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早乙女さんには言えない

村崎きらん視点です

「ひま」


「ひまだ」


「ひまです」


「ひまの人をやってます」


「ひーまーのその暇苦しい」


「ひままままーん…………はぁ」


 暇の言い方にバリエーションをつけるにも限界を感じ、枕元の目覚まし時計に目をやる。ようやく夜の七時を回ったらしい。


 仕事帰りに倒れて病院に担ぎ込まれ、点滴だけ打って家に帰され、ベッドの上で過ごすこと早三日。


 確かに休みは欲しかった。ぬいぐるみや読書に使う時間はとりたいと思っていた。


 でもお金足りない、気力足りない、体力足りない、の三足りんでは何もできない。何もできず寝るのにも飽きた休日が、まさかこんなに長いとは。


 あとできるのは頭を巡らすことくらい。そして頭を絞って出てくるものといえば、テーブルの上でやせ細っているお財布のことばかり。


「二週間を二千三百円で過ごすのって、どうしたらいいんだろ」


 七月には夏用の仕事服を買う必要が生じ、八月にはクーラーが壊れ。そして九月は早々にぬいぐるみの大量購入で資金を失った。


 今は押入れの奥で眠っているアヒルさん達のことがなければ、ようやく余裕ができるはずだったのに。


 どこぞのゴールデンな番組でも月に一万円は使わせてくれた中、私は今その半分での戦いを強いられている。


「お腹すいた……。お肉、おいしかったな」


 そんな現状と、先週末の肉祭りの思い出を比べるとますます気分が暗くなる。


 材料費を払えないから参加しないと言ったところ、土屋先輩が次の給料日まで立て替えてくれた。借金はしたくなかったけど、あれがなければタンパク質不足でそろそろ自食作用(オートミール)が始まっていた頃だろう。


「あれ? オートミールって麦のおかゆだっけ? オートなんだったっけ」


 こんな形でも、やることができたのありがたい。スマホでワードを変えながら検索してみてようやく答えが分かった。


 自食作用(オートファジー)だ。


「便利な時代だなー」


 これだけの情報に誰でもアクセスできる。改めて考えるとすごいことだ。


「……便利な時代だな」


 改めて考えて結論を出してしまったせいで、また考えることがなくなってしまった。


 時刻は七時。ミオさんはそろそろ帰っている頃かもしれない。土屋先輩は残業中だろうか。


「どうしよう、かな」


 お金のことも考えないとなると、あとはひとつしかない。考えないようにしていた、考えなくとも生きてはいける、でも逃げたくはないこと。


「ミオさんに、相談……ぶぇ!?」


 私にとって姉のような妹のような人。賢いあの人なら何か助言をくれるんじゃないかと、チャット画面を眺めていたらその人からメッセージが届いて変な声が出た。




ミオさん:

きらんちゃん、ご飯は食べれてるかしら?

松友さんが秋らしいものを作ってくれたから、写真でおすそ分けします




 そんなメッセージを添えて送られてきた写真には、色とりどりのお皿が並ぶ食卓が写っている。栗ご飯と、ナスのお味噌汁と、それと。


「サンマ……」


 なるほど秋の味覚の代表選手だ。うちのお母さんが焼いたのは銀色でテカテカした感じだったけど、写真のサンマはグルメ雑誌みたいに焦げ目がついている。何かコツがあるんだろうか。


 とりあえず返信せねばと、画面に指を滑らせる。




自分:

ありがとうございます




「……おいしそうですね、くらい言えばよかったかな」


 はらわたが苦手で、実はあまり好きじゃないけど。


「でも、そうか。ミオさんは松友先輩とお食事中か」


 水を差すのはよくない。


 今になって思えば、初対面の時はずいぶんとやらかした。「デート中でしたらすみません。すぐ帰りますのでお構いなく」ってなんだ。


「あれをまたやるのはダメだ……」


 しかしそうなると、相談できる人はいない。


 いや、相談しさえすれば乗ってくれそうな人はひとりいるが。


「……土屋先輩」


 チャット画面を切り替える。


 絵文字やスタンプが混ざるミオさんとは対照的な、短いやりとりが並ぶ会話履歴。


「どこいる?」

「つきました」


「申し訳有りません、道に迷いました」

「すまんこっちは寝坊した」


「いいパン屋教えてくれ」

「チャートにしました」


「台風で電車が止まりましたので遅れます」

「早く帰れ」


 こんなのばかりのところに、悩みの相談を差し込むのは果たして有りなのか無しなのか。こういうの、普通の人ならすぐ分かるんだろうか。


「…………」




自分:

失礼します。ご相談したいことがありご連絡差し上げました。




「……これビジネスメールの書き方だ」


 松友先輩が教育担当だった頃に何度も直されて、文章が体に染み付いてしまっている。しかし送ってしまったものは仕方ないので構わず続ける。




自分:

先輩は、昔の友人にされたことが忘れられなかったりすること、ありますか




 残業中なら返事にはしばらくかかるだろう。待っている間に何をしたものかと思ったら、すぐに既読がついた。




土屋遥斗:

『資本主義ドッグ』のことか?




「ッ!」


 予想外の返答に、フリック入力の指が止まる。


 でも、予想外ではあっても想定の外じゃなかった。土屋先輩が検索上手なのは会社でも何度も見ているから。




自分:

検索されましたか?




土屋遥斗:

詮索する気はなかったんだが、あのカモタウロスを作ったってサークルで調べたらすぐだった。

村崎なんだな? サークル『紫工房』の主ってのは。




自分:

はい。

カモタウロスは、私が作りました。




土屋遥斗:

やっぱりか。

そんで資本主義ドッグはサークルのメンバー?




自分:

はい。使っているアイコンが同じなので間違いないかと




紫工房(むらさきこうぼう)』。改めて呼ばれると少し恥ずかしい、私が代表に担ぎ上げられていた手芸サークルだ。


 大学一年生の頃に仲間と立ち上げ、はじめは文化祭で作品を売るくらいだったのが、三年生になる頃にはクリエイター向けのイベントに呼ばれるまでになった。


 今になって思えばすべて彼女の、資本主義ドッグの計画通りだったのだろう。




土屋遥斗:

SNSの書き込みを見た感じ、そっちの界隈じゃそこそこ名前は通ってたぽいな




自分:

ファンと言ってくださる方は何人かいました




土屋遥斗:

作ったもんがフリマアプリで何倍も高く転売されるくらいだしな




自分:

そうみたいです。私個人はあまり気にしていませんでしたが




土屋遥斗:

ネットの情報じゃ、その辺の事情はざっくりとしか分からん

詳しく聞かせてもらえるか




自分:

構いませんが、聞いていかがされるんですか




「話せば楽になる、ってことなのかな」


 過去の友人の裏切り。ミオさんは、小学校の頃の親友に裏切られて人が信じられなくなったと聞いた。それを変えたのが松友先輩だとも。


 そんな松友先輩に相談しなかったのは返ってくる答えが分かるからだ。過去の友人をどうするかといえば、どうもしない。今の交友関係を深める方が大事だと、そういうことを言ってくれるだろう。


 もしかしたらそのままミオさんの家に呼んで、お菓子でも出してくれるかもしれない。期待のしすぎかもしれないけどそういう人だと思う。


 土屋先輩はどうだろう。あの二人は似てるところもある気がするし、同じ感じのことを言うのだろうか。


「……え?」




土屋遥斗:

許すべきかどうか考える




自分:

許すべき、というと?


 


土屋遥斗:

時間が経とうが、どう言い訳しようが、やったことはやったんだろ

許すかどうかはこっちが決める。それが筋だ




自分:

そうなんでしょうか




土屋遥斗:

それで、大学時代に何があった?

差し支えない範囲でいいから言ってみろ




自分:

分かりました




 始まりは、大学入学と本当に同時。


 五年前の四月だった。

「ハッピーバースデートゥーミー」


「ハッピーバースデートゥーミー」


「ハッピーバースデーディア俺ー」


「ハッピーバースデートゥーミー」


「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」


――以上が昨夜0時すぎの黄波戸井ショウリ宅の様子である。




気分が上がるかなと歌ってみたら余計にさみしい。割とガチでつらい。

本編がちょっとシリアスな感じなのにこんなん差し込んでごめん。


とりあえず本日9/6が誕生日でした。今後1年もよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] あとがきが某紫の決戦兵器のTV版最終回に見えた。
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