早乙女さんは哭く風に詩を贈りたい
久々に松友さん視点です
「ただ、いまー……?」
「はい、おかえりなさい。ころちゃんも待ってましたよ」
「ゔぅ、喫ころちゃん……ほのかなパンの香り……」
九月も半ばを過ぎて、ドアから流れ込んでくる夜の空気が少しだけ涼しくなってきた。
村崎の一件も落ち着いて、ミオさんも期末関係もどうにかひと段落して。俺の職場である早乙女家にもやっと日常が帰ってきたという感じだ。
とはいえミオさんが忙しいことに変わりはないらしく。キャバリア犬をイメージした茶色い犬のぬいぐるみを吸う雇い主の今日のメンタルは、ざっくり小学校高学年くらいになっている。たぶん。
「どうでした? 今日のお仕事は」
「今日はねー、いつもの部長さんに会ったよー」
「ああ、映画好きの」
「そのひとー」
「なんか久しぶりに聞きましたね」
玄関を上がったところで立ち止まってもらい、スーツをブラッシングしつつ今日の出来事を聴くのもすっかり日課だ。
九月といえば、そろそろブタクサなど秋の花粉が飛び始める時期でもある。ミオさんも俺もまだ平気だが、不用意に暴露していればいつかアレルギー反応が出るかもしれない。
お客さんの中にはすでに反応する人もいるかも、ということで、玄関でスーツについた花粉を落としてもらうことにした次第だ。
「でね、この前、実家がリフォームしたよって言ってたの」
「はいはい」
「そしたらね」
「はい?」
「これ貸してくれた……」
カバンから取り出したのは、おなじみ映画のブルーレイ。
「『地下っと血が血が』?」
「リフォーム工事してたら血塗られた地下室が見つかるんだって」
「その部長さん、サイコパス関係のお仕事とかされてます?」
毎度毎度、映画のチョイスが的確すぎてミオさんの心を抉っているのを自覚しているんだろうか。
「いっしょに観ようね」
「では、週末の昼間に」
「休日出勤はなくさないといけない時代だから、できれば平日がいいかも……」
「……ああそうだ、リフォームといえばですね」
「うん?」
「ご実家から宅配便が届いてましたよ」
「血塗られた地下室?」
「宅配便で送れるんですかね、それ」
「トラックに乗るなら運べる、ってだれか言ってたような」
「少なくとも、今回のはコーディネート丸ごとお届けサイズではないですね」
ミオさんが帰ったら渡そうと思っていた段ボール箱を取り出す。伝票は汚れてしまって読めないが、品名のところだけ『早乙女ミオの雑貨類』と書かれているのがかろうじて分かる。
「けっこう重いね」
「すみません、掃除してる時に伝票を汚してしまって」
「いいよー。で、これなーに?」
「ミオさんの私物らしかったので、俺もまだ開けてません」
「あけてあけて!」
「では」
「なんだろー」
覗き込もうとするミオさんの頭をよけつつガムテープを剥がし、段ボール箱のフタを開く。
「これは……」
中から出てきたのは本やノート、古いおもちゃ類や学用品。どれもかなり古いものばかりだった。
「わたしの、昔使ってたやつだ」
「リフォームの際に出てきたものを送ってくれたんですね」
「わたし、すっぽかしたのに」
村崎が昔トラブった知人と会う。ショックを受けるかもしれないから迎えに来て欲しい。
土屋からそんな連絡を受け、黙っておくのもよくないと思いミオさんに伝えたところ。実家のリフォームに伴う作業を途中ですっぽかして村崎のところに駆けつけたのだった。
置いてきたものはもう捨てられただろうと、諦めていたところに届いたのがこれである。
「そういうこともありますよ」
「それにわたしが大事にしてたのばっかり。他にもいろいろあったのに」
「ご家族がたまたま覚えててくれたのかもしれませんね」
「そんなことあるかなぁ……。二十年とかも昔の話なのに」
いぶかしむミオさんを横目に、俺は中身を出してゆく。古いものだから注意深くしないと壊れたり破れたりしてしまう。
送り主も分かっているようで、中のものはいくつかの包みに分けて梱包されていた。
「こっちの包みは日記帳とかですね。連絡帳に、おこづかい帳に……うん?」
「どうしたの?」
「この『哭き濡れる風に捧ぐ詩』ってミオさんの字で書いてあるノートは?」
「あばばばばばばば」
ミオさん自身も忘れかけていたオリジナル詩集まで丁寧に収められた段ボール。ミオさんのことを昔から見ている人が選び、リフォームから避難させたモノたち。
実際のところ。これの送り主はミオさんの家族じゃない。
匿名希望を貫く彼女から俺に電話があったのは先週末、村崎と土屋が来た翌日のことだった。
――四日前――
「……カレー屋がダイレクトメール送るの、流行ってるのかな」
以前、ダイレクトメールの整理をした時にカレー屋だけで三通くらいあった。はがきタイプのそれが倍以上の八通に増えていて首をかしげたのは、午後二時を回った辺りのこと。
多忙なミオさんに代わってこういう作業も引き受けているものの、最近なにかと立て込んで溜めてしまっており。これはいかんと一念発起して片付けを開始した直後だった。
「あ、違うわ。これ全部同じ店だわ。同じ店がガンガン送ってきてる」
店名やメールの雰囲気が違うから気づかなかった。これ、住所はぜんぶ同じだ。
数日おきに店名などを変えながら送ってきている。スパムか何かだろうか。
「まあいいや。怪しいし行かないどこ」
カレー屋の広告を束にして『さよならボックス』に放り込み、次の山に手を付けようとしたところでスマホが震えだした。
画面に表示された名前に警戒心が湧くも、通話開始ボタンをスライドして耳に当てる。通話が始まると、聞き慣れたくもないけどそろそろ聞き慣れてきた声がした。
「もしもし。今度はなんですか」
『あなたの住所を教えて』
「個人情報の提供はお断りしております」
『……夫に内緒で男と電話してるってだけでご近所が怖いんだから、スピーディに終わらせてくれたっていいじゃない』
「生々しいことを言われても、理由もなく教えられませんよ」
小さく舌打ちが聞こえた気がするのは、たぶん気のせいじゃない。
『あの子の、ミオの荷物をあなた宛に送るから住所を教えてほしい。これでいい?』
電話の主、石島未華子、旧姓・渡瀬未華子。
ミオさんの小学校途中までの親友で、ミオさんが人と関われなくなった原因の人物は、ぶっきらぼうにそう言った。
一昨日の私「よし、更新した。次は明後日やな」
昨日の私「次は明日やな」
今日12時の私「次は明日」←?
今日18時の私「今日やん」←!
休みなのに更新遅くなってごめんな!
感想もいっぱいもらってるから今日中に返します。ここ2週間の感想返しで何回『土屋』って打っただろう。





