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第四話 二人の王子はちょっぴりお茶目

 その後、ユトの行動は迅速だった。

 一室に、伯爵とその令嬢ユリア、全大臣、公爵、侯爵を集める。

 集まった者達は上座を見、瞠目した。

 何故か、一番上座に護衛官如きがいるのだろうか?

 その次に、自国の王子が大人しく座っているのも謎だ。

 それを見て、ある者は納得したかのように頷き、ある者は安心したかのように溜息をついた。


「さて」

 ユトが口を開く。

「お待ち下さい」

 立ち上がった者が居た。

 見れば、ユリアだ。

「上座は王子が座るべき場所です。一介の護衛官如きが座るべき場所ではありません」

「そうだね」

 その言葉に、ユトはにっこりと笑って答える。

「では、其処をお退きになっ」

「其処までにしておいた方が良いんじゃない?」

ユリアが思わず叫ぼうとし、途中でのんびりとした声がそれを止める。

「何故…!」

 ユリアは、その声を出した人物―――…ラクトの方をきっと睨んだ。

「だって…あの御方が本物だし」

 ラクトは飄々と続ける。次にユトの方を向いた。

「ですよねぇ、ユト様?」

「ああ」

 ユトは頷く。そして

「証拠になるかは分からないが」

 と言って髪を解き、背中を皆に見せる。

 怪しげな顔をしていた皆もやがて納得した。

「では、そちらは…」

 皆の視線がグリュンに集まる。

「私の身代わりをしてくれた従兄弟殿の、サクリシス国第一王子グリュン殿だ。

 ちなみに、私の婚約者リム姫の兄上でもある」

 ユトはにっこり笑ってそう言った。

「皆さんを謀ってしまい申し訳ない」

 グリュンはそう言って軽く頭を下げる。

「「「「いえ」」」」

 皆は恐縮して頭を下げた。

「さて」

 静かになった室内にユトの声が響く。

「これから、本題に入る―――…」


 ごくり。


 誰かが、唾を飲み込んだ。

「内容は、皆さんもお分かりの事と思います。…リム姫の事です」

 ユトは続ける。

「彼女はつい先日、二度ほど命の危機にあいました。

 一度目は、矢が彼女を狙いました。

 その矢は、ちょうど十六本あったのですが、全て、即効性の毒が塗られていました。

 幸い一本も中りませんでしたが…もし当たっていたら今頃姫は…。

 次は、毒でした。

 彼女の夕食に毒が入っていたのです。

 幸い少量しか口にされませんでしたが、それでも彼女は今…」

「おかわいそうに」「まだ、若いのに」

 何処からか、声がする。

「嘘ですわ!」

 その中で、ユリアが叫んだ。

「あの毒は軽いもの…ですから、重病などとは……ありえませんわ!」

「どうして、そんな事を知っているの?」

 ユトは、できるだけ優しく訊く。

「だっ…だって!

 あの方は…ユト様と、結婚できるのですもの。

 だけど、きっとユト様は、第二王妃などいらないと仰りそうで…。

 私は、こんなにもユト様をお慕い申し上げているのに。

 ―――…ずるいですわ!」

 泣き崩れるユリアを他所にユトは部屋を見渡す。

 ざわめいている人々の中、一人だけ平静な人物が居た。

「ライトニス伯爵」

 ユトはその人物に声をかける。

「はい」

 伯爵は緊張したように応答した。 

「私は、一度目の犯人は貴方ではないかと疑っているんです」

 ユトは続ける。

「何を根拠に、そう、疑われるんです」

 伯爵は冷静に返した。

「毒の種類だよ」

 ユトはにっこりと笑う。

「何を仰っているのか…。

 何処にでもある物かもしれないのに」

「どうかな…?」

 ユトは笑顔のままだ。

 伯爵も顔色一つ変えない。

「確か、毒の名前は……何だっけ?

 えっと、…あ、あ、蟻地獄?じゃなくて……。

 えっと……あれ?」

 ユトは困ったように首を傾げる。

「トリカブトでしょう」

 伯爵は呆れたように言った。

 その途端、ユトは満面の笑みになり、グリュンは軽く口笛を吹く。

「語るに落ちたな」

 ラクトが小さく呟いた。

「で、何故、貴方が毒の種類を知っているんです?」

 ユトが笑顔で訊く。

「偶然です」

 伯爵は視線を逸らした。

 顔は青白くなっており、少し、脂汗をかいている。

「どうかされたのですか?顔色が、あまり良くないようですが?」

 ユトは、さも心配そうに訊いた。

「な、なんでもありません」

 伯爵は、少し震える声で答える。

「そうですか」

 ユトは一度言葉を切り、続けた。

「勝手に調べさせていただきました。…すみません。

 そこで、浮上した疑問点が一つ。

 リム姫に射掛けられた毒矢と全く同じ矢と毒が、貴方の部屋から発見されました。

 それも…隠すように。

 これは、いったい……何故ですか?」

 そこまで聞いた伯爵は、突然、床に崩れ落ちた。

 そして、哄笑する。

「あの姫だ。あの姫が悪いのだ。

 あの姫さえ居なくなれば、娘が王子の妻になれる。

 やがて、王子は王になり、妻は后となる。

 そして、その二人の子供が王になった時、祖父、兼、後見人として、私が国を支配する  

 のだ」

 あははははは、わははははは。

 虚ろな表情で笑い続ける伯爵をユトは哀しげに見、告げる。

「牢に連れて行け」

「はっ」

 衛兵が飛んで来て、伯爵を連れてゆく。

「世界を、我が手に!」

 衛兵に連れて行かれながらも、伯爵は笑い続けていた。


 ふぅ。


 それを見届けて、ユトは深いため息をつく。

「あの…」

 小さな声が、下の方でした。

「ん?」

 ユトがその方を向くと、ユリアがこちらを見つめている。

「父と私は…死刑でしょうか?」

 ユリアが小さな声で訊いた。

「それは、ありえないよ」

 ユトは小さく笑う。

(そうだなぁ…)

 少し、考え込んだ。

「伯爵は……宮廷からの追放。

 そして、君は…ユリア殿は…うーん…。

 リム姫の、良き友人になる事、かな?」

「え?」

 その答えに、ユリアは小さく驚きの声を上げる。

「それで…よろしいのですか?」

「うん。それが、君にとっては一番厳しい罰だよね?」

 ユトは頷き、言う。

 そして…。

「じゃあ、先に失礼」

 ユトは、ラクトを伴って部屋を出た。


「王子、あれでは優しすぎませんか?」

 部屋に戻った途端、ラクトが口を開く。

「そうかな?」

 ユトは訊いた。

「いや、一概にそうとも言えないぞ」

 

 ガチャ。


 ドアを開ける音がして、グリュンが部屋に入ってくる。

「プライドが高いライトニス伯爵にとっては、宮廷追放はかなり辛い事だし、その令嬢の

 ユリア殿の場合は、恋敵(ライバル)だったリムの良い友になるというのは難しいか

 らね。でも…」

 そこで含み笑いをし、言葉を切る。そして、心の内で続けた。


 理由を公開しないとしても、ライトニス伯爵が国外追放になった事はすぐ伝わる。

 その場合、ユリア殿は良くも悪くも興味の対象となり、常に好奇の視線を向けられる事になるだろう。

 ところが、王太子妃の友人ともなれば、そこまで手出しができない。

 宮廷内では、その事が彼女自身を守るのに有利にはたらく。


「やはり、お前は優しすぎるよ」


 ポン。


 軽くユトの肩を叩き、グリュンは内心呟く。

 その優しさは、人を救う事もある。…だが、人を追い詰めたり、傷付ける事だってあるのだ。優しさは、まさに諸刃の剣だ。

(それを君は、分かっているのか?)

 もう一度、ユトの肩を叩いて、グリュンは室外へと出て行った。



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