第五話 幸せのコトバ
それから、毎日は大忙しだった。
城中の者に正体をばらし、グリュンの事を伝える。
そして、溜まっていた仕事を片付けた。
そのままグリュンは客人として留まり続け、ユトは、一週間後に挙式を控える身となった。
『少し、遠乗りをしてきます』
二日後に挙式を控えた日の朝、ユトは単騎で城を出た。
目的地は、都から少し離れた、ある邸。
昼近く。
「迎えに来たよ」
ユトは目の前の少女に言い、
「遅いわよ、バカ」
リムは目の前の少年に言う。
「…言いたい事が、あるんだ」
「何?」
ユトは少し間をおいて言った。
「僕と、結婚して下さい」
「え―――…」
リムの顔が紅く染まる。
「でも、私…王子と…」
やがて、小さな声で途切れ途切れに呟いた。
「大丈夫。…王子は、僕だから」
ユトは平然と答える。
「え!?」
リムは驚いて声を大きくした。
「じゃあ…あの人は?」
質問が口をついて出て来る。
「僕の影武者」
サラリとユトは答えた。
「正体は…まぁ、後で分かるよ」
そこで言葉を切り、リムの顔を見る。
「ところで、返事は?」
「え……」
リムは、また真っ赤になり俯く。
「僕の事…嫌い?」
最初の質問に首を振り、
「じゃあ、僕と結婚してくれる?」
次の質問に肯いた後、
「―――…はい」
真っ赤な顔で答える。
その声はとても小さくて、ユトに届くかも分からなかったが
「良かった…。ありがとう」
ユトには届いたらしく、本当に嬉しそうに笑った。
ドキン。
その笑顔を見、リムの胸が一つ、大きく高鳴る。
思わず、リムは胸を押さえた。
「どうしたの?」
ユトが顔を覗き込む。
「な、何でもない」
真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしく、リムは顔を背ける。
「見せてよ」
「…嫌」
しばらく、二人は、その幸せな時間に浸かっていた。
大分、時が経ち、グリュンの姿を見たリムが話を聞かされ、大変驚いたり、(ユリアの事は“父親が怪我をして一人になってしまった少女”という事になっている)昔、リムが泉で見た事は気のせいじゃなく、真実だったことに気付いて赤面したりするのは、また、後日の話である。