私の名前は
「相堂伍長! 勝手な行動は慎んでくださいと何度も申し上げてるはずです!」
私は今日もそう大声を上げてました。
本当は慎みたいんですけど、相堂伍長はいつも勝手をするので私はついつい声が大きくなってしまうんです。
今日、伍長がしようとしていたのは、私達が猪人と仮称している存在との<勝負>でした。
「あ? 男が勝負を挑まれて引っ込んでられるか! すっこんでろ! ビア樽!!」
「誰が<ビア樽>ですか!? 私の名前はビアンカです!! 訂正してください!!」
思わず怒鳴ってしまいました。
なのに伍長はそれを無視して走っていってしまったのです。
「ああもう! 忌々しい!!」
私としてもそう思わずにいられません。
と、失礼しました。
私の名前は、ビアンカ・ラッセ。
イオ方面軍第六十六空間騎兵隊から、第三百十八惑星探査チーム<コーネリアス>の防衛担当として出向していた軍人です。
もっとも、
『本来の私は』
という注釈付きではありますが。
何故そうなるかということについては話が長くなりますので今はさて置かせてください。後ほどまた、機会があれば説明しますので。
今はとにかく、私達が置かれている状況からまず説明いたしましょう。
私達が所属していた、第三百十八惑星探査チーム<コーネリアス>の隊員六十名は、外宇宙探査船<コーネリアス号>で、人間が移住可能な惑星を発見するべく探査を行っていました。
しかし、N8455星団と呼ばれる星団に進入した時、それまでまったく観測もされていなかった<異常>がコーネリアス号を襲ったのです。
それは、空間異常、電磁波異常、重力異常をはじめとした、およそ常識では考えられないようなものでした。
そして船は主機関が破損。航行を続けることができなくなった上にコントロールを失い、進路上にあった惑星の重力に捉えられてしまいました。
幸い、<ブランゲッタ>と呼ばれる重力均衡装置は完全には機能を失ってませんでしたので、何とか不時着はさせられたものの、主機関の損傷は致命的で、修理は不可能でした。
しかも、重力均衡装置であるブランゲッタも出力が上がらず、再びコーネリアス号を宇宙まで飛び立たせることは叶わなくなってしまったという……
けれど、コーネリアス号が不時着したその惑星は、大気の成分も気候も重力も地球と極めて近く、後はウイルスや細菌といったものさえ問題がなければ即移住可能という、<S級物件>と呼ばれる素晴らしいものでした。
なので私達は、救難信号を発信し、救助が駆けつけるまでその惑星でのサバイバルを行うことにしたのです。
こうして始まったサバイバル生活でしたが、何より惑星の環境が私達人間に適したものだった上に、コーネリアス号の生命維持機能の大半が無事だったので、正直、ほとんど<バカンス>と言ってもいいくらいの気楽なものでした。
なにしろ私達自身、もっと過酷な条件化でのサバイバルもこなせるように訓練を積んでいましたから。
でも、その惑星には、とんでもない<罠>が潜んでいたのです。
この時点での私達の装備では対処しきれない、恐ろしい罠が……
……それについても後ほど改めて触れますが、とにかく私達は、私を含む、三十一名がこれによって命を落としたのでした……
…え? 『命を落とした』はずなのにどうして生きてるんだ?ですか?
はい、それがまた非常に奇奇怪怪な話でして……
って、あ…!
「みあああああ~っ!」
すいません。<ノーラ>が呼んでます。なので続きはまた後ほど……!
ノーラに呼ばれた私は、私達の現在の拠点である小屋に戻りました。
するとそこには、白く短い体毛で全身が覆われた<動物>の姿が。
いえ、動物と言っても、全身が体毛に覆われていることと、山羊に良く似た角が生えた頭部を持っている以外は、私達人間とほぼ同じプロポーションを持っているので、果たして<動物>と言い切っていいのかどうか……
私達が<ノーラ>と名付けた彼女は、<山羊人>と仮称している種族の雌で、現在、妊娠しているのです。
どうやら陣痛が始まったらしく、それで思わず私を呼んでしまったのでしょう。
そう、私は今、獣の形質を持ちつつ人間にも似たプロポーションを持つ、いわば<獣人>と一緒に暮らしているのです。




