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獣人のよろずやさん  作者: 京衛武百十
第一部
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さほど苦には

「ダレ……?」


クレアが来た日の夕方。店に来たラレアトが、初めて見る顔に警戒心を滲ませながら言いました。


店の入り口の陰に隠れつつ。


「クレアだよ。今日から私達の仲間になったんだ」


ややこしい説明を並べてもラレアトを困惑させるだけなのは分かってたので、私は単純にそういうことにしておきました。


「……」


クレアもあまりよく分かってない様子ながら、愛らしい兎人(とじん)のラレアトに対してはむしろ興味深そうに顔を覗かせます。


危険な存在ではないと感じるのでしょう。


ところでこの時点ではもうすでに、クレアの顔と手と足にはファンデーションを塗り、一見しただけなら普通の獣人っぽくも見えるようにしました。


顔と手と足以外については、細く長い体毛が光を乱反射して白く見えるので、敢えてそのままにしてあります。


さしずめ、


<白い猿人(えんじん)


といった感じでしょうか。


クレアが敵意を見せないことでラレアトも安心したみたいで、おずおずと店に入ってきました。


そして、クレアに対しては少し警戒を見せながらも私に向けて、


「ナヌヘ」


いつものようにナヌヘを要求してきました。


と同時に差し出してきた植物の束。


<トイラ>でした。ナヌヘの代わりにということですね。


「ありがとう♡」


私はお礼を言いながらトイラを受け取りつつ、計量カップに入ったナヌヘを差し出されたラレアトの手にあけました。


するとラレアトは嬉しそうに口いっぱいにナヌヘを頬張り、


「ウマ~♡」


満面の笑顔を浮かべます。


するとその様子を見ていたクレアが、私の服を摘んで引っ張りながら、


「あ~!」


と声を上げて、ラレアトを指差したのです。


その様子に、私もすぐにピンと来ます。


「クレアも欲しいの?」


問い掛けながらナヌヘを計量カップで掬うと、


「ふん、ふん!」


大きく頷きました。


こうしてコミュニケーションが取れるだけの知能があるのは、助かります。


今のクレアは、ちょうど一歳を過ぎた辺りの乳幼児と同じでしょうか。


人間は、ついつい相手にも自分と同じレベルの応対を求めてしまいがちですが、それは傲慢というものでしょうね。


相手が自分と同じことができてほしいと思うのは、結局、自分が楽をしたいからなのでしょう。


丁寧に相手の意図を汲み取ろうとせず、あくまで相手が自分に合わせてくれて楽にコミュニケーションを取りたい。


だから自分の思っているような形でコミュニケーションを取れないとなると苛立ち、見下す。


自分は相手に合わせる気がないのに、相手が自分に合わせてくれるのを当然だと思っているのでしょう。


これを<傲慢>と言わずになんと言うのでしょうか。


私達、惑星探査チームは、私達の思う常識とはかけ離れた存在と遭遇する可能性も想定して選抜されます。


それを思えば、ノーラや赤ん坊やクレアの相手も、さほど苦にはならないのです。



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