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獣人のよろずやさん  作者: 京衛武百十
第一部
47/404

勝てない相手では

獣蟲(じゅうちゅう)>は、昆虫としては明らかに大きすぎるその体を支えるために、キチン質の外骨格とは別に、脊椎動物と同じく内骨格を獲得していたのです。


実は同じような構造を持つ生物はこれまでにも発見されているので、それ自体は驚くに値しません。ただ、その類稀なる戦闘力と比類なき凶暴性については、やはり容易ならざる相手だと言えるでしょう。


特に、同じ大きさ脊椎動物に比べてもとてつもない膂力と、ナイフを通さない外皮、刃物のような爪、そして脊椎動物の骨さえ噛み砕く強力な顎は、恐ろしい武器です。


しかし、生物である以上、弱点はあります。<内骨格>を備えるため、地球で見られる昆虫ほどは関節部が外れやすいわけではないものの、過大な負荷がかかるとやはり折れますから。


何より、多くの昆虫と同じように<腹>は十分に装甲されていないのは、大きいですね。そして、決して知能は高くない。


ほぼ反射と反応のみで自らを律している獣蟲(じゅうちゅう)は、決まった行動を決まったとおりに行うだけの、簡易なロボットのような生態を持っていました。


これでも普通の人間や獣人達には十分危険ですが、私達軍人にとっては、訓練用のロボットと同じように対処できます。


油断することなく、的確に対処すれば、勝てない相手ではありません。


だから今回も、伍長は自らを囮にして獣蟲(じゅうちゅう)を誘導し、その隙を突いて少佐がナイフで腹を裂きました。


それでもすぐには絶命しませんが、腹の奥にある太い神経節を絶てば、もう複雑な動きはできなくなり、腹を裂かれたことで体液も流れ出し、数分で絶命します。


「ギギギギギギギッギ……ッッ!」


顎をこすり合わせて威嚇音を発するものの、それまででした。


体をひっくり返して裂いた腹に木の枝を押し込んで地面に押さえ付け動きを封じ、絶命するのを待ちます。


獣蟲(じゅうちゅう)の最大の<弱点>は、


『群れを作らない』


ということでしょう。


数匹の群れで一度に襲い掛かられるとその危険度は桁違いに上昇するはずが、少なくともこの種の獣蟲(じゅうちゅう)は群れを作らず単独で狩りをするのです。


それはたとえ(つがい)になっても変わりません。


この辺りは、群れるとあまりに強力になりすぎてすぐに獲物を狩り尽してしまい、結果として自らも飢えることになるので、敢えて群れないのかもしれませんね。


もしかすると、群れる種がかつていたものの、そうやって獲物を狩り尽したことで滅び、群れを作らない種だけが生き延びたのかもしれません。


この辺りは推測の域を出ないにしても、少なくともこの周囲に生息しているのは、これと、その亜種と思しき数種だけなのでした。



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