スローモーション
人間には、自身に理解できないもの、興味が持てないもの、感性に合わないものは見下し、蔑むという、残念な悪癖があることはよく知られていますが、この時の猪人達をそうやって見下す人がいるとしたら、私はとても悲しいと思います。
彼らの<拘り>がいかなるもので、どうしてこの時にはそれが覆ってしまったのかは、彼らにしか分からないことでしょう。それを猪人ではない者が推し量るなど、傲慢以外の何物でもないと私は思うのです。
理由なんかどうでもいい。今はただ、協力が得られたことを感謝したい。
ブオゴの接近に気付いたゴヘノヘが、尻尾で彼を薙ぎ払おうとしました。が、ブオゴは地面すれすれまで屈み、躱します。
何という反射神経と身体能力。分かっていはいましたが、改めて感心させられました。
そして弾かれるようにして体を起こし、尻尾の付け根辺りに杭ごと体当たりするかのように、どすん、と。
「ゴォアアアアーッッ!!」
咆哮を上げながらゴヘノヘが反転、腕を伸ばしブオゴを掴もうとします。
しかし、私達も黙って見ていません。
少佐と共に頭目掛けて槍を投擲、目の辺りに刺さったことで一瞬動きが止まり、ブオゴは離脱することができました。
するとゴヘノヘは今度は私目掛けて大きく口を広げます。
鋭い牙が並んだ、血のような真っ赤な口腔。あれに捕らえられればただの人間でしかない私達など、一秒と生きていられないでしょうね。
全力で離脱しようとするものの、明らかにゴヘノヘの方が早い。
『死―――――!』
スローモーションを思わせる、なぜかゆっくりと感じる世界の中で、私は自身の死を意識しました。
一度はすでに死んだ身ですので、まさか二度も死を経験することになるとは……
ですが、その瞬間、
「スクリーム!」
少佐の声と共に、
「ロロロロロロロロロロローッッ!!
梟人達による再びの音響攻撃。
ゴヘノヘの意識が私に集中したことで、梟人達が足を止められるだけの隙ができたのです。
けれど、私も、頭をガツンと殴られたような感覚に、意識が一瞬遠のきます。
スクリームの効果範囲のすぐ傍だったことで、その影響が。
それでもゴヘノヘの頭が効果範囲の中心だったためそちらの方が威力が大きく、やはり動きが止まり、同時に私の体が宙に浮かびました。
伍長でした。伍長が私を抱え上げて救出を。
「ありがとうございます…!」
さすがに多少のダメージがありすぐに体が上手く動かなかった私は伍長に抱えられて間合いを取れたことでお礼を口にします。
「礼はいい! さっさと回復して力を貸せ!!」
伍長は私を見ることさえなく言い放ち、時間が足りず仕掛けに使えないままに置かれていた杭を拾いゴヘノヘに向かって走ったのでした。




