいものじゃねえからな」


とのこと。


実は、伍長自身、近代的な戦術の有効性を折に触れて説いてきたものの、彼らの<こだわり>は非常に強く、それを一朝一夕で変えてしまうのはまったく現実的ではなかったそうです。


それでも、ごく一部の若い世代には、多少、興味を示してくれる者もいるそうですが、全体まではとてもとても……


これを、


『頭が硬い!』


と非難するのも簡単でしょう。ですが、私達地球人類も、<武力による問題解決の有用性>という価値観についていまだに強く信じている面が確かにあります。


ですから、一方的に価値観を押し付けるだけでは相手を変えることはできないと、私達は知っているのです。



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