完成された生活
尾篭な話は今後もすることになるでしょうが今回はこれくらいにして、とにかくいろいろな面で私達の生活はもうすでにある意味では完成されたものになっているということですね。
この世界に合わせて。
そして……
「おお~! 立ったぁ♡」
ノーラの赤ん坊が、生後七日目で、支えなしで立つことができました。この辺りは個人差が大きいので、特に早いわけではないですが遅くもないでしょう。
「ふーっ! ふっふっ!」
鼻息荒く自慢げに私達を見ます。特に、相堂伍長に意識を向けてる気がするのは、思い過ごしでしょうか?
いえ、ハイハイを始めてからは特に寝ている伍長にちょっかいを掛けていたので、もしかすると彼のことを<父親>だと思ってる可能性がある…?
正直、それも否定はできないかもしれません。
いずれ山羊人のコミュニティに戻っていくことになるはずなので、女性である私はともかく男性の少佐と伍長は<父親>だと思われないようにそんなに丁寧には構わないようにしてきたはずなんですが。
ただ、赤ん坊の方からこられると邪険にするわけにもいかず、伍長は決して愛想よくはしなかったものの相手をしてあげてたんですよね。
それでも赤ん坊にとっては父親、いえ、母親は別にして<一番の仲間>だと思っているのかも。
「これは……別れが少し辛くなるかもしれないね」
「そうですね……泣かれるかも……」
立ち上がったのはほんの数秒だけで、すぐに尻餅をつき、それからハイハイで伍長のところに向かう赤ん坊を見て、少佐と私は言葉を交わしました。
「……」
伍長は黙って、自分の脚に縋り付いて掴まり立ちをしつつ、
「あ~、あ~」
と何かを話し掛けようとする赤ん坊を見詰めます。
その表情は、笑顔とかではないもののどこか優しい感じで……
私や少佐にはあまり見せない彼の一面を改めて見た思いですね。
それからも私達の生活は、獣蟲の襲撃などもありつつも、想定外のトラブルはなかったという意味では平穏でした。
しかも、クレアも、元の<不定形で透明な謎の存在>に戻ってしまうこともなく普通に暮らし、さらにはメキメキと知識を身に付けていって、
「ビアーカ! トーイ! ユキ!」
私達の名前も、若干、不正確ではありながらも覚えてくれて、ある程度はしゃべれるようになりました。
この調子だと、少なくとも獣人達と変わらない程度には様々なことを理解してくれるかもしれません。
そしてそれは、獣人達の起源についての大きなヒントでもあるでしょう。
彼らはやはり、このクレアのようにあの<不定形で透明な謎の存在>が落雷などの強い刺激を受けたことにより姿を変えた者達が祖先になっているという可能性を示してくれたのです。




