アヘ顔が出来ないという理由だけで勇者パーティを追放された嫁入り前の女騎士は、オークに弟子入り【アヘ顔】スキルを取得して復讐を誓う!!
「エレナ……出て行ってくれないか?」
「―――!?」
唐突に言い放たれた解雇宣言。
それはあまりに突然で実に不可解な現実だった。
「実はな、新しい女騎士が見付かったんだ」
「な、何を言って―――!」
勇者の後ろに見える見知らぬ女性。剣を携え身形は女騎士だが、どう見ても私より腕っぷしは弱そうである。何より私より強い女騎士がこの世に居るわけが無い……!!
「ハハハ……『何を言って―――!』は此方のセリフだよなぁ?」
ニタニタと嘲笑う勇者の口角と、後ろで静かに佇む女騎士の嫌な感じが在り在りと私を苛立たせる。
「女騎士のクセにアヘ顔すら出来ないポンコツ女騎士さん?」
「クッ……!」
確かに私はアヘ顔が出来なくて幼少の頃より後ろ指を指されてきた!
だから……だからこそ……!
私は並々ならぬ努力で剣の腕前だけは誰にも負けない程の強さを身に付けたのに…………!!
「このご時世剣の腕前だけじゃあダメなんだよ……じゃ、荷物を纏めて一時間後には出てってよ。彼女の荷物が解けないからね……ハハ!」
「クッ……!」
私はあまりの彼の豹変振りに思わず壁に掛けてあった剣を手に取った! 今までの貢献を鑑みてもこの扱いは酷いだろう!?
「あっ……そうそう。コレはファブレーが発案者だ。彼は忙しいからね。伝言を預かっている…………お前との婚約は破棄させてもらう。俺は新しい女騎士と結婚するよ……だってさ!」
「なんだと!!!!」
──カラン……!
気が付けば私の剣は床へと落ちていた。そしてその傍らに頬を伝った大粒の雫がポタポタと零れ落ちてゆく…………。
「婚約者に捨てられて泣くとは……女騎士のクセに情けない奴だ。ンホォォル、アヘ顔の手本を見せてやれ」
「畏まりました……」
ンホォォルと呼ばれた女騎士が私の前へと歩み寄ると―――
「んほぉぉぉぉ!!!!」
その見事なアヘ顔に、私の中で今まで培ってきた女騎士としての在り方が……完全に壊れた。
(ま、負けた…………私には到底出来ないアヘ顔だ……!!)
私は涙が止まぬまま部屋を飛び出した!!
「ハハハ! 負け犬が逃げていくぞ!!」
「んほぉぉぉぉ!!!!」
嘲笑う勇者とアヘり続ける女騎士の声が後ろから聞こえていた…………
―――はたして走り続けてどれ程になっただろうか?
涙はいい加減に涸れ果て、かつて愛を語らった彼との思い出は小さな泉へと放り投げる。冷たい泉の顔で顔を洗い、泉を覗き込む……。
(何と情けない顔だろうな……)
泉に映る自らの顔は、実に窶れており我ながら見ていられない程に醜く情けない顔をしていた…………。
──ニゴッ
無理にアヘろうと試みるが、そこにあるのはお世辞にも『気持ち悪い』としか言えないデーモンスマイル。嗚呼……哀れ。
──カサカサ……
(!?)
泉の反対から音が鳴り、咄嗟に身を潜めた。
(あっちからか……)
コソコソと茂みの奥を覗き込むと、そこには体長三メートルはあろうかと思われる巨大なオークが猫と戯れていた。
(幼き頃に今は亡き母に聞かされたことがあるぞ。オークはその巨体から繰り出される『タネヅケプレス』という体術を駆使して相手を座骨神経痛に追いやると……!!)
「おーよしよし、今猫缶をあげるからな……」
「ニャーン」
──キコキコキコキコ……
オークは『モーニングキャッツ』と書かれた猫缶を缶切りでキコキコと開けている。なんともシュールな光景だが、もしかしたらそれが奴等の作戦かも知れない。油断は禁物だ……。
「ニャーン!」
「もう少しだそ~」
「ニャーン!!」
「待て待てって……」
「ニャー!!!!」
──ガブッ!!
「ひぎぃぃぃぃ!!!!」
「!?」
何と美しいアヘ顔だろうか!?
猫に指を齧られたオークが見せたアヘ顔は、先程の女騎士に負けず劣らずの素晴らしいアヘ顔!!
私は胸の内がジリジリと焦がされる様な焦燥感を覚え、気が付けば身を乗り出してオークへと近付いていた!
「誰だ!?」
「私を弟子にして下さい!!!!」
ジャンピング宙返りからの全力土下座で額を地面へとめり込ませ、私は目の前のオークへと弟子入りを懇願した―――!!
「……剣は持ってないけど、その形はお前女騎士だな?」
「如何にも」
「お前を捉えれば今月の営業成績で俺がトップになる。特別ボーナス確定だな……」
「特別ボーナスは幾らだ?」
「……20万ドルー」
「ならば100万ドルーをポンとくれよう! だから私にアヘ顔を教えてくれ!!」
「……何か事情があるのだな?」
オーク師匠は私の身の上話を退屈な顔もせずキチンと最後まで聞いてくれた。もう行き場も無い私には師匠しか残されていない。私は誠心誠意を込めて師匠へ思いを告げた!
「……分かった。アヘ顔をマスターしてそいつらを見返してやりたいんだな?」
「はい!」
「よし、ならば特訓といこうか!!」
「はい師匠!!!!」
と、言う訳で私はオーク師匠の下でアヘ顔の修得に励むこととなったのだ―――!!
「いいか。アヘ顔とは己の解放。全てを曝け出しありのままを見せることなのだ!」
「はい!!」
師匠が近くに居た猫を抱き抱え、私の鼻先へ猫の肉球を近付けた。
「嗅いでみろ……」
──クンクン……
「……なんか臭いです」
「それが良いんだ!!」
師匠が肉球を自らの鼻先へと近付ける…………
──クンクン……
「んほぉぉぉぉ!!!!」
「!?」
流石は師匠である。その見事なアヘ顔に私は感服した……。
「ニャーン!!」
──ガブッ!!
「ひぎぃぃぃぃ!!!!」
「お見事!!」
鼻を齧られた師匠は、潤んだ瞳で格別のアヘ顔フェイスを見せつけてくれた!!
(やはりアヘ顔は一朝一夕で会得出来る物ではなさそうだな……)
それから私は毎日特訓を重ねた!
しかし、幾ら師匠の下で稽古を積んでもアヘ顔をするには至らなかった…………。
(アヘ顔とは一体なんなのだろうか……?)
思わず哲学的な考えが私の脳裏に過る。
「…………」
──濁ッ
「ニャーッ!」
「ああっ! 猫ちゃん待って!!」
何てことだ。幾ら特訓を積み重ねても猫すら逃げる始末とは……!!
──ドシンッ!
──ドシンッ!!
「な、何だ!?」
地鳴りのような足音と揺れる木々。何か巨大な物が近付いている音が辺りに鳴り響いた!
「サイクロプスが来たぞ! 気を付けろ!!」
「師匠!! 後ろ―――」
──ガシッ!
「ぬ、ぬわーーっ!!」
私が叫ぶや否や茂みの隙間から伸びた巨大な手が師匠の首根っこを鷲掴みにし、高く持ち上がる。
「グオォォォォ!!!!」
茂みの中から現れた体長五メートルはあろうと思われるサイクロプスが突如現れた!!
(幼き頃に今は亡き母に聞かされたことがあるぞ!! サイクロプスはその類い希なる巨躯から繰り出される『エキベンスタイル』という体術を駆使して相手を座骨神経痛に追いやると……!!)
──ブンッ!!
「んほぉっ!!」
地面へと叩きつけられ、それでもなおアヘ顔を忘れない師匠。私は師匠が手荒にされた事に怒りを覚え、落ちていた枝を持ちサイクロプスへと立ち向かった!!
「に、逃げろ!! お前のアヘる相手では無い!!」
「……師匠を置いては逃げません!!」
勢い良くジャンプし、枝をサイクロプスの目へと……思い切り突き立てる!!
「らめぇぇぇぇ!!!!」
サイクロプスは見事にアヘり、目を押さえながら何処かへと逃げ去った……。
「師匠! 大丈夫ですか!?」
「ああ……多分腕の骨が折れた」
「人間には215以上の骨があるんですから、一本位大丈夫です」
「……手厳しいな」
私は師匠の腕を擦り、折れていないことを確認した。
すると師匠はキョトンとした顔で私の顔と手を交互に見つめている。
「どうしましたか、師匠?」
「い、いや……意外と柔らかいんだな……手」
「な! 急に変なこと言わないで下さい師匠!」
突然の事に自分の顔が見る見るうちに赤くなるのが自分でも良く分かる。
「ハハハ。可愛い奴め……!」
「……んほぉ…………」
あまりの恥ずかしさに顔から火が出そうになり変な声が出た。
「おい、今アヘってたぞ!?」
「えっ! 本当ですか師匠!?」
「ああ! だがその顔は奴等に見せるには勿体ないなぁ……」
「?」
私のアヘ顔修行はまだまだ始まったばかりだ!
そして風の噂で聞いたのだが、新しい女騎士を連れて魔王城へ乗り込んだ勇者パーティは、アヘった女騎士を見てブチ切れた魔王により壊滅したらしい…………。
読んで頂きましてありがとうございました!!
『女騎士んほぉぉぉぉ!!!!シリーズ』他にも沢山短編がございますので、宜しければどうぞ宜しくお願い致します!
(*´д`*)