閑話:村崎さんは付き合ってほしい
「土屋先輩、私と付き合ってください」
「なんや村崎、買い物か? 飯か?」
「ボードゲームです」
昼休みの事務所。
隣でコンビニ弁当を二段重ねにしている先輩に、私は明日の日曜の予定を聞いてみていた。
斜向いのデスクの大山さんがなぜかすごい顔でこちらを見てくる。ボードゲームがお好きなんだろうか。
「なんや急に。ボードゲーム?」
「この前、ミオさんたちとウノ大会をしたじゃないですか」
「……ああ、あったな」
土屋先輩が、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
苦虫を噛み潰す。この慣用句の使いどころに出会ったのはこれが初めてかもしれない。
「私も勝てはしましたけど、勝率で見ればあまりよくなかったんです」
「知っとる。よおーーーーく知っとるぞ。十七時間やって一勝やしな。このソシャゲでSSRば引く確率より低かけんな」
お弁当を食べながら熱心にスマホを見つめていると思ったらソーシャルゲームをしていたみたいだ。
画面には「逃げるな」と打ち込まれたチャット欄が見える。何から逃げるななのかは見えないが、なにやら忙しそうだ。
邪魔してしまうのも申し訳ないので、手短に済ませよう。
「この前に海に行った時には成長を見せられたとは思うんですが、やはりまだ勝てているとは言えません」
「徹夜で一勝やしな」
「これはウノ以外のゲームに活路を見出した方がよいのではないかと思いまして。いろいろ試せば得意なものもあるだろうと、いくつか買い揃えました」
「ほう」
「よければ明日の日曜、うちに来ませんか」
それはいいが、と返事をしつつ、土屋先輩は何やら考え込んでいる。
「日曜スタートやと日付ば変わる前に帰れん気がする。泥沼化して」
「そんなことは」
あるかもしれない。
「今夜から始めるか?」
「すみません、今夜はちょっと親が来る予定になってまして」
「ああ、親御さんおるんやったらよか。邪魔したらいけんわ」
「すみません」
「タイマーつけてやろうな」
参加したいんだろうか、斜向いの大山さんが狐につままれたような顔でこちらを見ている。
狐につままれたような。この慣用句の使いどころに出会ったのも初めてかもしれない。
一応お誘いしてみたけど断られた。なんだったのだろう。
「おはようございます、先輩」
「おう。これ、手土産」
「え、わざわざありがとうござ……福神漬け?」
「なんか、近所に新しくできたカレー屋行ったらちかっぱもらったっちゃん」
「ちかっぱ?」
「すごく、とか、いっぱい、って意味な。家にこの倍くらいあって食いきれんから引き取ってくれ」
カレー屋で福神漬を配るというのもなかなか謎だ。家でカレーされたら店が潰れるのに。
とりあえず二十回はカレーできそうな量の福神漬を冷蔵庫にしまい、ゲームを用意した部屋へ先輩を通す。
「今日はお集まりいただきありがとうございます。本日の趣旨としましては」
「カット」
「……こちらが今日のゲームです」
三種類買ってあるが、まずはひとつを取り出す。
地図、カード、コマが収まった、ノートパソコンほどの大きさの箱だ。
「『新宿悪霊事件』か」
「ご存知ですか?」
「いんや、初見」
「これはいわゆる陣取り合戦です。ネクロマンサーチームとヤクザチームに分かれて新宿の覇権を競います」
新宿の民をアンデッドに変えて支配しようとするネクロマンサーたちと、縄張り荒らしを許さないヤクザたちの抗争をモチーフにしたゲームだ。
「……説明されてもよく分からん世界観やな」
「こういうのは百聞は一見にしかずですよ」
百聞は一見にしかず。この慣用句、実際に使えたの初めてかもしれない。
「ま、いっぺんやってみっか。村崎、先に選んでよかぞ」
「では、私はネクロマンサーのルーシーで」
「ならオレはヤクザの稲葉……いや、宇佐田組で」
説明書に従ってコマを地図に並べたら、準備完了だ。
「さあ、ゲームを始めましょう」
こうして、私の得意なゲームを探す試みが始まった。
三十分後。
「『弾除けの加護』カードを使い、歌舞伎町エリアに侵攻します。これでヤクザの鉛玉は通じません」
「ふむ。なら『コンビニ』カードを使って迎撃しちゃる」
「ふふ、お店屋さん系のカードは『そこに当たり前に置いてるもの』しか使えないんですよ先輩。
ゾンビをスティックのりで固定して週刊誌で叩けば倒せるとでも?」
「電子レンジにゾンビの頭を突っ込んで」
「え?」
「温め、よろしくぅ!」
「く、クレーム! 電子レンジは扉を閉めないと温められません!」
「扉をブチ破って頭を突っ込んだに決まっとるやん」
「うぐ」
「ほい、これでアンデッド軍団は全滅なー」
初めは半々で占拠していたはずの新宿は、今やヤクザ側を示す黒のコマで埋め尽くされていた。
ネクロマンサー領を示す緑は、地図の脇に無造作に積み上げられている。
「……あの、ゲームの箱にはプレイ時間は一時間~って書いてあるんですけど」
「三十分でケリついたな」
「表記ミスでしょうか」
「どやろな。それより対象年齢は?」
「十五歳からです」
アンデッドにヤクザという題材のせいだろう。やや高めの設定だ。
「それやろ」
「はい?」
「小学生がやっても勝てんってことやろ」
「……? とりあえず、もう一戦お願いします」
十分後、次のゲーム中に私が小学生なみの身長と言われたのだと気づいた。
とりあえず、クッションを投げつけておいた。
「なあ村崎」
「はい」
「楽しいか?」
「はい、なかなか奥深くて楽しいです」
「そうか、そら何よりやな」
ゲーム大会を開始して半日がたった今、十ゲームめが決着したところだ。
全て土屋先輩の勝ちなのはまあ、そういうこともあるだろう。
「でもなかなか一時間越えのゲームになりませんね。やはり表記の間違いでは?」
「……村崎、せっかくやし他のゲームにせんや? な?」
「そうですか?」
先輩は飽きてしまったのか、横に積んであるゲームの方に視線を向けている。
たしかに時間が限られているのも事実。次に行く頃合いだろう。
「あとふたつあるんですけど、どちらからやりますか?」
「なんてやつ?」
「ひとつめは『カワゴエ上陸作戦』です」
埼玉県川越市を舞台に、ネクロマンサーのアビゲイルと自衛隊が戦いを繰り広げる陣取り合戦だ。
「ふたつめは『陰陽巫女vs鉄の塊』です」
不思議な里に住む巫女さんが、異世界からやってきた黄金色の鉄の騎士と森の土地を奪い合う陣取り合戦だ。
「村崎、陣取り合戦好きなん?」
「割と」
「そうかー、どれも陣取り合戦でゲーム性も似た感じっぽいなー。バ カ タ レ」
今、バカって言われた気がする。
「バカタレにもほどがあるやろお前」
気のせいじゃない。やっぱり言われてる。
「ちょっと、い、いくら先輩でも言っていいことと悪いことがありますよ!?」
「なしておんなじようなんばっか揃えとうとか! 一個弱けりゃ全部弱かろうもんこんなん!」
「はっ」
その発想はなかった。
「自分のバカタレ加減が分かったか村崎」
「また言った……。で、でもほら、三度目の正直といいますし」
「二度あることは三度あるともいう」
「つまりやってみないと分からないってことですよ。張り切って行きましょう、先輩!」
「仏の顔も三度までって知っとうや?」
三度目の正直、二度あることは三度ある、仏の顔も三度まで。
メジャーだけど実生活ではあまり聞かない慣用句だ。使いどころに出会ったのは初めてかもしれない。
とりあえず実証しましょうということになり、夜十時にタイマーがなるまでひたすらプレイした。
一回だけ勝てて嬉しかった。
感想返しが遅れており申し訳ありません。全てしっかり読ませていただいております。
週末を使ってお返しします。
※登場するゲームは全て創作です
※隣のお姉さんやちんちくりん後輩と遊べるなら正直なんでもいい
好きなゲームはキャット&チョコレートです。





