ラレアト
「コン~」
また店の方で気配がしたので、私は、
「いらっしゃいませ」
と営業スマイルを浮かべながら迎えました。
するとそこにいたのは、また兎人でした。ですが、メイミィとは違います。彼女よりずっと幼い。
そのもふもふで柔らかそうな姿に、私も頬が緩んでしまいました。
「ラレアト、久しぶりだね。元気してた?」
私が笑顔で話し掛けると、その兎人の子供、<ラレアト>も、
「ゲンキ~♡」
嬉しそうに返してくれました。
「ナヌヘ!」
正直、彼女はまだ片言しか話せませんが、指差しながら言ってくれるので、すぐ分かります。
「ナヌヘだね、はい!」
私は彼女が指差した器を手に取ります。そこには、黒っぽい粒々がたくさん入っていました。
ナヌヘという植物の実です。甘酸っぱくて兎人の子供の大好物の一つでした。
ただ、ちょっとした気候の変化でも味が大きく変わってしまい、美味しいナヌヘはいつでも食べられるわけではありませんでした。
その一方で、豊作の時には食べ切れないほどできることもあり、だったら豊作の時に確実に収穫しておいて、採れない時には備蓄していたそれを食べればいいということで私達は<商品>にしているのです。
身長で言うと、耳を除けば百センチをやっと超えたくらいのラレアトが美味しいナヌヘを集めるのは簡単じゃないというのもあり、彼女は時々、こうしてナヌヘを求めて店を訪れるんです。
<擬人化した兎>そのもののラレアトは本当に可愛いです。まるっきりぬいぐるみそのものです。できればお持ち帰りしたい!
でも、そういうわけにはいきません。
彼女の家族は、主食である<コミンの葉>を求めて絶えず移動する生活をしているので、何ヶ月も顔を出さないこともよくあります。
家族と引き離すわけにもいきませんし。
ちなみに、メイミィ達は基本的に定住しています。同じ兎人ではあるものの、見た目には若干、色がラレアト達の方が白っぽいのと、耳が少し短いだけで、人間である私にはほとんど区別もつかないですが、厳密には違う種族だそうで、主食としている植物も違うんですね。
そんなラレアトが小さな両手をお皿のようにして掲げて、私はそこに器の中のナヌヘを、木の枝を加工して作った計量カップで掬ってあけました。これが一回分ということで。
するとラレアトは、その場で手の平を口に寄せて、ナヌヘを食べ始めます。
先にも言った通り、獣人達の間には、今はまだ貨幣というものが存在しないどころか物々交換の概念もないので、これが当然です。
ただし、一回に付き計量カップ一杯だけ。
要するに<おやつ>ということ。ナヌヘは甘味は強いものの栄養価自体はあまり高くないので、食事には向かないんです。




