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早乙女さんは助けになり隊

「あれ? 今のお話にサボテンって出てきましたっけ?」


 物置へ向かう松友さんを見送り、私は花壇を埋め尽くすサボテンに視線を戻した。


 そもそものきっかけだった針山地獄は、少し傾き出した陽を浴びて影を伸ばしている。何かと最短ルートな過去話だったけれど、肝心のサボテンはまだ出ていない。


「あのサボテンはね、息子へのプレゼントだったの」


 おばあ様の息子さん、ということは。


「裕二さんのお父様?」


「そうよー? 何しろ家出同然で結婚したものだからお金がなくって。私が向こうの通りのお花屋で値切りに値切り倒して、どうにか予算内で収めたんだから」


「そう、なんですか」


「おじいちゃんったら、自分の稼ぎが少ないせいだからって拗ねちゃって。『そげにこすかこと、せんでよか!』なんて怒鳴るのよ? 昔からあの人は変なところでデリケートなんだから」


「ご苦労されたんですね」


「愛があればなんでも平気だ、なんて歌もあるけど、苦労なんてしないに越したことはないわよねぇ。求婚のときといい、こっちは振り回されっぱなしだわ」


 クスクス笑いながらここまで仔細に語れるほど思い出深い、息子さんへのプレゼント。


 息子の形見、ということになる。今となっては。


 改めて花壇に目をやって、「サボテンは育てていると脇から小さいサボテンが生えてくる。花壇のはそれが増えたものだ」と松友さんが言っていたのを思い出す。


「じゃあ、花壇に最初に植えたっていう最初のひと株は」


 もっと言うなら、松友さんが育てているテンノスケは。


「息子が死んだ頃に生えてきた小さいサボテンを、どうしても捨てられなくって。悩んでいたら裕二が植え替えてくれたのよ」


「……そんな大事なものだったなんて、私知りませんでした」


 松友さんはテンノスケを私の家に連れてきてくれたことがある。


 きらんちゃんに持たせてあげればと、私が軽い気持ちで言ったから。それが両親の形見だなんてひと言も言わずに。


「ねえ、早乙女さん」


「なんでしょう?」


「裕二は、あなたにとって優しい男でいられているかしら」


「はい、とても」


 はっきりと答える。


「じゃあ、あなたにとって近しい男でいてあげられている?」


「近しい、ですか?」


「おじいちゃんは私と離れていると思っていたけど、実は近くにいた。それに気づかなかったら、きっと今ごろこうしてはいないと思うの」


「それは、そうかもしれません」


 言葉の意図が分からず、小首を傾げつつ相槌を打つことしかできない。


「ああ、深い意味なんてないのだけど。ただ、あなたと裕二を見ていてちょっと気になって」


「何がでしょう?」


「逆にどんなに近くにいても、きちんと相手を見ていないと関係は続かないわ。それが近しい、ということだと思うの。裕二は、あなたにとって近しい男ですか?」


「それは」


 分からない。


 それは松友さんがどうだから、ではない。私が松友さんのことを見ていなかったからだと思う。


「もしあなたが裕二のことを憎からず思ってくれているのなら、あの子のことを見てあげてほしいの。あの子にはそういう(ひと)が必要だと思うから」


「必要、ですか?」


「あの子は他人のことばかり見て、自分のことは見ない子だから。あなたと裕二がどんな関係なのかは分からないけど、あなたが裕二を見てくれるならこんなに心強いことはないわ」


 ごめん、松友さん。


『どんな関係なのかは分からない』って言われた。


 おばあ様にも、私がニセ彼女だってバレてたみたい。


「……私はそんなに信頼されるほど立派な人間では」


「千裕や裕夏は付き合う相手を選べる子たちよ。あの子たちがあなたを信頼したから、私もあなたを信頼します」


 私の手に、おばあ様のしわくちゃの手が重なった。


 この人は、私を過大評価している。今の私は他人と触れ合うための仮面のようなものだ。


 それでも。


「私に、できる範囲でしたら」


「ありがとう」


 そう言って、おばあ様はいっそう目を細めた。


 私がどんな顔でそれに答えたのか、満足してもらえるものだったのか、自分でははっきりとは分からない。


 分からないけれど、おばあ様は笑顔で私の手を離してくれた。


「さて、そろそろ行ってあげないといけないわね」


 よっこいしょ、と座布団から立ち上がる。


 何がそろそろなのか、さっきまで私の手を握っていた手で割烹着の袖をまくっている。


「行ってあげる?」


「だってこんなお話、裕二のいるところじゃできないじゃない」


「それは、まあ」


 自分の親が、自分のことを彼女に頼んでいるところに居合わせるのは気まずいだろう。


 しかもニセだし。


「だから、おじいちゃんの釣具が物置にあるなんて言ってしまったのだけど……」


「それ、嘘だったんですか?」


「やぁねぇ、頭脳プレエって言って頂戴(ちょうだい)な」


「頭脳プレエ」


 プレイでなくプレエな辺りがノスタルジックだ。色んな意味でものは言いようである。


「そうそう頭脳プレエ。それにしてはちょっと危なすぎたかもしれなくって」


「えっ?」


「裕二か千裕から聞いたかしら? うちってもともと、四人分のお布団を敷くので精一杯だったのよ」


「それは伺いました。裕二さんのぶんを敷くためのスペースを、後からどうにか作ったって」


 いけない。その四文字が私の脳内に浮かぶ。


 スペースを空ける方法は大きくふたつ。


 ものを減らすか、どこかに移動するか。そしてこの家の状況を見る限り、どちらの方法がとられたのかはだいたい分かる。


 後者。ものをどこかへやった、だ。


「その時になおしたものだけどね」


「はい」


「物置にめいっぱい詰め込んであるのよ」


「急ぎましょう、おばあ様。切実に。迅速に」


 人ひとりが寝るのに必要なスペースは意外に広い。


 それだけの空間を開けたとなれば。その行き先が一般家庭サイズの物置であれば。


 事態の深刻さをようやく理解した私が立ち上がったのと、勝手口の方から轟音が響いたのはほぼ同時だった。




“ズガン!!!”




 家が、揺れた。


「あらー、遅かったかしら」


「なんだか総火演みたいな音がしましたけど!?」


 ズガンって。にしてもズガンって。


 ガラガラとか、ゴロゴロとか、ドンガラガッシャンとか。物置から物が崩れてくる時のイメージとはかけ離れている。


「西方沖地震を思い出すわぁ。あの時もすごい音がしたんだから」


 おばあ様は懐かしそうに、きっと平成十七年に起きたその地震で入ったのであろう土壁のヒビを見上げている。


「あの、そのお話はお夕食の時にでも」


「ああでも、東日本大震災の時は東京もすごかったのかしら。裕二に聞いたわよ? 関東は今でもしょっちゅう揺れるんですってね。食器棚とかちゃんと固定してらっしゃる?」


「それもお夕食の時にゆっくりお話ししますから!」


 要救助者二名。


 箱とか脚立とか予備のちゃぶ台とか、ほっそりした焼き物のお人形――博多人形という伝統工芸品だとお夕食の時に聞いた――とか。


「うわ、ウチが小学校で描いたにーちゃんの似顔絵、こんなとこにあったん」


「へー、よく似とうやん。壁に飾る?」


「姉妹ー? 過去の絵よりも今の埋もれてる俺を見てくれんやー?」


「じいちゃんもおるぞ……」


「あばばばば」


「あらあら」


 色んなものに埋もれた松友さんとおじい様を救助するのに、駆けつけた裕夏ちゃんと千裕さんを加えた四人の救助隊でも二十分かかった。




 さっきは「おじいちゃんには振り回されっぱなし」だと言っていたけども。笑いながら言っていたけれども。


 おばあ様、たぶんあなたの方が振り回していると、糸島市一〇万人がそう言うと思います。

みんなが感想やTwitterでスキャラッパ言ってくれたからグーグルのスキャラッパ検索結果が9件まで増えてた。面白いけどどうしよう、コレ。


更新が不安定ですみません。

公私ともにいろんなことが重なってしまいまして。もろもろ片付いたら、また定時の更新に戻せると思います。しばしお待ちいただければ幸いです。


宮本武蔵、刑部姫、カーミラ推しの方、水着実装おめでとう。

水着沖田さんどこ……

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