土屋さんは動く
思考が泥沼にハマっているのではないか、と松友さんに心配されている土屋さん視点です
言うぞ。
「あー、えー、村崎」
「なんでしょう」
言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ。
「コクチョウがおるな」
「こっちに泳いできましたね。カモにつられたんでしょうか」
今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ今日こそ言うぞ。
「『黒い白鳥を探すようなものだ』って例え話を葬り去った鳥やな」
「小学校の図書室で読んだ記憶があります」
「オレも」
「なるほど」
まずは流れ作りからいやいや正面突破こそ男の本懐だが戦いであるからには勝つことも大事なわけでそもそも村崎の性格からして唐突に言っても斜め上の理解をしかねないからここは丁寧かつ迅速かつ単刀直入にいく必要があるわけで台詞としては読書家の村崎向けに文豪にならって月が綺麗ですねとかそういう……。
「む、村崎!」
「なんでしょう?」
「月が
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン!!!!
!?」
「あ、カモ……コクチョウ……」
「いやカモよりもな!? 今の音はアレやろ!」
「そ、そうでした」
昼間の公園に突然響いた大音量。サイレンの類でないことはすぐに分かった。子供の時分に学校で配られて、学校で即鳴らして校長室に呼び出された卵型のあのアイテム。
「防犯ブザーか!」
「おそらくは」
反射的に周囲を見渡し、通り魔だとかの凶悪事件ではとりあえずないようで胸をなでおろす。実際、少し驚いただけで気にせず歩いている大人が大半だ。
なら子供がふざけてないしは間違って鳴らしてしまったのかとも思ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「村崎、ちょっとそこおれ」
「分かりました」
池を離れて遊具とベンチの並ぶエリアへ走る。砂場の近くに、子供を抱きかかえた若い女性がオロオロと周りを見回しているのが見えた。おそらく、あれがブザーを鳴らした子供と母親だ。
「今の、おたくさん?」
「は、はい!」
正解。母親のひどい慌て方からして、間違って鳴らしたとかそういう感じでもなさそうだ。
「どげんされました?」
「あの、今、うちの子が、女の人に声をかけられまして」
「女?」
このご時世とはいえ、公園でそんなに珍しいことだろうか。防犯ブザーまで鳴らすのは大げさなんじゃ。
「サングラスにマスクの女が、『お金あげるからカモにパンあげない?』って言ってきたって!!」
「サングラスにマスク」
「はい」
「お金あげるからカモにパン」
「はい!」
その手の分野に詳しいわけじゃないが、そんなことする人間など一種類しか思い浮かばない。
「……誘拐犯やんけ!!!」
「は、はい!」
「そいつはどこ行ったん!?」
「私が子供のとこに駆け寄った時にはもう……」
「おれがね! おいかえした!!」
「おうおう、強かったなー、坊主」
幸いにして子供に怪我はなく、怖がるどころか犯人を撃退したとふれてまわっている。少し話を聞いてみるに、女はブザーを鳴らすと慌てて走り去ったようだ。
「警察を呼んだ方がいいでしょうか……?」
「念のためな……。そこに交番ありますけん、とりあえずオレが言っときます」
「わ、分かりました。わざわざすみません」
ここまで焦っている彼女に、警察まで行って冷静に話せというのも酷な話だ。分かる部分だけでもこちらで伝えたほうがいい。
「……ちゅうわけで、犯人は取り逃がした」
「お疲れ様です」
警察にあらましを伝えて村崎のところに戻ると、律儀にまったく同じ場所で待っていた。そういえばそういう奴だった。
しかしだいぶ放置してしまった。今日こそ勝負のつもりだったが、仕切り直さないとダメだろうか。
「すまんなほたっといて」
「いえ、さすがでした」
「さすが?」
「あそこで行動できたのは、土屋先輩だけでしたから」
「いや、子供のブザーやぞ? そら一応行くやろ」
「それでもです」
そういうものか。
しかしこれは好機。印象がいいに越したことはない。ここは勢いに乗じて……。
「……あ?」
「先輩?」
「ちょっと待て」
「はい」
さっきまで何考えてたかを忘れた。かなり考え込んでいた記憶があるが、防犯ブザーの音で全部吹っ飛んだ。
……いや、結論だけは覚えている。たしか。
「……なして真っ昼間に『月が綺麗ですね』やねん」
「先輩?」
「こっちの話」
「そうですか」
あの子供にも怪我はなかったわけだし、言い方は悪いが誘拐未遂女のおかげで助かった。あれがなければどうなっていたことか。
頭を冷やせば、何も難しく考えることはない。言えることなんざ限られているのだから。
「村崎」
「はい」
「今日は言いたいことがあってな」
「なんでしょう」
――交番。
「……というわけでして」
「友達のプロポーズを助太刀しようと思って? それでどうして誘拐未遂になるのやら」
「スミマセン」
「サングラスとマスクをつけていることを忘れていたようで……」
「スミマセンスミマセン」
「早乙女さんだっけ。お友達想いなのはいいけどねぇ、いい大人なんだからもう少し考えて……」
「スミマセンスミマセンホントスミマセン」
「わざわざ交番まで出向いてきたってことは本当に悪気はなかったんだろうし、今回は帰っていいから。もっと落ち着いて行動してね」
「ワカリマシタスミマセンスミマセン」
「土屋の奴、うまくやってるかな……」
コミカライズ始まりました!
始まりました!!!
https://comic-gardo.com/episode/13933686331624729973
青年マンガ風になってます。いい感じなので見てやってください。
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本屋が閉まっている今、書籍版のPRのためにもと思ってマンガの宣伝もやっているわけですが。よく考えたら、ここまで読んでる人が今さらマンガ版を読んだからって本を買うようになりはしないのでは……!?





