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第三話 貴方は…誰?

 そうして二ヶ月が過ぎた。

 ある日の夜、リムは眠れずフラフラと庭に迷い出た。

 

 ぱしゃ。


 何処かで水音が聞こえた。

「何……?」

 リムは何かに誘われるかの様に、音の発信源に近付いてゆく。

「綺麗…」

 薔薇の垣根を掻き分けて進むと、そこは広場になっていた。

 月の光が降り注ぎ、辺りは優しい銀の光に包まれている。

 まるで、別世界だ。

「え?」

 そして、その光の下にある泉には人が居た。

 月の光に照らされて見えたその顔は……ユトだった。

 ユトは周りを見渡し人の有無を確認すると、髪に手をやる。

 どうやら、暗い所に居たリムには気づかなかったらしい。

 そのまま髪の編みこみを解き始めた。

 ものの数分もしない内に、ユトの髪は元の、真っ直ぐな長い髪に戻る。

(こうして見ると、本当にお兄様やユト様によく似ているわ。

 世界には同じ顔が三人居るというのは本当なのね……)

 リムは、ふと思った。

ユトはそのまま服を脱ぎ、泉の中に入る。

 リムは慌てて目を逸らした。

(え……?)

 ところが、目を離す直前に在りえないものが見えた気がして目を戻す。

(何、で……?)

 ユトの背中に刺青が見えた。月に吠える狼の刺青。

 それを目にしたリムは音を立てない様にしながらも、部屋に急ぐ。

(何で?……何で?ありえない。……これは、夢?)

 あの刺青、あれはカリスト国とサクリシス国の王族男子が刺すことはありえない。

 特別な図柄なのだ。

 例え、影武者であってもあの刺青を刺す事は決してありえない……筈だ。

(なら、実はユトが王子なの?じゃあ、今、王子として紹介されたのが……影武者?)

 頭の中で考えがぐるぐる廻る。

 結局、その日リムは一睡も出来なかった。


「背中を見せて」


その日の朝、部屋にやってきたユトに、開口一番リムが言った。

「は!?」

 ユトは耳にした事が信じられなかった様に呆然とする。

「良い薬を頂いたの。背中の傷、治すから」

 だから、背中を見せて。もう一度、繰り返す。

「ああ」 

 その言葉を聞いて、ユトは納得した様に、頷いた。

「いいです。この位の傷、直ぐ治せます」

 けれども、丁寧に断る。

「遠慮しなくても良いの」

「だから、気にしなくても良いですって」

 揉み合う内に場所は移動され、寝台近くになる。

「あっ」

 ユトは自分の足に躓き、そのまま寝台に倒れこんだ。

「え?」

 自然とリムもその上に倒れこみ、傍目には、リムがユトを襲っているかの様に見える。

 ユトは焦った。

「あの…姫?

失礼ですが、退いて頂けないでしょうか?」

このままだと、目にした女官たちの噂の的になりかねない。

「薬塗るから大人しくしてて」

 リムは無視し、ユトの上着を脱がし始めた。

「外聞が……」

 呟くユトの声も耳に入っていない。


 トントン。


 その時、ノックの音がしてラクトとコクトが扉から顔を出した。

「「失礼しま……した!」」

 二人は寝台の上にいるユトとリムを見ると目を丸くし、慌てて部屋から去っていく。

(あいつら…)

 ユトは内心、助けてくれなかった二人を呪った。

 ……何だか最近、人を内心で呪う事が多い気がする。

「あれ?」

 リムはユトの背中を見て声をあげた。

 ユトの背中に刺青がないのだ。

「どうしました?」

 ユトの声が聞こえた。

「刺青が無…ううん、何でもない」

 思わず、正直に途中まで答えてから否定する。

「そうですか…」

 答えながらも、ユトは冷や汗をかく。

(肌色のファンデーション、念の為に塗っておいて良かった…)

 どうやら、昨日感じた視線はリムだったみたいだ。

(次からは、もっと気をつけよう)

 ユトは固く心に念じた。


 その日の夜、昼の事について三人ラクトとコクトとグリュンにユトが散々からかわれたり、「リム姫が護衛官を襲っていた」などの噂が流れたのは言うまでも無い。

 そうして、皆が平和を満喫していた時に、一つ目の事件が起こった。

 リムに矢が射掛けられたのだ。

「姫!」

 そうして自分を抱え込み、次々向って来る矢を刀で切るユトの姿に、リムは鼓動が高鳴る自分を感じる。

 見た目よりもずっと逞しい腕、合わせた胸から聞こえる相手の速い鼓動。

 二つの鼓動が重なってゆく。

(嘘、でしょ…?)

リムは自分の気持ちに気付いてしまった。

(私は、ユトが……)

 矢の数は全部で十六本だった。

 警告だけじゃなく相手の本気を示すように、矢には全て即効性の毒が塗られていた。

 これなら、掠っただけでも致命傷だ。

 ユトは、厳しい顔で考え込む。


 二つ目の事件は、その、三日後に起こった。

 リムの夕食に毒が入れられていたのだ。

 幸い、毒の量が少量である事から、大事には至らなかった。

 しかし、ユトが気づかず、リムが全て食事を食べていたら危ないところだった。

 ユトは、ラクトやコクト、そしてグリュンと相談し、リムの療養を都から離れた屋敷でする事にした。

 ユトが付いて来ない事を嫌がりながらも、渋々リムは納得する。

 頷いた大きな原因は、

「必ず、早い内に迎えに行くから」

 というユトの言葉かもしれない。


 そして、城からリムの姿が消えた。


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