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獣人のよろずやさん  作者: 京衛武百十
第一部
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それがどうした!

もうリアルとの区別がまったくつけられない高度なシミュレータが実用化されていたことを知っていた私達は、現状の様々な<不可解な点>から、自分達がただのデータヒューマンに過ぎないことを薄々察していました。


なのに、


「それがどうした! 俺達は現にこうして生きてる!」


ガーンと叩きつけるように声を上げた人がいました。


相堂(しょうどう)伍長でした。


「いくら<データ>とか言われたって、俺にはそんな実感はまったくない!」


そう言いながら彼は、ガツン!と自身の頬を拳で殴ったのです。それも、決して弱くない力で。


軍人として打撃系格闘術の訓練も豊富に積んでいる私には、本気で殴っているのか、ただの<殴ったフリ>なのかは、分かってしまいます。


そして今のは確かに殴っていました。


その上で、彼は言います。


「こうやって殴られりゃ痛えし腹も減る! クソだってする! 死人がメシ食うか!? クソするか!? しねえだろ!? だったら俺達は、今、この世界で生きてんだよ! 学者先生方の小難しい理屈なんざクソくらえだ! 俺は生きてる! それだけは譲れねえ!!」


と。


ムチャクチャな理屈ですが、確かに彼の言うことにも一理はあると、この時の私は感じました。


実際、私達は、水分の摂取や食事をしなくても渇きや飢えは感じるのに衰弱しないというのもありつつ、生理現象は間違いなくありました。排泄もしますし、情動もあります。普通に肉体を持った人間であった頃とほとんど違いが分からないのです。『水分や栄養を摂取しなくても衰弱しない』なんてのは、クラレスのように自死でも図らなければ実感もなかなかできないでしょう。


だからこそ、少佐もおっしゃったのです。


相堂(しょうどう)、君の言いたいことも分かる。私だって自分がただのデータだと言われてもまったく実感がない」


毅然とした態度で諭すように言う少佐に、私は見惚れてしました。本当に、伍長にも見倣ってもらいたいものです。


少佐は続けます。


「レックスも、私達が、現状、『自分が死んでいるという実感がない』という事実については否定していないし、『死んでいることを認めろ』とも言っていないんだ。あくまで、


『この世界で生きていくにあたって心掛けるべきこと』


について触れているだけだと私は感じている。そうだな、レックス?」


理路整然と語る少佐に、十枚(とおまい)アレックスも、冷静に応えたのでした。


「ああ、そうだ。


『何をもって生きているとするか?』


という哲学の話をするつもりは私はない。あくまでも、


『私達が元の世界に戻る術はおそらくない。だからこそこの世界で生きていくにはこれからどうするか?』


という点について考えたいだけなんだ。そして、この世界では、『死ぬ』ということがない。その事実と向き合っていかなければならなくなるだろう。


それを忘れないでほしいと思っているんだ」



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