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獣人のよろずやさん  作者: 京衛武百十
第一部
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できることとできないことがある

まずノーラが安心したことを確認し、次いでノーラの赤ん坊の向きを少し変えてあげると、再び前進できるようになったことに機嫌を直し、


「ふんす! ふんす!」


と鼻息荒く猛然と<背面ずり這い>を再開しました。


「……?」


ノーラも、そんな赤ん坊の様子を不思議そうに見詰めるものの、もう怯えるような様子はありません。


彼女には普通の育児はできません。できないことが分かっているものをやらせようとするのはただ無用なトラブルの基にしかなりません。周囲の人間にできるのは、


『できることとできないことがある』


という事実を受け止めることだけです。


自分達が楽をしたいからとその事実を認めないのは、軍でも避けられることでした。むしろ軍の場合は、命に直結することさえあります。できない者にやらせて失敗させるのではなく、できる者にやらせるのが当たり前なのです。


訓練中であれば、できることできないことを把握するために、当人に自覚させるために無理にやらせてみるということもしますが。


四十キロの装備を背負わせたまま三日間不眠不休で歩かせるというのもその一つでしたね。


隊長役の隊員には脱落者を出させないように命じますが、怒鳴ろうとなだめようとすかそうと完全に限界を迎えた者は歩けるようにはなりません。すると、訓練を監視している教官は動けなくなった者に死亡宣告を出して救護してしまうのです。


脱落した隊員はもちろん、脱落者を出した隊長役の隊員にとってもこれはペナルティの対象となります。


あまりに早々に脱落した隊員や、まだ余力を残しながらもサボるために動けないフリをする隊員には欠格宣言(要するに『お前は向いてないからとっと辞めろ』ってことですね)を出すこともありますし。


ちなみに私もその訓練で脱落して、あまりにも自分が情けなくて涙が止まらなくなったことがありました。


結果、


『本人が続けたいと希望するなら残ってもいい』


というボーダーラインとしての評価の、


『ギリギリ不可ではない可』


を受けたという……まあ、それも今となっては<いい思い出>ですが。


なんてことを思い出していると、背面ずり這いを続けていたノーラの赤ん坊が不意に動くことをやめ、


「……!」


ぶるっと震えたかと思うと、


『ほわ~……』


と緩んだ表情をしました。おしっこですね。


しかも満足したのか移動することもやめ、困ったような表情をしながら脚をばたつかせ始めました。オムツが気持ち悪いのでしょう。


だから私は


「ほいはい、ちょっと待っててね♡」


替えのオムツを手に取りながら声を掛けて、オムツの交換を始めたのでした。



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