畏怖
私の側からによる第一射は躱されたものの、反対側にも同様の仕掛けはあります。
「撃って!!」
私は全力でその場を離脱しながら、担当の山猫人に指示を出しました。
山猫人に操作を担当してもらうゆえに安全マージンを確保するためにこちら側よりもやや距離を取っていますが、それでも十分に必殺の威力があるはずの第二射に託します。
なのに、ゴヘノヘは何かを察したのか、尻尾を振り上げて森の中へと叩きつけたのです。
「な…?」
その一撃で、反対側の仕掛けはことごとく破損。まったく出鱈目な方向に射出された杭が一本あっただけで、他は撃ち出されることさえありませんでした。
「くそ……っ!」
思わず漏れる悪態。
間近で見、その能力の片鱗に触れたことで私はさらに容易ならざる相手であることを実感していました。
だからこそ、落とし穴の効果を期待するのです。あの巨体そのものがゴヘノヘにとっての弱点となるはずですから。
なのに……
『そう…! そのまま……!!』
梟人達と山猫人達による攪乱で気を逸らしたゴヘノヘが、落とし穴へと誘導されます。
そして、遂に落とし穴に足を乗せ―――――
「!?」
ませんでした。
私達が乗っても大丈夫ですが、ゴヘノヘが乗れば確実に落ちる落とし穴に足が触れた瞬間、引っ込めたのです。
野性の本能がまたも危険を察知したのでしょうか……?
梟人達や山猫人達が必死に気を逸らし、かつ挑発し、落とし穴へと誘導しようとしているのに、ゴヘノヘは、<道>を避けて木々を強引に押し退けて森に入り、落とし穴を迂回してみせたのでした。
何という……
あの巨体に加え、知能も想定していたよりもずっと高い……
イルカやクジラ以上かもしれません。
「そんな……」
邪魔な木々に苛立ちながらもなんとか潜り抜けて道に戻り、しっかりと地面を踏みしめるともう大丈夫なことを察したのか、ゴヘノヘは私を見ました。
いえ、見たような気がしただけかもしれません。彼への畏怖がそのような錯覚をもたらしただけなのかも。
でも、私にはそう見えてしまったのです。
ゴヘノヘが、私を嘲笑ったかのように……
ああでも、そんなことはどうでもいい。兎人達が懸命に掘り、トームが運んだ資材によって簡易の<橋>を作る要領で構築。私達や獣人達が乗っても崩れることはなく、けれどゴヘノヘの重量には耐え切れず崩壊し、底に仕掛けた<杭>で大きな傷を負わせるはずだった落とし穴を哂われたような気がして……
でも、その時。
「ビアンカ!」
私の耳を打つ声。
一瞬とはいえ呆然自失に陥りかけていた私を引き戻してくれたそれに振り向いた私を包む、たまらない安心感。
少佐でした。少佐がA班と共に駆け付けてくれたのです。
「直ちにプランCに移行! まだ手はある!!」
少佐の指示に、
「はい!!」
私は軍人としての意識を取り戻すことができたのでした。




