早乙女さんはまとめたい
家族会議である。
居間のちゃぶ台に定員オーバーぎみに集まった松友家+ミオさんの議題はひとつ。
『うちの裕夏を、どこの馬の骨ともしれぬ男に渡してよいものか』だ。
ドームから帰宅したばかりの松友家は、生ぬるい空気に包まれている。
「あのー……?」
「なんでしょう、ミオさん」
「あらあら、麦茶がぬるくなりましたか?」
「そうではなく」
重いのか軽いのか分からない空気の中、最初におずおずと挙手したのはミオさんだった。
「なんで私までここに……?」
「ミオさんと買いに行った化粧品の効果かもしれないので、オブザーバーとしてご参加いただきました」
「な、なるほど」
「まさか買って二日で効果が出るなんてねー。いやー、東京の美人が教えただけでこうも違うのかと」
千裕姉も珍しく神妙な顔をしている。本当にミオさんと選んだ香水が効いたのなら、効果てきめんにも程がある。
さすがは世界と戦う女と言わざるを得ないだろう。
「それで裕夏。相手の男の子はどんな人なんだ?」
「言わん」
「ふむ、黙秘か」
まあ、そう来るだろう。ここまでも相手に関する情報はほとんど吐いていない。
「まあまあいいじゃない。裕夏だって花の女子高生よ? 浮いた話のひとつやふたつあった方がハクもつくっていうかさ」
「俺だって別に反対はしてない。むしろ裕夏も人生経験になるだろうし賛成よりというかで……」
「そうよねぇ。せっかく自由恋愛の時代なんですもの。ねぇ、おじいちゃん」
「……俺からはなんも言わん」
電話交換手に初手プロポーズを決めた男、何も言えず。
というか一番はしゃいでるのこの人だろう。
部屋のすみにペアルックが入ったビニール袋があることは、誰もが見てみぬふりをしている。
「あのー……」
「なんでしょう、ミオさん」
「お菓子のおかわりならご遠慮なさらないでね? 南蛮○来がありますよ?」
「そうではなく」
ひと通りの発言が出揃ったところで、またミオさんが手を挙げた。
そう、会議というのは意見を出すだけではまとまらない。それらをすり合わせ、結論を出すのが最終的な目的だ。そこに参加者の力量が出ると言ってもいい。
敏腕マーケターの手腕が見られるのかと家族の注目が集まる中、ミオさんは口を開いた。
「これ、反対なしの満場一致なのでは……?」
「あ」
家族会議、終了。
「早かったわね」
「お夕飯にしましょうか。早乙女さん、おそうめんとひやむぎ、どちらがお好きかしら?」
「ばあちゃん、もう少し選択の幅を広くとってやれないか」
「あの、私にはお構いなく……」
「まだ裕夏がどげんするつもりか、聞いとらん」
何も言わない。
そう言ったはずの祖父・裕蔵が、解散ムードの中でおもむろに口を開いた。
「じいちゃん……」
「うむ」
「意外と恋バナ好きだよな」
「やめんか」
誰もが気になりつつも、そこはまた次回という空気になりつつあるのをスルーしての混ぜ返し。さすがだ。
「そりゃ裕二、初手プロポーズからの家柄違いの大恋愛からの名家を相手の大立回りで結婚しちゃう人だから」
「それ、半分くらいはばあちゃんのせいな気がする」
「あらやだ、はずかしい」
じいちゃんの方が千倍恥ずかしそうだ。
「それで裕夏、向こうはなんか言ってきた? あんたどう返事したの?」
ここぞとばかりに食いつく千裕姉に、裕夏は目を合わせようとしない。
「べ、別に? 『こんにちはー』『よろしくー』みたいな?」
「また会おう、みたいなことは言われてないの?」
「い、言われとらん!」
「大変よ、うちの妹がデートに誘われたわ」
「なして!?」
「ホテリエに男女の隠し事ができるとは思わないことね」
「姉ちゃん、手加減って知ってるか?」
というか。
「姉ちゃんの勤め先、普通のビジネスホテルじゃなかったか? なんで男女の機微に鋭くなってんだ」
「ビジネスホテルで男女の逢瀬がないと思ってるなんて、裕二もまだまだ子供ね」
俺の隣でミオさん(二十八歳)が「そうなの!?」という顔をしている。
「で、どこデート? 初めてなら無難に映画か水族館にしとくほうがいいわよ?」
「デートやないって! 向こうもお盆で来とって、金曜には帰るけん、その前に会って話したかって」
青春だ。
青春が目の前で服着てしゃべってる。
「さすが、おばあちゃんの血ねー。男を射止める早さが違うわ」
「私も生まれるのが五十年遅かったら、こんな感じだったのかしらねぇ」
「おい、ばあさん」
「あら、そうね。それだとおじいちゃんと結婚できないわね。それは困るわぁ」
完全に遊んでるな、ばあちゃん。
「で、完全に告白される流れだけど、裕夏的にはどうしたいの?」
そしてこっちは根も葉も掘り起こす気だな、千裕姉。
「い、いやー、もしそうでも断ろうかなっていうか。断らざるをえないっていうか」
「脈なしかー。御愁傷様」
「気にいらないとこでもあったのか?」
「ちょーっと、まだ早いかなっていうか」
「高校生にもなって何言ってんの」
「え? あ、そやね、そうなんやけどね……」
ふむ。
思えば、子供っぽいキャラでここまで生きてきた裕夏だ。いきなり恋愛戦線の最前線に立たされて、戸惑いが勝つのも無理はない。
「まあ、裕夏には裕夏のペースがある。無理に背伸びすることもないだろ」
「背伸びっていうか……うん」
言い淀む裕夏に、ばあちゃんも新聞を広げて心配そうな顔をしている。
「それに金曜って言ったかしら? 台風が来るかもしれないって予報だし、出かけるのは危ないんじゃないかしら」
「これはもう、会いに行かない方が相手のためでもあるかもねー。下手に恨まれたりしても怖いし」
「ならん」
「じいちゃん?」
千裕姉の現実的な意見に、黙って聞いていたじいちゃんがノーを突きつけた。
「告白は男にとっても一大決心。断るのは自由やが、軽く扱うような娘に育てた覚えはなか」
「じいちゃん……」
「うむ」
「電話の相手に即プロポーズ決めた男が言っても説得力に欠けると思う」
「やめんか」
とは言いつつも、じいちゃんの言葉には俺も同意だ。
「まあ、聞くだけ聞いてやればいいさ」
「う、うん」
「心配なら俺が影から見ておくから」
「それはやめて」
「いや、邪魔はしないって」
「ついてきたらもう一生口きかん」
一生。一生ときたか。
昔はにーちゃんにーちゃんって俺の後をついてきたというのに。
「……ミオさん」
「なにー? あ、いえ、何かしら裕二さん」
「これが妹の現実です」
「そ、そっか」
妹よ、大人になったな……。
昨日、英語の文献を読もうとして「み、微塵も読めねえ!」となり、生化学系の友人から寝不足で脳がダメージを負っている可能性を指摘されたのでさすがに早く寝ました。
そして今日。今度こそ読めるやろと、同じ文献を開いたら英語じゃなくてスペイン語でした(マジ話)
チョリソーとかおいしいですよね。今日も早めに寝ます。





