表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人のよろずやさん  作者: 京衛武百十
第一部
8/404

ホコの実

「他のお客に迷惑だろう?」


地面に転がった伍長とブオゴに掛けられた少佐の言葉に、二人は体を起こしながらも、


「けっ…!」


と顔を逸らしました。


まったくもう……


けれど少佐はそんな二人のこともそれ以上叱責することもなく、


「いらっしゃいませ」


と、怯えた様子で森の陰からこちらを窺っていた人影に笑顔で声を掛けたのです。


ふわふわした感じの薄茶色の体毛に覆われ、頭には長く伸びた耳。赤い瞳。完全に兎の意匠を持つ獣人。<兎人(とじん)>でした。


基本的には争いを好まない臆病な性格で、だから遠巻きにしてたんでしょう。それでも逃げなかったところを見ると、どうしても欠かせない用があったのだと思われます。


久利生(くりう)が伍長とブオゴを制してくれたことを確認できたのか、兎人(とじん)はおずおずと近付いてきます。メイミィでした。


獣人の顔の見分けは正直今でもはっきり見えないとできないことも多い。特に兎人(とじん)は双子三つ子も多いから、個人の識別は大変なんです。


「いらっしゃい。メイミィ」


彼女を安心させようと思って、私も笑顔で出迎えます。


すると彼女も安心したのか、やっとすすっと歩み寄ってきました。


「ホコの実……」


少したどたどしい感じで彼女はそう言います。


『<ホコの実>が欲しい』


ということだと察せられます。


「ホコの実だね。待ってて」


私は店に戻って、丸太から削りだして作った容器に入ったそれを取り出し、彼女に渡しました。


<ホコの実>は、鎮静作用のある果実です。彼女がそれを求めるということは、妹のレミニイがまた癇癪を起こしたんだろうなって分かりました。


今から与えに行くんじゃなく、家に常備してるのを使ってしまったから、補充しに来たんでしょう。


メイミィの妹のレミニィは子供の頃から強い癇癪を起こす持病があって、発作を起こすとホコの実を与えて落ち着かせることが必要でした。


ただ、ホコの実は、なってるのを見付けるのは結構大変なので、発作を起こしてから探してるとその間に暴れて怪我をしたりさせたりっていうことがあるから、ここ<よろずや>で手に入れて常備しておいて、使ったらまたもらいにくるようにしてるんです。


「はい。レミニィは大丈夫?」


私はホコの実を渡しながら尋ねました。もし怪我とかしてたらまた少佐に往診に出てもらわないといけないし。


でも、


「だいじょうぶ…寝てる……」


メイミィがそう応えたので、私もホッとする。ホコの実が効いて落ち着いたんだと思います。


そうしてメイミィは自分の家に帰るべく森に入っていきます。


で、興が削がれたのか、ブオゴも、


「カエル……」


と言いながら立ち上がり、ズカズカと大股で歩いて、メイミィとは別の方向に消えたのでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ